クリスの物語Ⅳ #54 無人の城
『あそこだね』
その後も闇の勢力の襲撃を受けることなく順調に歩を進めていると、いきなりハーディが立ち止まった。
ハーディの視線の先には、暗闇の中まるで幽霊屋敷のように浮かび上がる、大きなお城があった。
前世の記憶の通りだ。まさかそのまま残っているなんて。
所どころ壁が崩れてはいるけど、お城は当時のままほぼ原形をとどめている。
お城を前に、全員が無言で立ち尽くした。
いよいよやってきたかと思うと、握った拳に自然と力が入った。
『本当にあれが本拠地なの?なんか誰もいそうにないけど?』
あたりがシーンと静まりかえる中、クレアの思念が飛んできた。
いわれてみれば、たしかにそうだ。勝手にこのお城が本拠地だと思い込んでここまで来たけど、お城の中は真っ暗だった。
結局、その後一度も闇の勢力に出会うことはなかったし、もしかしたらすでに場所を移してしまっているのかもしれない。それか、最初から読みが外れていたか。もしくは、やっぱりさっきのハウエルが実は最後のボスだったか。
門番がいるわけでもないので、ぼくたちは構わず玄関前まで移動した。
正面の玄関には、頭上を仰ぎ見るほど高く大きな鉄製の扉がついていた。
重厚な扉は見るからに重たそうで、ひとりでは押すことさえできそうにない。
「トランスアデーレ」
鉄の扉に手をかざして、ハーディがカンターメルを唱えた。
そのカンターメルはぼくも知っている。透視の魔法だ。中の様子を探っているのだろう。
かざしていた手を下に降ろすと、ハーディは振り返って首を振った。
『見える範囲に人がいる様子はないな。ひとまず僕ひとりで行ってみるよ』
ハーディがそう申し出ると、クレアが首を振った。
『いいよ。この際、みんなで行ってみようよ。これだけそろっていれば大丈夫でしょ』
さっきの戦いで自信がついたのか、クレアは強気な発言をした。
ここにはクレアを除いた7人に、ベベとエンダもいる。それに、セトを倒したホルスも、沙奈ちゃんのバックについている。
クレアの提案に、ぼくたちもみんな同意した。そもそもさっきあれだけ派手な戦いをしたわけだから、作戦も何ももはや関係ないだろう。
『オーケー。じゃあそうしよう』
肩をすくめてから、ハーディは納得するようにうなずいた。
それから扉に向かって「プラレッシオ」と、カンターメルを唱えた。すると、扉に人がひとり通り抜けられるほどの空間ができた。
『さあ、行こう』
ハーディを先頭に、ぼくたちはお城の中に足を踏み入れた。
お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!