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ショートショートの館

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これまでの足跡。コンテストの応募作品は【各コンテスト参加作品】のノートに纏めています。
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2018年8月の記事一覧

【小説】始業式の風とキミ

【小説】始業式の風とキミ

随分としつこく居座った冬の厳しさがやっとこさ落ち着いて、
ぽかぽかした空気に眠気が止まらないある日。

今日は始業式。

久しぶりにきみが歩いてくるのを見かけたんだ。

相変わらず顔は俯いていた。

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ボクはきみがどんな顔をしてるか知らない。

きみを初めて見かけた日、
あの日は風が強くって、
ボクは立っているのに精一杯だった。

ただでさえ歩きにくい急な

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【モチーフ小説】オレンジ色のガーベラ

【モチーフ小説】オレンジ色のガーベラ

さくらももこさんに捧ぐ。
あなたのエッセイで人生を知り、あなたの生き方に太陽のような普遍性を感じました。
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その女の子は、今日も笑顔を教室中に振りまいている。

最近のぼくはというと、その太陽みたいな彼女にすっかり夢中になっている。

はじめは「明るい笑顔」だなんて、そんなものがあるのか、例え話くらいにしか信じていなかったけれど、彼女の笑顔を見つめるうち、

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【モチーフ小説】東京

【モチーフ小説】東京

東京に来て3年も経つというのに、一向に都会での生活に慣れる気配は無かった。

春子は今日もベランダで高層ビルに埋め尽くされた空へ向ってため息をつく。

また彼と喧嘩をしてしまった。

春子を東京の街へ招いたのは彼だった。

人混みや喧騒が苦手で、彼に東京での同棲の話を持ちかけられた時は、どうしても明るい表情を見せる事が出来なかった。

それでも、彼だから、と。

彼とだったら、辛い暮らしも乗り越え

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【イケハヤモチーフ小説】炎上した男

【イケハヤモチーフ小説】炎上した男

3日前、僕は炎上した。

それはそれは、見事な燃えっぷりであった。

きっかけは、SNSでの僕の発言だった。

当事者でもない人間達から謝罪を求められる。

その感覚はとても奇妙なものだった。

謝る理由はないが、僕は謝った。

何故だか、炎の勢いが増した。

すぐに謝ることを止めた。

何故だか、更に炎の勢いが増した。

僕はどうしたらいいのか分からなくなった。

日の明るいうちに外に出るのが怖

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【モチーフ小説】産声をあげて

【モチーフ小説】産声をあげて

我が家のある一室、タンスの前に私は立つ。

さて、今日はどこを開けようかな。

おもむろに上から2番目の抽斗に手をかけた。

木箱がそろそろとせり出し、部屋の中があらわになっていく。

そこではベッドの上でロボットの赤ちゃんと人間の赤ちゃんがスヤスヤと寝息を立てていた。

あら、ちょっと早かったみたい。

もう少し、自分から起き出してくるまで寝かせておこう。

部屋を抽斗に戻していく。

今日のと

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【小説】いつかのアサガオ

重い。

荷物、もっと、計画的に持って帰ってくるんだったな。

今にもはち切れそうなくらいに膨らんだランドセルが背中をいじめる。
手提げに入った絵の具が腕にぶらさがる。

何より両手に抱えたこのアサガオの植木鉢が、信じられないくらい重い。

夏休みだからって、なんで家に持って帰らなきゃいけないんだろう、面倒くさいな。うわ!

ゴトン。手がすべった。

僕の手を離れ、バランスを崩したアサ

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