クリスの物語Ⅳ #23 ローマに到着
ローマの空港に到着した時刻は、現地時間で午後7時半だった。予定より30分も早い。
いつの間に調整されたのか、腕時計の針は現地時間を示していた。
夜7時を回っているというのに、窓の外は昼間のように明るい。
それにしても、眠気がもう限界だった。考えてみれば、日本時間でいったら今は夜中の2時半だ。いつもならとっくに夢の中にいる。
眠っていいとはいわれたもののみんな起きていたし、なんとなく眠らずにぼくも我慢していた。
飛行機が停止すると、すぐに空港の職員が機内に入ってきてマーティスと何かの手続きを交わした。
手続きはすぐに終わり、ぼくたちはキャビンクルーに案内されるまま飛行機を降りた。
降り立った先には、スフィンクスのようにどっしりと構えた黒塗りの大きな車が2台停車していた。
それぞれの車の脇に、白い手袋をはめた運転手が立ってぼくたちを出迎えてくれた。
前の車にマーティスとハーディが乗り込み、うしろの車にぼくと沙奈ちゃん、それに桜井さんが乗った。
ぼくがベベを抱っこして助手席に座り、沙奈ちゃんと桜井さんが後部座席に座った。
エンダの姿は見えないけど、たぶん桜井さんの着ている服のポケットのどこかに入っているのだろう。
車の座席は、さっきの飛行機の座席に劣らないくらい大きく立派だった。
快適なシートに身を預け、心地よい揺れに揺られているうちにぼくはいつの間にか眠ってしまった。
『クリス、一度起きようか』
目を開けると、助手席のドアを開けてハーディがぼくの体を揺すっていた。
『あ、ごめん。寝ちゃったみたい』
思わず謝ると、ハーディは首を振った。
『いや、いいんだよ』
ハーディはぼくに微笑んでから、後部座席のドアも開けた。
すると、沙奈ちゃんと桜井さんがもぞもぞと起き上がる気配がした。二人も寝ていたようだ。
時計の針は、8時15分を指し示していた。
そんなに長く寝たというわけではなかった。でも、少しだけ頭はすっきりしている。
車を降り、立派な柱に支えられたエントランスを抜けてホテルのロビーへと案内された。
ロビーの天井はとても高く、豪華なシャンデリアがいくつも垂れ下がっていた。
大理石張りの床には、大きな円の中に花をあしらったような模様がいくつも施され、アンティーク調のテーブルや椅子がそこかしこに置かれている。
まるで宮殿の中に足を踏み入れたみたいだ。
沙奈ちゃんも桜井さんも、感嘆の声を漏らした。
さらに、案内された部屋は最上階にあるスイートルームだった。
広いリビングがあって、2つの寝室に2つのバスルーム、それに書斎まである。
ハーディとマーティスは、同じフロアの別の部屋へそれぞれ泊まるということだった。
食事はいらないかとハーディに聞かれたけど断った。夕飯はもう食べたし、それに何より早く眠りたかった。
『もしお腹が空いたら、ルームサービスは自由に頼んでもらって構わないよ。それと明日は午後まで予定がないから、ゆっくり眠るといい。起きたら、ホロロムルスで知らせてくれよ』
そういって、ハーディはマーティスと一緒に部屋を出ていった。
「とりあえず寝ようか」
ソファに腰かけたまま沙奈ちゃんと桜井さんに声をかけると、二人とも眠たそうな顔で賛成というようにうなずいた。
寝室には、それぞれベッドが2つずつ置かれていた。
沙奈ちゃんと桜井さんが奥の寝室で寝ることになり、ぼくとベベはリビング手前の寝室を使うことになった。
腕の中で眠るベベをベッドの足もとに置いて、ぼくは用意されていたパジャマに着替え、お風呂にも入らずにベッドに横になった。
横になるなり、たちまち眠りの中へと吸い込まれた。
お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!