見出し画像

北朝鮮版SPY×FAMILY? 『レッド・ファミリー』鑑賞

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00UL2KFNE/ref=atv_dp_share_cu_r

『レッド・ファミリー』という韓国映画を観た。
一言でこの映画を宣伝しろと言われたら、「北朝鮮版SPY×FAMILY」と言うと思う。
何しろ、娘、父、母、祖父の四人から成る家族全員が北朝鮮の工作員なのだから。もちろん、全員血がつながっていない。彼らは「家族」のふりをしたチームに過ぎず、主に暗殺などの与えられたミッションをお国のためにこなしていくのだ。

最初の頃こそコメディチックなのだけれど、それは長くは続かない。
工作員たちは北朝鮮に家族がいて、もう長いこと会えていなくて、その家族は国に人質にとられているに等しいため、彼らは指令を受けたらそれに従うしかないのだ。命令を受けて規則正しく動く機械の部品のように。

偽の家族を演じているものの、それぞれがそれぞれを思いやり、時に嘘をつき、隠し事をし、「家族」のために画策し、そしてそのせいで、物語は一気に悲劇的な方向へと進むことになる。

この工作員家族のお隣さんは普通の韓国の家族なのだが、お隣さん一家は決して温かな家庭ではない。
家事をろくにせず、散財し、あげくサラ金から借金をする母、暴言を吐く父、その両親にいら立つ息子と祖母。
全然憧れない家族なのに、工作員一家は、最後の最後に、彼らの喧嘩を一言一句たがわずに慟哭しながら演じるのだ。夫婦喧嘩の完コピ。諫める祖母のセリフから息子の振る舞いから何もかも全部完コピ。

ネットの感想をみた限り、この「家族ごっこ」を白けた目で見る人もいるようだが、私は悲痛な思いに満ちている、涙を禁じ得ない場面だと思った。

表現手法としては陳腐と言えば陳腐かもしれない、でも、こんな「家族ごっこ」をしなくても彼らはきっとすっかり家族だった。

この映画にも、ほんの少しだけ希望はある。
それは、北朝鮮工作員の娘とお隣さんの韓国人少年との恋。
互いに互いを尊敬すること。この二つの国にそれが波紋のようにやがて広く伝わっていってほしい。

それにしても、お国のため、人民のためって何なんでしょうね?
手にできたはずの平穏を奪われ、個人の幸せが踏みにじられて犠牲になっても、それはお国のためなんですかね?

愛国心は植え付けるものでも、育てるものでもないだろう。
自然に湧き上がってくる感覚であるのが、本来の「愛」なのでは?

私たちは、美しく聞こえるように唱えられる虚飾にまみれた言葉に惑わされず、国家が持つ権力とそれによる暴力性にもっと気付いていいはずだ。

「人間らしく」生きるために。


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?