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人類は今後どのような方向を目指すべきか〜脳と人工知能の比較から〜

こんにちは。東京大学医学部を卒業後、医師かつ脳神経科学や人工知能の研究をしている紺野大地と申します。

脳神経科学と人工知能の研究をしていると、
「脳が人工知能よりも優れている点は何ですか?」とよく質問されます。

数年前までは、
「脳が人工知能より優れているのは、様々な場面で柔軟に対応できる汎用性やクリエイティビティである」などと答えていました。

ですが近年の人工知能の進歩を見ていると、
「脳が人工知能より優れている部分がどんどん減っている」と感じざるを得ません。

「地球上で最も賢い種」というアイデンティティを失いつつある人類は、今後どのような方向を目指すべきなのでしょうか?

以下では脳と人工知能の違いに注目して、私なりの考えを述べていきます。

脳と人工知能の違い

脳と人工知能の違いのうち、私が特に重要だと思っているのは、
「脳が生身の身体と接続されていること」です。

なぜこれが重要なのでしょうか?

脳は生身の身体と接続されているが故に、我々には「身体に紐づいた感覚や感情」があります。

例えば、高いところから落ちて内臓がゾワっとするあの感覚や、好きな人に告白する時のあのドキドキは、誰もが身体感覚として理解できると思います。
これらは、脳が生身の身体と繋がっているからこそ生まれます。

人間は感覚や感情を「言葉」でなく「心」で理解できる
(出典:『ジョジョの奇妙な冒険』)

たしかに最近のAIの進歩は凄まじく、
「このAIは感情を持っているのではないか?」と感じることもあります。
AIに「高いところから落ちることを想像するとどう感じますか?」と質問すれば、「強い恐怖を感じます」などと回答するでしょう。

ですが彼らには生身の身体がないため、私たちが高いところから落ちる時に感じる「あのゾワっとした感覚」を身体感覚として理解している訳ではありません。

これらの感覚は、人間が有機物でできた生身の身体を持つからこそ感じるものであり、数十万年という進化を経て成立しています。

いずれAIもロボットの身体を手に入れるでしょうが、「高いところから落ちる時のあのゾワっとした感覚」は様々な神経活動やホルモンといった有機物を土台としているため、無機物の身体には(少なくともしばらくは)生じない可能性が極めて高いです。

無機物で構成されるAI(左)と、有機物で構成される人間(右)

人類は今後どのような方向を目指すべきか

この「脳と生身の身体が接続されていること」こそが脳と人工知能の大きな違いであり、人類にとってのギフトだと私は考えます。

好きな人に告白する時のあのドキドキや、最愛の我が子を抱きしめた時の幸福感を身体感覚として感じられることは、人生を本当に豊かにしてくれます。

人類は地球上で最も賢い種から脱落しつつありますが、もはや頭の良さはAIに託して構わないと私は考えています。

それよりも人類は「生身の身体を持つがゆえに感じられる感覚や感情」を大事にし、より豊かな人生を生きる方向に向かうのが良いのではないか、というのが私の主張です。

一方で、人類は感覚や感情を持つがゆえに、うつ病や認知症といった脳の病気で苦しんでしまう方々も数多く存在します。

私が研究している脳神経科学やブレインテックは、人類がより豊かな人生を送ることにも、これらの病気で苦しむ人々を救うことにも大きく貢献できます。

脳神経科学やブレインテックの研究を通じて、人類が今よりずっと豊かで幸せな人生を送れる未来を創る。
この目標を実現するために、今後も研究に取り組んでいきたいと思います。

おわりに

この記事は、新緑の上野公園で執筆しました。
記事を書き終えた正にそのタイミングで春風が頬を撫で、とても爽やかな気持ちになりました。

この爽やかな気持ちをAIは(少なくともしばらくは)感じることができないと思うと、人間に生まれて良かったなと感じます。

この記事を最後まで読んでくださった皆さんが感覚や感情豊かなGWを過ごせることを祈り、記事を終わりたいと思います。
ではまた。

新緑の上野公園。1年で最も好きな季節です。

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