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クリスの物語Ⅱ #63 海底人ローワン

 外観に比べて、室内は近代的な造りだった。それに、思っていたよりも広い。

 玄関を入るとすぐにリビングがあり、テーブルや椅子が置かれていた。
 奥にはキッチンもあった。
 キッチンの左手には下へ下りる階段がある。

 床はブルーのタイルが敷き詰められていて、全体的に涼しげな雰囲気だ。

『おかえりなさい』
 奥の階段から女性がひとり上がってきた。

『おかあさん、ただいま』
 ラメクがかけていって抱きついた。

『いつも主人がお世話になっております』
 ラメクの頭を撫でながら、その人はぼくたちに挨拶した。
 色白で背が高く、伸ばした黒髪は腰までの長さがある。

『妻のアリューシャです』
 ローワンがその女性を紹介した。

 それから、ちょっと話があるから下を使うとアリューシャに告げて、ぼくたちを階下へと案内した。

 階段を下りた先には廊下が伸びていて、左右にいくつか部屋が分かれていた。
 一番奥の部屋にぼくたちは通された。

 部屋は小ぢんまりとしていた。
 隅に置かれたデスクには、設計図や機材、それに工具類が乱雑に積まれている。

『ちょっとお待ちください』

 ローワンがデスクの上をかき分け始めた。
 野球ボールのような白い玉を取り出すと、くるくるとそれを回した。
 すると、中央の床から直径3mほどのドーナツ型の金属が浮き上がってきた。
 さらに、真ん中にはマンホールのような小さな円盤が浮き上がっている。

『さあ、どうぞおかけください』
 ドーナツ型の金属をローワンが手で示した。

 マーティスが輪になった金属をまたいで淵に腰かけた。
 それにならって、ぼくたちもお互いが向き合うように金属の淵に座った。
 それから、マーティスがぼくたちを一人ひとりローワンに紹介した。

『それで、ローワンは今アトライオスに住んでいるのね?』
 ひと通りマーティスが紹介すると、ラマルを挟んで隣に座ったローワンにクレアが早速質問した。

『なんでセテオスを出て、こっちに住むことにしたの?』
『アリューシャと出会ったものですから』
 照れるように笑って、ローワンは鼻の頭をポリポリと掻いた。

『元々はマーティスと同様、セテオスとのパイプ役としてこちらへ駐在していました。地底都市と海底都市、お互いの優れたところを共有し合って、地球をより良い星にしていく目的です。
 ご存知だとは思いますが、そのようなやり取りはどの都市間でもかねてから行われています』

『それはもちろん知ってるよ。それで、奥さんと出会って、こっちに住むことにしたのね?』

 ローワンはうなずいた。

『でも、今もセテオスの駐在員として仕事をしているのでしょう?』
『いえ。アリューシャと結婚し、こちらで市民権を得て、私はもう海底世界の人間となりました。
 そのため、地底人としてセテオス中央部の任務を遂行するようなことはなくなりました』
『へぇー。それじゃあなんでマーティスと連絡を取り合っているの?』
 マーティスとローワンの顔を交互に見て、クレアは質問した。

『それは・・・』

 ちらっと一度マーティスを見てから、ローワンは続けた。
『私が海底人としてこちらで生活するようになってから、駐在員だった頃には見えていなかった部分が、色々と見え始めるようになったのです』

『ふーん。たとえば?』
『たとえば・・・そうですね。海底都市は、地底都市や風光都市などと同様に、地球の中でも高度な思想や意識を持った都市のひとつでした。だからこそ、地底都市も海底都市と深いつながりを持ち、関係を維持していました。
 ところが、実際のところは低次元の意識を持った存在が多く、海底都市のあちこちで争いが起こっているのです。それをどうやら海底都市評議会は銀河連邦に報告することなく、もみ消してしまっているようなのです』

『えー本当?』
 大げさなほど驚いて、クレアは聞き返した。

『そのことに、銀河連邦はずっと気づかなかったの?』

 ローワンは黙ってうなずいた。
 それから額を拭うと、顔を上げてクレアを見た。



お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!