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アメコミ最高傑作『ウォッチメン』を語る

君は『ウォッチメン』を知っているか

映画化されたこともあり、その名を耳にしたことのある者もいるかもしれない。その初出は86年。伝説的なヒーロー作品。(ではなくミステリー)
今では多くのアメコミが映像化されMARVELやらDCやらアヴェンジャー最高!みたいなブームで映画館を沸かせている。

そのアメコミが子供向けヒーローものだらけになったのには理由があって、元々アメコミって言っても恋愛ものもあれば冒険ものもあった。ところが1940年代後半から1950年代前半初頭で現代漫画でよく見られるようなバトルもの、暴力的で残虐なモノが大流行した。そのため各出版社にコミックス・コードという規制が立ち上がりそうになりそれに対して出版社が自主規制した結果単純な勧善懲悪のヒーローモノだらけになってしまったという流れがあった。

しかし時が経つにつれ、ヒーローコミックの内容も進化していきストーリにも文学性やシリアスなドラマを内包した作品が増えていった。そんな時代背景にDCコミックが1986年、満を辞して世に発表したのが…
この『ウォッチメン』だ!

SF作品の最高峰の賞であるヒューゴー賞をコミックで唯一受賞、タイム誌の長編小説ベスト100にも選ばれた快挙を成し遂げたアメリカンコミックの未来とも言うべき最高傑作。…それがウォッチメンだ。

テーマは「ヒーローへのアンチテーゼ」

もし現実世界に職業ヒーローが存在していたら?
本当にスーパーパワーを持った超人がいたとしたら?
国は、一般大衆は、世界は一体どうなってしまうのか。

そんなありそうなIF的ファンタジーに、やたら現実と辻褄の合うリアリティーを与えたり、コミックの世界の中で別のコミックが展開していたり、小説が発刊されていたり、それもストーリーには無関係に見せかけ実はちゃんと伏線回収したりと、当時としては斬新すぎる演出とクオリティのストーリーを持ったモンスター作品だった。

果たして、現実にヒーローは必要なのだろうか?
世界に平和をもたらすのはヒーローだろうか?

あらすじ(序章)

冷戦で核戦争の危機が、地球の存亡の危機が目前に迫る1985年のアメリカ、ニューヨーク。アメリカ政府公認の者以外のヒーロー、自警活動を禁止する「キーン条例」が制定された。

かつてヒーローと名乗るもの達が悪者(とよばれるもの)を退治していた。そのチームの名は『ミニッツメン』。これはミニットマンと呼ばれるアメリカ独立戦争で戦ったした民兵の呼称で。「呼ばれたら1分(1minute)で準備を整える兵」に由来する。

つまりアメリカの国のために戦った非正規の民兵たちをモチーフに、現実とリンクさせたストーリーなのだ

極彩色のコスプレ集団に見えるが、これが元祖ヒーローミニッツメンだ!

いつまでもヒーローという自警団をのさばらせておけない政府だが、多くの恩恵にあずかった事実もある。それが引け目となり単純にやっかいになったこの「ヒーローチーム」を解散させられない背景がある。このヒーロー、自警活動を禁止する「キーン条例」に繋がっていったと推測できる。
戦争時には必要とされ、平和な時には疎まれる軍人の悲しさがファンタジーに紛れたリアリティとして描かれている。

そんな日々を送る中一人のヒーローが殺される。
男の名はエドワード・ブレイク。『コメディアン』という名でヒーロー活動するキーン条約後も合法的な活動が許されたヒーローだった。
ストーリーはコメディアンが殺されたことで幕を開ける。

彼の死を知った非合法で活動する違法自警団もといダークヒーロー
主人公『ロールシャッハ』は、「これはヒーロー狩りではないのか!?」と勝手に思い込み、かつての仲間達に警告しながら独自に調査を開始。やがて人類の行く末を左右するほどの、巨大な陰謀がと対峙することになるのだが…

ここからアクの強すぎる、クセの強すぎる登場人物を紹介していく。

登場人物紹介

ロールシャッハ/名前:ウォルター・ジョゼフ・コバックス

本作の主人公。他のキャラも濃すぎて主人公だと断言できないが主人公。
白地に黒の模様がランダムに動き回るロールシャッハテストのような図柄のマスクとトレンチコート、キーン条例後も違法に自警行為を行い続ける危険人物ダークヒーロー。
2件の殺人容疑と、正当防衛の殺人も5件ある。鑑定した精神科医が参ってしまうようなキチ〇イ精神の持ち主。
己が死のうと、世界が破滅しようと、己の信念を貫き通す意志の強さを持った「精神的超人」といえるヒーローという名の一般人。

必殺技は「指折り」。相手を尋問する時は容赦なく相手の小指をヘシ折る。普段は「終末は近い」と書かれたプラカードを持って徘徊している。これもはや悪役だろ。

実際はチビで不細工なおじさん。コンプレックスからか靴は厚底。主食はハインツの冷めたビーンズ。これは美味しくないものの象徴として描かれているようだ。
「身内を害するものはすべて敵」「悪い奴はすべて殺していい」といった極端な思考の極端な保守右翼主義者。愛読書は作中に存在する極右雑誌“ニューフロンティアズマン”。

ナイトオウル2世/ダニエル・ドライバーグ

初代ナイトオウルのホリス・メイソンの跡を継ぎ2代目を襲名、ロールシャッハとコンビを組みギャング等と闘っていたがキーン条例制定後にはあっさりヒーローを引退。メイソンの昔話を聞く事を楽しみして生きている。
ヒーロー引退後はメタボになり、挙句ED(イ〇ポ)になってしまう。
銀行家であった父の遺産で装備を整え家の地下にはコスチュームや暗視ゴーグル、飛行船やら何やらヒーロー時代に使っていた一通りの装備が今も揃っている。
ほぼバットマンをモチーフにしたヒーロー。ってそりゃわかるわな。

DR.マンハッタン/ジョン・オスターマン

普通の人間が生き、ヒーロー活動を行うウォッチメンの世界において、ただ一人スーパーパワーを持った唯一のリアル超人。
核や原子を自在に操る本当に世界のパワーバランスが崩れてしまう存在自体が問題な人。キーン条約下の合法的なヒーローのひとりで、全身水色。
全身の体毛は無くそしてフルチン。最近になって黒パンツに修正されたが原作では素っ裸だ。
原子を自在に操ることで巨大化したり分身したりテレポートしたり、ロールシャッハと違うベクトルの「存在が地球の存亡に関わる危険な人物」
「マンハッタンが存在すると周りの人間が癌になって死ぬ」という誹謗中傷に落ち込み火星に引きこもったりもする。


オジマンディアス/エイドリアン・ヴェイト

生身の人間ながら極限まで鍛え抜かれた肉体と、ギリギリ弾丸避けそうな運動神経、世界一の頭脳と称される知能の高さ。DR.マンハッタンとは違う超能力を持たない限界まで人間を鍛えたようなもう一人の本物のヒーロー。
キーン条約制定よりも2年も前に突如ヒーローを引退。素顔、本名を公表。以降は知名度を生かしビジネスマンとして大成し巨万の富を手にした大富豪となる。ヒーロー時代が懐かしいのか仕事の時にヒーロースーツを着ていたりする。

二代目シルクスペクター/ローリー・ジュスペクツィク

初代シルクスペクターだった、母サリーから幼い頃より英才教育を施された
女性ヒーロー。実際は母親に押し付けられた形でヒーロー活動をしていたため本意ではなく、自身の活動に迷うことが多い。
DR.マンハッタンの恋人であったが人間性を失っていくマンハッタンに嫌気がさしたり、あとナイトオウル2世を慰めたり、なんだか母性溢れるキャラ。母を暴行したコメディアンを憎んでいるんだけど、そのコメディアンは実は父親というなんとも悲喜劇。

コメディアン/エドワード・ブレイク

物語冒頭で殺されたヒーロー。ストーリーの最重要人物ともいえる。
彼の死を機にヒーロー狩りの可能性を感じたロールシャッハが行動を起こし物語の核心に迫っていく。
かつてのヒーローチーム「ミニッツメン」に最年少で加入し、現在も合衆国の諜報部員としてヒーロー活動をする活動期間の最も長いヒーロー。

星条旗の肩当にスマイルマークで戦地に赴いたり、要人を狙撃暗殺したり、笑いながら市民暴動を制圧したりといわゆるヒーロー像からほど遠く、とにかく汚れ仕事を引き受ける暗躍者。
汚い大人、戦争の悲哀を道化のように笑い飛ばすコメディアンであったが「辿り着いた真実だけ」は笑い飛ばすことは出来なかった。同じチームだった初代シルクスペクター、サリー・ジュピターをレイプしようとしたりする。(が最終的には初代シルクと思い合う関係に)
とにかくヒーローとかけ離れたリアルな仕事軍人。
実は二代目シルクスペクターの父親。

あらすじというかネタバレ(後編)

簡単に内容を説明するために強烈なネタバレを含む解説をします。
内容を知りたくない方はここまで。

原作タイトルである「ウォッチメン」という言葉は、古代ローマ時代の詩から引用されているもの。「誰が、見張りを見張るのか?」

世界の平和を見張る者の間違いを誰が見張るのか?神か?その神を見張るのは誰だ?人間か?

世界は核兵器を手に睨み合い、危ういバランスを保ちながら人類滅亡へのカウントダウンに向かっている。そんな終末思想の渦巻いていた80年代の生まれたウォッチメン。

結論から言うと黒幕は『オジマンディアス』です。

オジマンディアスは世界最高峰の頭脳から導き出した人類の未来のために、犠牲を伴うが確実に世界がひとつになり救われる方法を行うため、ヒーロー活動を辞め、こっそり世界共通の敵を作り出そうとしていたのです。

  • 漫画版では巨大なイカのような宇宙怪獣

  • 映画版では核兵器をマンハッタンを使い破壊

このような違いがありますが、要するに
「人類が生き残るために、世界共通の敵を作り出して少しの人類を殺せばみんな目を覚ますだろ」というトロッコ実験的な発想を世界規模で行おうとしていました。

その過激すぎる救世思想にいち早く辿り着いた「コメディアン」
アメリカの暗部として活動していたコメディアンがオジマンディアスの陰謀に辿り着くのも当然かもしれません。
平和維持のために汚れた仕事を続け、本心を悟られぬように張り付いたような笑顔であり続けるコメディアンからしても「本当に狂っているのはオジマンディアス。お前だ」と言わざるを得ない状況だったと考えられます。

しかし真相に辿り着いた為にコメディアンは殺されます。

仲間のために狂ったように私刑を続ける「正義」をかざすロールシャッハ。
「正義」という名の元に消火活動・救助活動をするだけのナイトオウル。
世界を救える強大な力を持ちながら何もできないDR.マンハッタン。
「平和」という世界を保つために暗殺も厭わないコメディアン。

いずれも人類存続と比べたら役立たずに過ぎないとオジマンディアスは考えたのかもしれません。なんせ世界一頭がいいので。

やがてロールシャッハたちも、オジマンディアスの野望に辿り着き止めようとします。70億の人間を救うためなら1億人くらい死んでも良いだろう。そんなオジマンディアスの暴挙は正義なのだろうか。いや許すわけにいかない。そんな思いでオジマンディアスの元に集結します。

普通の漫画なら「マンハッタンのスーパーパワーで止めたらいい」とか「ロールシャッハの熱い拳で説得!」とかツッコミどころやら、ご都合主義的な展開が待っています。
しかし『ウォッチメン』は違った。

オジマンディアスに辿り着き「ああだ、こうだ言うシーン」さえ予測していいました。通常なら熱く語ったりファイナルバトルになるクライマックス。

残念ながら、すでにその計画は実行されていました。

どうすりゃいいのか判らないで黙っているしかないナイトオウル。劇場版では問答無用にオジマンディアスを殺すマンハッタン(漫画版では俺は正しかったんだよなと問うオジマンディアスを突き放す)。
そして何がどうあろうと、世界が滅亡しようと自分の決めた正義を貫こうとするロールシャッハ。

Keep watching(見つめ続けろ、見極めろ)

ウォッチメンはその善悪を「見極めること」がテーマになっています。
オジマンディアスをはじめとするこの映画の中のヒーローたちは、その多様的な正義の元に行動しています。

どのキャラクターの正義に共感出来るのかを作品を見る人たちに(watch)させることもひとつ委ねられたテーマとして仕掛けられています。
正義とは、公正さとは一体何か。何が正しいのか?を考えさせられる、哲学的なテーマの作品であるとも言えます。

人により見え方が違うロールシャッハテストの図柄を仮面として被るロールシャッハ。「何を良しとするか否か?見るものが決めろ」というメッセージはこの作品の大きなテーマだ。


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