ジャカルタ州知事選挙からインドネシア政治を読む(1/4)

はじめに

 2017年2月15日に投票が行われたインドネシア・ジャカルタ首都特別州知事選挙は、クイックカウントと呼ばれる民間機関の出口調査で、現職のアホック=ジャロット組が1位となり、僅差でアニス=サンディ組が続き、アグス=シルヴィア組は脱落した。過半数の得票をした候補者がいなかったため、上位2組による決選投票が4月19日に行われることになった。

 イスラム教徒が全人口の9割近くを占めるインドネシアにおいて、現職のアホック知事はキリスト教徒の華人系という少数派である。2016年10〜12月にかけて、ジャカルタでは、イスラム教徒らを何万人も動員してアホック批判を目的としたデモや集会が3回(10月14日、11月4日、12月2日)行われた。このため、日本を含む多くのメディアは、「多様性の中の統一」を国是とするインドネシアの寛容な社会が分断へ向かっている、今後はイスラム主義が台頭する、という報道が多く見られた。

 たしかに、近年のインドネシアでは、たとえばイスラム教徒の多数派(スンニ派)が少数派のアフマディヤを迫害するなど、以前よりも少数派への寛容度が低下しつつある現象が散見される。今回のアホック批判デモはがそうした傾向に拍車をかけるのではないか、という懸念は当然出てこよう。昨今の世界的な社会の分断傾向の広がりからも、そのような心配が現実的となる可能性がある、と論じることもできる。

 しかし、それらは、インドネシア政治を分析するうえでの表層でしかない。実は、その裏に隠されている政治のリアルな動きを抑えるほうがはるかに重要である。今回は、4回に分けて、ジャカルタ首都特別州知事選挙の裏側で何が起こっていたか、それが今後のインドネシア政治にとっていかなる意味を持つのかについて、私なりの分析を試みたい。

 <4回の内容>
 1.反アホック勢力の候補ペア選定過程
 2.選挙運動でイスラムはどう使われたか
 3.イスラム大衆動員の裏に隠された政治のリアル
 4.今後のインドネシア政治地図への影響


1.反アホック勢力の候補ペア選定過程

<構成> 1.1. 統一候補ペア擁立への模索 / 1.2. 統一候補ペアはなぜ実現しなかったか / 1.3. ユドヨノとプラボウォの歴史的確執 / 1.4. イスラムを共通項に大衆動員へ

 ジャカルタ首都特別州知事選挙の裏側を見ていくうえで、まず初めに見ておきたいのは、候補ペアの選定過程である。現職のアホック=ジャロット組は当初から再選へ向けて動いていたが、それに対抗するペアは候補ペア届出の最終段階まで決まらなかった。それぐらい、当初は、現職ペアが圧勝するのは間違いなしと思われていた。

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松井和久/Kazuhisa MATSUI

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松井グローカル代表。ローカルとローカルをつないで新しいモノやコトを創り出したい。福島、東京、ジャカルタ、スラバヤ。