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最高の履物「草鞋」が持つ4要素

フットウェアデザイナーなので職業柄毎日何時間も靴の事を考えてますが、10年ほど前からワラジ(草鞋)こそが最高の履物だとつくづく思うようになりました。と言っても何が最高か?というのは「最強の生物は何か?」と同レベルでいろ〜んな観点での回答があるので決める事は本来ナンセンスなんですが、個人的に4つの観点をチョイスして考察してみました。

草鞋の歴史

本題に入る前にまず草鞋と日本での歴史についてざっと触れてみます。
草鞋が日本に入ってきたのは遣唐使によるものらしく奈良時代(8世紀頃)だそう。当時はサンダルタイプではなくクツタイプで、そこから日本独自の鼻緒式の草鞋に改良されていったとのこと。(その前からクツは朝鮮半島から入ってきており、古墳にも副葬品として収められてるようです)
もっと前の稲作始まった頃からあるのかと思いきや、全然クツのほうが先なんですね〜

絵画では鎌倉〜室町期には足軽が履いてる描写も蒙古襲来絵詞(1239年)で残ってますね。もっともそこで描かれてるのは「足半(アシナカ)」という底面前半しかない草鞋の1種です。なおワラグツ(藁履)も日本各地に分散していき、とくに寒冷地方で適応していきました。フカグツ(深履)や藁製のキャハン(脚絆)とかはよく見るかも。

さて、いま現在我々がクツと言ってイメージするのは紐で結ぶスニーカーか革靴だと思うのですが、これはどちらもオックスフォード式という履物の1カテゴリーであり、革靴のほうは17世紀後半、スニーカー至っては20世紀に入ってから広まっただいぶ新しいタイプのものです。
(このへんは後日別記事でまとめてみたいと思います)

ここでお伝えしたかったのは、日本での歴史においても草鞋はこれだけ長く着用されてるという事(世界まで拡げるともっと前)。しかも農民や下級武士(もとは農民)といった貧困層にも履かれてるんです。本来クツというのは官位の高い人間しか着用を許されないものだったんですが、民具としてリ・デザインされて適応放散していったのが草鞋です。
それはなぜか??その理由の1つがこちら。

1.原材料の調達が容易

なんてことない、プロダクト作る上では重要な事ですね。昔の農民/下級武士は極度の貧困層ですから、当然買い物なんて出来ません。現代の金銭感覚だったら1日の所得が家族4人で2ドルとかなのでは。そんな彼らでも作れるものといったら身の回りにある材料しかないんですよね。そんな中で定期的に調達できる材料が、「藁」だったのです。
どんな人でも手軽に手に入る材料で作る事ができる履物はそうそうありません。特に現代だと考えられない。

2.原材料が食の二次産物

ここで2つめのポイント。
「藁」は世界的にめちゃくちゃ広く使用されてきた原材料の一つです。なぜかというと
①人類が農業革命を起こして世界的に稲作を始めたから。
②イネの茎は強い繊維質だったから。

藁葺き屋根、藁布団、俵(タワラの語源は“田藁”らしいですね)はたまた家畜の飼料や燃料として火口にも使われる万能オブ万能の材料なのです。ちなみにヨーロッパでは木靴の中にインソールとして藁を入れてることもあったり。大阪にある国立民俗博物館で現物を見る事ができます。ちなみに自分はベルギーのブルージュ民俗博物館で初めて現物を拝みました。あの時はシビれた…

長くなりましたが藁がこれだけ広がったのはとにもかくにも稲作があっての事なのです。というか本来、履物の材料の多くは食の二次産物が原材料だったのです。草鞋と革靴もそう。(牛革豚革はほとんどが食肉加工の副産物、のはず)

3.廃棄時に100%燃料として再利用可能(サスティナブル)

ここ数年でサスティナブル潮流がものすごい勢いでシューズ業界も並々ならぬその流れの渦中にいますが、草鞋や木靴(下駄含む)こそまるっきりサスティナブル。上述の通り、竈にぶちこんで調理風呂焚きの燃料として即刻有効活用可能です。革靴も金属部分以外だったら生分解可能ですけどね。

4.着用者が自作可能

下駄とか木靴になると専用の工具が必要になるので専門の職人がいたりしたのですが、草鞋は縄を足指に引っ掛けて作れます。農民の冬の間の大事な仕事でもあったみたいですね。擦り切れるのも早い消耗品だし、ストックしておく必要があるので。この「自作可能」は草鞋特有のものというわけじゃなく、革を袋状に縫いこんで作るモカシンも自作可能な履物の代表的な1つですね。どちらも民具として発達してきた素敵な履物です。なおモカシンは歴史が相当古く、6000年前のものが発見されてた?ような…(調べたところ4万年前からあったという記述も。グレート…)


最後に

食の副産物として、容易に材料が手に入り、使い終わった後はライフサイクル中で完全に循環され、民間人が自作可能、というロイヤルストレートフラッシュな最高の履物「草鞋」。
私自身、数々の靴を設計・デザインしてきましたが、おそらく草鞋を超えるフットウェアは自分が生きてる50〜70年くらいのうちには生み出せなさそうです。残念だけど。

でも、現在のサスティナブルの潮流が今後も続いていき、この4つの条件をクリア出来るような材料や製法が200〜300年後とかに出てきたならば、草鞋を超えるフットウェアが世界に誕生するかもしれませんね。
そういう履物、デザインしてみたいなあ…

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