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役員のなり手不足に対応するために、 株式会社の機関設計をミニマル化しませんか? (その1)

※本稿は弊グループのメールマガジン『第一事務所通信』(令和3年3月17日配信分号)を転載したものです。本稿の記載内容は配信日現在の法令等に準拠しております。

※本稿において「会社」は、株式会社を想定しております。


【役員のなり手不足】

「役員のなり手がいない…」

最近、筆者が会社経営者の方とお話ししていると、時々このようなお話を耳にします。

2018年版の中小企業白書(※)には、業種により異なるものの、約41%~69%の中小企業が中核人材(「組織の管理・運営の責任者となっている人材。」・「複数の人員を指揮・管理する人材。」等の4種類の定義があります。)が不足との回答をしているアンケート調査の結果が掲載されており、役員のなり手不足が一般的な問題であることが伺えます。(※https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf)

このような役員のなり手不足の問題を本質的に解決するには、社内育成・外部招へい等により、人材を確保することが必要です。

しかし、人材確保には時間がかかるため、当座の対応として、役員として業務を行ってもらう予定がない人を、頭数合わせのために、役員に選任して登記をするケースがあるように思われます。

おじさん ざんねん

【名目的役員のリスク】

このような業務実態のない役員(名目的役員)を選任して登記すると、どのようなリスクがあるでしょうか。

1つの例として、役員の「第三者に対する責任」を挙げることができます。

会社法429条1項は、

「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」

と、規定しています。

会社が業務を行う中で第三者に損害を与えた場合で、その損害が役員の悪意(知っていること)や重過失(重大なミス・不注意)に基づく場合、役員が個人として損害賠償責任を負う場合があるという規定です。

では、役員の第三者に対する責任は、役員が名目的役員であることを理由に免れることが可能でしょうか。(「自分は名ばかりの役員で業務の実態はないので、責任はありません。」と主張して責任を逃れることが可能でしょうか。)

これについては、最高裁判所の判例があり、

名目的役員であったとしても、第三者に対する責任を完全に免れることはできないことが示されています。(最判昭55.3.18判時971号101頁)

従って、仮に名目的役員であっても、会社が事業を行っていく中で第三者に損害を与えれば、第三者に対する責任を問われて、個人として損害を賠償しなければならない事態になる可能性があります。

会社としては、ある意味善意で名目的役員になってくれている方に、そのような責任が発生することは、絶対に避けたいところでしょう。

このようなリスクを負わないためにも、

『役員としての業務実態のある人の範囲』と

『役員として選任され登記される人の範囲』とは、

しっかりと一致させるべきです。

機関設計

【名目的役員が生まれる原因<機関設計>】

では、なぜ、業務実態のない人を役員に選任し登記するような事態が、発生するのでしょうか?

司法書士の目線で見た場合の1つの原因は、会社の「機関設計」です。

会社法には、株式会社の機関として、

・株主総会
・取締役
・取締役会
・監査役
・監査役会
・会計参与
・会計監査人

等が定められています。

「機関設計」とは、会社法に規定された機関のうち、「自社にどの機関を置くか?」を決めることです。

機関設計は、「当会社に取締役会を置く。」といった形で会社の定款に規定され、「取締役会設置会社」等と登記簿にも記載されます。

したがって、自社の機関設計の原状は、定款と登記簿を見れば、確認することができます。

特に歴史のある会社では、機関設計は次のようになってることが多いです。

「株主総会+取締役会+監査役」(★1)

会社法上、取締役会を置くには取締役が3名以上必要です。また、監査役(=機関)を置くには、監査役(=役員)が1名以上必要です。

したがって、★1の機関設計を維持するためには、最低でも「取締役3名+監査役1名=計4名」の役員を確保することが必要ということになります。

これが、名目的役員が発生してしまう原因です。

★1の機関設計によって法律上最低4名の役員が要求される結果、既にご高齢で体力的に役員として勤務することが難しい方を役員として維持したり、反対に、まだ経験が浅く役員に就くには尚早な従業員を役員に選任したりしてしまうのです。

つまり、★1の機関設計に縛られて、やむを得ず名目的役員を選任している状態です。

当該名目的役員が、損害賠償義務を負う危険性があるのは上記のとおりです。

また、会社としても、業務実態の無い方が名目的に役員に名前を連ねていることは、登記簿等の外形と業務の実態が乖離しており、好ましいことではありません。

なお、歴史のある会社で★1のような機関設計になっていることが多いのは、平成18年の会社法施行の前には、株式会社には、必ず取締役会と監査役を置かなければならなかったことによるものです。

おじさん 一人

【名目的役員がいなくてもよいようにするには<機関設計をミニマル化>】

会社法におけるミニマルな機関設計は、

「株主総会+取締役1名以上」(★2)

です。

★2の機関設計では、役員として取締役1名(=代表取締役=社長)だけがいればよく、★1の場合のように4名の役員を確保する必要はありません。

これであれば、★1のように機関設計に縛られて、やむを得ず業務実態のない役員を選任・登記する必要が無くなります。

したがって、名目的役員がいなくてもよいようにするには、自社の機関設計を、

★1「株主総会+取締役会+監査役」 から、

★2「株主総会+取締役1名以上」へ、

変更(機関設計のミニマル化)すればよいわけです。

定款

【機関設計変更の手続き】

機関設計を★1から★2へ変更して、機関設計をミニマル化するには、どのような手続きが必要でしょうか?

重要な点は、★2のミニマルな機関設計において必要な役員が取締役1名以上だからといって、社長(=取締役1名)以外の取締役・監査役に辞任してもらうだけではダメということです。

上述のとおり、機関設計は定款に規定されていますので、機関設計を変更してミニマル化するには、定款を変更する必要があります。

また、定款の変更は株主総会の決議事項ですので、株主総会を開催する必要があります。

したがって、★1から★2へ機関設計を変更するには、「株主総会を開催して定款変更の決議」を行えばよいということになります。

定款変更のための手続の詳細や、具体的な変更方法については、次号のメルマガでご案内いたします。


【ご案内】

当事務所では、機関設計のミニマル化を含めて、会社の機関設計のお手伝いに力を入れています。自社についてのご相談、関与先企業様についてのご相談などございましたら、ご遠慮なくお問い合わせくださいませ。

司法書士法人第一事務所 

司法書士 神沼 博充

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