クリスの物語Ⅳ #58 最強の戦士
突然、バーンと大きな音がして、うしろの扉が開いた。ぼくたちは一斉に振り返った。
そこには、背の高い金髪の男の人たちが三人立っていた。
ソレーテに、ミデルとテイゲンだ。ぼくは、目を疑った。
なんでここにソレーテさんたちがいるのだろう?
ソレーテは入ってくるなり、ミデルとテイゲンに何かを命じた。
二人はうなずくと、剣を振りかざして宙に飛び上がった。そしてブツブツお経のようなものを唱えながら、天井の四隅に描かれた魔法陣を剣で切り刻んだ。
ミデルとテイゲンが床に着地するより早く、ソレーテが剣をかざしてカンターメルを唱えた。
「アヌギーレ・ロスウェプス」
すると、ソレーテの剣から緑色の電流が放たれてサタンを包み込んだ。それからソレーテが何かを唱え始めると、サタンはゆっくりとうしろへ向きを変えた。
「一体、どういうつもりだ?」
バルコニー席に座って、見物していた老人がいった。その目は、ソレーテに向けられている。
ソレーテはどうやらサタンを操っているようだ。
あれだけの力を持ったサタンを操ることができるなんて・・・。
ぼくは、ソレーテのすごさを初めて思い知った。
ソレーテが呪文を唱え続けていると、サタンが突然飛び上がってバルコニー席に乗り込んだ。上で見物していた人たちは、慌てて逃げまどった。
バルコニー席では、惨劇が繰り広げられた。
サタンはまるで粘土細工を与えられた子供のように、逃げまどう人間を捕まえては、握り潰したり、胴体を引きちぎったりした。
ネイゲルも呆気なくやられ、ザルナバンのトップらしき老人も無惨にやられている。
しかし、田川先生とスタンの姿が見当たらない。いつの間にか、サタンにやられてしまったのだろうか?
すると、どこからか「うっ」といううめき声が聞こえた。振り返ると、胴体を斬られたミデルが床に転がっていた。
あっと思ったときには、その隣にいたテイゲンの体もスタンの剣が貫いていた。
田川先生はどこだ?
周囲を見回すと、広間の中央で宙に浮かぶ先生の姿があった。
先生は宙に浮かんだまま頭上に剣を振りかざして、ブツブツ何かを唱えている。
先生の剣先には、白く大きな光の玉ができていた。煌々と光り輝くその玉は、まるで太陽のようだ。
田川先生は振りかぶり、「オンドーヴァルナーシム」と唱えサタンに向かって光の玉を投げつけた。
光の玉は龍となってサタンを飲み込むと、建物を破壊しながら外へ飛んで行ってしまった。
壁にはぽっかりと穴が空き、見物客やネイゲルの死骸も一掃されていた。
まさか、闇の勢力であるはずの田川先生も幻獣退治のカンターメルを発動させられるなんて。それも、サタンを消滅させられるほど強力なカンターメルを。
もしかしたら、田川先生が最強なのかもしれない。床に着地した田川先生を前にぼくは思った。
お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!