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【論文紹介】大学生を対象とした金融教育の有効性

★引用論文★
浅井義裕.2017."金融教育は有効なのか?-日本の大学生を対象とした一考察-".生活経済学研究,46,11-24

◆論文のポイント◆

これまでの研究から,著者は金融知識に無関心な層へどのように金融教育を実施すれば効果的なのか?といった問題意識を持っています.だからこの論文で,大学生の属性と金融教育(ビデオ視聴)を行った際の効果(金融知識の水準)を調査しています.

調査手法は,全国(中国・四国・関東・中部・東京)の大学生(文系学部)に対してアンケート調査(49問)を行い,658名の回答データを収集しています.

調査結果としては主に,「金融への関心が低い大学生ほど、金融教育を行うと金融知識の水準が向上する傾向がある」「既に金融関係の科目を履修したことがある者の、金融知識の増加は小さい」の2点です.(有意差があったのは「金融への無関心」と「金融関係科目履修」のみ)

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調査結果から,著者は「金融知識は,金融教育量ほどには増えないこと」を確認し,「少なくてもよいので,より多くの人に金融教育を行うことで,社会全体で得られる金融教育の効果を大きくできる」と解釈しています.

◆私見◆

自分も大学生(院生)の時に,講義に関するアンケートを記入させられましたが,リーズナブルに研究データが集まるのは大学教授の特権でもありますね.羨ましいなと思いました(笑)

さて,内容については概ね理解できましたが,本稿の効果指標である「金融知識の水準」に関して,インフレ・複利・割引現在価値・分散投資の計4問のみです.こちらは下記の論文で,金融知識の水準を表す指標としてコンセンサスが得られつつあるとのことです.

Lusardi, Annamaria and Olivia S. Mitchell (2014)“The Economic Importance of Financial Literacy: Theory and Evidence”, Journal of Economic Literature 52(1), pp. 5-44.

個人的にはそれだけで効果を図るにはやや限定的すぎるかなという印象を受けましたし,別記事で紹介したRooijら(2011)が開発したモジュール(「基礎問題6問」「応用問題9問」)の方が,きちんとしていると考えます.

とは言え,まあこの辺は学派で色々と対立がありそうですし,そりゃ4問の方が大学生も気持ちよく回答しやすいよねとも思いましたので,ここを掘り下げても仕方がなさそうです.笑

あと個人的な発見としては,著者も軽く触れていましたが「(先行研究でも示しているように)女性の金融知識が一貫して有意に低い」ということです.要するに,就業前の社会的な経験の違いが発生する前の段階から,男女の金融に対する姿勢が異なるということです.もしかしたら生まれつきの男女の脳の構造などで決定されている可能性もありますので,これはもはや社会科学ではなく自然科学の領域になりそうですね.

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