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米アカデミー賞で見えた日本の未来?

先日、米アカデミー賞の授賞式が行われ作品賞に韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』が選ばれました。

http://eigaz.net/prediction/2020.php

私も鑑賞しましたが、貧困・格差社会・家族愛と世界共通の普遍的なテーマが描かれ、尚且つそれをエンターテインメント作品に仕上げている。まさに受賞作に相応しい作品だと思います。

しかし、私が子どもの頃の80年代以前は、韓国映画が世界的に評価されるなんて考えられなかったんですよ。日本映画の方が圧倒的に世界的な評価が高かったんです。それが今は完全に追いつかれたか?もしくは追い越されたと言っても過言ではないのではないでしょうか?

なぜこのような状況が生まれてしまったのか?

50年代60年代の日本映画黄金期には、映画会社には助監督システムという人材育成システムが確立していたのです。

監督志望で映画会社に入社した者は、最初は大道具や衣装などに配属され、仕事の流れを覚えてから移動していきます。一周して全ての部署の仕事の流れを覚えてから、最後に助監督として一線級で活躍している監督の下について、現場の流れや演出の付け方などを学び、そして監督デビューをするわけです。

だから、デビューする時には映画制作に関わる全ての知識を得ているということになります。

しかし、映画界が斜陽になり始めて、人材育成に時間とお金をかけることが出来なくなり、このシステムは崩壊します。それでも設備投資などして技術革新を行ったり、若手をアメリカにSFXの勉強に行かせるなどの先行投資をしていけばよかったのですが、各映画会社は経営を安定させる為に、不動産投資したり、当時流行っていたボーリング場を建設したりと、目先の利益だけに走っていきます。

結果的に技術的な進歩は遅れ、人材育成も出来ずに、現場もブラック業界そのものになっていきます。

こちらにポン・ジュノ監督と是枝裕和監督の対談の模様があります。

https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2020/02/0209_2.html

この中に是枝監督のこんなコメントがあります。

『是枝)僕は今回はじめてフランスで1日8時間、週休2日で撮影しました。長い撮影期間で、一度も体調を崩さなかったし、スタッフは撮影が終わったら家でご飯が食べられるから、シングルマザーも現場で働ける。日本では考えられない、恵まれた環境でした。最初は明るいうちに撮影が終わってしまったら「ちょっともの足りないな、大丈夫かな」って気持ちはあったんですけど。撮影が進んでスタッフの心労も溜まってきたときに、結果的にはそのルールが撮影現場のスタッフと役者を守ってくれるという。いまの日本だと、現場の負荷が一番弱い、若いスタッフに向かってしまうので、急速に変えていかないと。多分そこは韓国のほうが進んでいると思います。僕は若い人たちに対して責任があるので、日本の現場をなんとかしなきゃなと考えています。』(引用)

日本映画の撮影現場って、低賃金の長時間労働でパワハラ・セクハラが当たり前のようにあるんですよ。

そして、それらに対する不満は『良い映画作りたいんだろう‼️』『お客さんのためだ‼️』などの精神論で片付けられます。

前に映画界にいた私の知り合いは、先輩にボコボコにされて肋骨を骨折したことがあります。当然謝罪もないし、その先輩に対してのペナルティなんてものはありません。そして、とある脚本家の話では、ゲイの有名監督に肉体関係を強要されたそうです。その人の名前は未だに映画史に燦然と残っています。

そして、今回のアカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞の二度目の授賞を果たしたカズ・ヒロさんという方がいらっしゃいます。

http://eigaz.net/makeup/

この人は一度目の受賞の時は辻一弘さんという日本人だったんです。でも、その後にアメリカに帰化してしまったので、今回はアメリカ人として授賞されたわけです。

そして、このカズ・ヒロさんが授賞式後の会見で、日本の経験が受賞に生きているのかを聞かれて・・

カズ・ヒロさんは「こう言うのは申し訳ないのだが、私は日本を去って、米国人になった。(日本の)文化が嫌になってしまい、(日本では)夢をかなえるのが難しいからだ。それで(今は)ここに住んでいる。ごめんなさい」 と答えたのです。

その他のインタビューでも・・

カズ・ヒロさん「日本人は、日本人ということにこだわりすぎて、個人のアイデンティティが確立していないと思うんですよ。だからなかなか進歩しない。そこから抜け出せない。一番大事なのは、個人としてどんな存在なのか、何をやっているのかということ。」 

と答えています。

日本社会特有の同調圧力というやつです。

劣悪な労働環境を精神論で押さえつけ、同調圧力によって誰も文句を言えない雰囲気を作り出し、個を抹殺していく・・尚且つ、技術革新などに先行投資をしていくわけでもない。

こんな環境では、才能があればあるほどやりたがらないでしょう? 海外に行けばもっといい環境で映画を作れるし、クリエイティブな才能のある人からすれば映画だけが表現の手段ではないのですから・・だから、日本映画界から優秀な人材がいなくなっていき韓国映画に追いつかれ、そして追い抜かれていっているわけです。

しかし、これは映画界だけの話ではなく、あらゆる業界で言えることではないでしょうか?

企業は人件費を削るために非正規雇用を増やす。いつでも切り捨てられるので人材育成などは行う必要がないし、待遇や環境などの改善を求められることもない。あらゆる業界でそんな事例がまかり通っています。だから、優秀な人材は待遇の良い外資系の企業に就職してしまうし、独立を考えている人も規制の少ない海外で起業しようとするわけです。

勝ち組と負け組の境界性は、海外に仕事の拠点を移すことが出来るかどうかで決まってしまうのです。

だから、国内に残るしか道がない人間は、どんどん小さくなる日本市場の中で、労働者として低賃金で劣悪な労働環境で働くしかないわけです。

これが近い将来の日本の姿になるのではないでしょうか?

これを回避する為には・・

◯企業だけではなく国も協力して労働環境を良くしていく。

◯教育無償化を始めとした人材を育成していく政策を実施していく。

◯将来性のある研究などには補助金などをどんどん出して、国内でそれが実現出来るように後押しをしていく。(これは行政ではなく企業が行った方がいいが)

◯規制を緩和して、豊かな発想を実現出来る土壌を作る。

◯お互いの個性を認め合いダイバーシティを実現する。

最低でもこういうことを早急に実行していくべきではないでしょうか?

じゃなきゃこれから先は外国の活躍をただ眺めて、「昔は日本の方が上だったのにな・・」なんて嘆くだけの哀れな状態になってしまうのではないでしょうか?

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