クリモノ4タイトル入

クリスの物語Ⅳ #83 湧き上がる感謝

 気づいたら、コルソモルを前に、椅子に座る自分の中に意識が戻っていた。
 涙が頬を伝っていた。沙奈ちゃんも桜井さんも、泣きじゃくっている。

 田川先生は、ファロスの・・・ぼくのおかあさんだったんだ。
 先生はひとりで闇の勢力に潜入して、ずっと地球のために戦ってきたんだ。地球の年月でいえば、数千年という長い期間を・・・。

 あの時代、ファロスもエメルアもイビージャも死んでしまったけど、でも今こうしてぼくたちが地球に生きていられるのは、間違いなく田川先生のおかげだ。
 ぼくが大人になったら、田川先生のことを、アルタシアのことを子供たちに語り継ごう。
 かつてぼくのおかあさんだった人は、とても勇敢な英雄だったんだよ、と。今の平和があるのは、おかあさんのおかげなんだよ、と・・・。

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『それじゃあ、連絡をくれればいつでもまた迎えに来るよ』
 お城の上で、ハーディがいった。

 ぼくたちはアラミスに地球まで送ってもらい、エランドラやクレアたちとも別れた後、ハーディに世界中を案内してもらった。
 カナダへ行ってラフティングをしたり、グランドキャニオンへ行って雄大な景色を眺めたり、エベレスト山をヘリコプターで散策したり、ヨーロッパの古城を巡ったり。
 オーストラリアではコアラやワラビーとも触れ合ったし、中国では万里の長城に登ったりもした。
 最後は、沙奈ちゃんの希望に沿ってハワイに数日滞在してマリンスポーツを楽しんだ。
 最高の夏休みだった。

『ありがとうハーディ。そうしたら、また冬休みにどこかへ連れて行ってくれる?』
 ハーディに買ってもらった沢山の服やおみやげを手に、沙奈ちゃんが甘えるようにいった。
『もちろんだよ。予定がわかったら、早めに教えてくれよ』
 ハーディはそういって、ぼくたちみんなとハグをした。


「でも、この荷物持って帰ったら、おかあさんなんていうだろう?」
 ヘリに乗って去っていくハーディを見送ってから、桜井さんがいった。肩には、エンダが乗っている。
 結局エンダもグリフォンも、まだ地上にいても問題ないだろうということで、桜井さんと沙奈ちゃんがそれぞれしばらく育てることになったのだ。

「わたしはひとまず庭に隠しておいて、おかあさんがいなくなった隙に運びこもうと思ってるよ。それより、この日焼けを何て説明しようかと思って」
 真っ黒に日焼けした自分の腕を見て、沙奈ちゃんがいった。

 空港からヘリで戻っている間に、ハーディが銀河連邦に連絡をつけて、すでにぼくたちはパラレルワールドを移行していた。
 髪の毛はもちろん、ハワイを出る前にすでに染め直してある。

「夏休みもあと5日か。夏休みの宿題、やってあるかな?」
 ぼくがつぶやくと、沙奈ちゃんが肩をすくめた。

 それから、ぼくたち3人はしばらく無言で見つめ合った後、思わず吹き出した。話している内容が、あまりにちっぽけなことだったからだ。
「なんか、どうでもいいね」
 笑いながら、ぼくはいった。
「うん。本当、どうでもいい」と、桜井さんも沙奈ちゃんも笑ってうなずいた。

 こうして平和な地球があって、そこにこうして生きているというだけで、それだけで良かった。それだけで幸せに満ち溢れている。
 この幸せがあるのも、全部田川先生のおかげだ。
 そう考えると、自然と感謝の気持ちでいっぱいになった。

 ありがとう、田川先生。
 ありがとう、おかあさん。

 空を見上げ、ぼくは心の中でお礼をいった。
 すると、雲ひとつない真っ青な空に、体を寄せ合って微笑みかけるアルタシアとバラモスの姿が見えたような気がした。

クリスの物語 完

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 最後までお読みいただき、ありがとうございます。
 拙い文章に長々とおつきあいくださり、とても感激です。
 もしかしたら第二部としてまた続編を書くこともあるかもしれませんが、ひとまず「クリスの物語」はここで終わりにします。
 お読みいただけただけでもとても嬉しいですが、もしも、何かを感じていただけたならぜひシェアしていただけると最高に嬉しいです(≧▽≦)
 
 それでは、また会う日まで・・・


お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!