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古本を買う、肉を焼く(日記の練習)

2023年7月15日(土)の練習

 昼前に起きて三鷹に向かう。昨晩三鷹のりんてん舎が終業後SNSに入荷した古書を写真で投稿していたからた。ほとんどが歌書で、何十冊と積まれたなかには塚本邦雄『装飾樂句』(作品社)や小池純代『雅族』(六法出版社ほるす歌書)や高島裕『旧制度』(ながらみ書房)など、見かけるのは稀なものがいくつもまじっていた。とりわけ『雅族』は実店舗の入荷で見かけたのは初めてかもしれない。それよりなにより、片山廣子の『燈火節』(主婦の友社)と『野に住みて』(第二書房)の初刊と、月曜社で刊行された同題の集成全二冊も入荷している。どれでもいいからほしいと思い、開店前にならぶつもりが寝坊してしまった。
 りんてん舎に着いたのは開店から一時間ほど経った頃。既に『雅族』は見当たらなかったので、誰かが購入したのだろう。幸い片山廣子関連の書籍はすべて残っていた。良心的な値付けのりんてん舎でも、このあたりは相場より安かろうが、さすがにそれでも値は張る。すべて買うには懐事情が芳しくない。まず初刊の二冊は諦める。次に『燈火節 片山廣子/松村みね子 随筆+小説集』は、後に同じ月曜社から刊行された『新編 燈火節』を持っているので、すくなくとも随筆の大半は読めるものとして今回は断念。『野に住みて 片山廣子/松村みね子 短歌集+資料編』(月曜社)だけ求めることにした。片山廣子の短歌も後に現代短歌社から刊行された『片山廣子全歌集』があるがそれも持っていないうえにこちらも品切で、古書価は高騰している。装丁も月曜社の集成のほうが素敵だ(それを言うと『新編 燈火節』も『燈火節 片山廣子/松村みね子 随筆+小説集』のほうが装丁はいいのだが)。そのほか数冊購う。
 会計のあとに、りんてん舎の主人とすこしだけ話す。『雅族』については、やはり開店前からならんで待っていた客がいたそうだ。主人も、開業して仕入れられたのは今回で二度目とのことで、それなりに稀覯書といえるだろう。縁があるとよいのだけど。
 りんてん舎を辞して水中書店を目指す。交差点にえのきたけがパックにはいったまま落ちていた。

 水中書店を覗いてから電車で吉祥寺へ。ブックオフで友人と落ち合う。ふたりで吉祥寺をぶらぶらする。吉祥寺の古書店は大体どこも行ったことはあるが、そういえば行ったことのなかった古本のんきまで案内してもらう。高架沿いを歩きながら一度高架下をくぐって反対側に行こうとして「ここじゃなかった。もうひとつ先で曲がるんだった」と友人が歩きながら思い出すように言う。道の先にはセブンイレブンが見える。「『セブンイレブンがあるんだ』と思ったのを憶えているから間違いない」と言ってセブンイレブンまで歩いて高架下をくぐる。私の人生で「セブンイレブンがあるんだ」と記憶することが果たしてあっただろうか。セブンイレブンのところでくぐった途端、友人は違ったと言う。引き返して、最初にくぐろうとしたほうが正解だったらしい。なんだか面白かった。
 古本のんきを見てからバサラブックスへ。バサラブックスは店外の均一棚に掘り出し物が多い。今日は飯島耕一『別れた友』(中央公論社)や、エマ・テナント『ロンドンの二人の女 ミス・ジキルとミセス・ハイドの不思議な事件』(白水社)が百円でなんでいる(後者は京都に行った際ブックオフ京都三条駅ビル店で見掛けたものの見送った本でもある)。飯島耕一の小説は文庫化されていないこともあって、見掛けたらできるだけ買うようにしている。そういえば飯島耕一の詩集『バルセロナ』(思潮社)と出会ったのも、バサラブックスだった。
 このあたりから暑気にやられてへとへとで「きんきんに冷えた珈琲がほしい」「きんきんに冷えたビールがほしい」しか言えなくなる。小休止をはさんでから古書 防破堤に行き、友人ともうひとり落ち合う。古書 防破堤ではレジカウンターの隣にある均一棚からなにげなく手に取った島尾敏雄『島の果て』(集英社文庫)の旧版を見て驚く。装画が野中ユリだったのだ。『島の果て』そのものは新刊で購入できるが、新版は野中ユリの装画ではない。野中ユリの装画というだけで倉橋由美子の新潮文庫も何冊も購入してしまう人間なので、もちろん購入する。

 古書店をひとしきり見たあとはブックスルーエを覗いて、焼肉屋でさらにもうひとりの友人と落ち合う。暑気払いを兼ねて四人で焼肉を食べる会。このうちのひとりとは、およそ四ヶ月ぶりの再会となる。肉を焼いたのち友人のひとりが見つけたROGUEというアイリッシュパブでビールを飲みながら、本の話や近況報告をする。夏に遊ぶ約束をぼんやりとして別れる。帰宅したら日中を歩きまわったせいかベッドに横になった途端意識が消える。

 飯島耕一『別れた友』(中央公論社)、島尾敏雄『島の果て』(集英社文庫)、辻征夫『ぼくたちの(俎板のような)拳銃』(新潮社)、南條範夫『わが恋せし淀君』(講談社大衆文学館)、エマ・テナント『ロンドンの二人の女 ミス・ジキルとミセス・ハイドの不思議な事件』(白水社)、片山廣子/松村みね子『野に住みて 片山廣子/松村みね子 短歌集+資料編』(月曜社)、黒井千次『小説家の時計』(構想社)、河野多惠子『谷崎文学の肯定と欲望』(中公文庫)、佐伯裕子『影の棲む国』(北冬舎)、高橋英夫『詩神の誘惑』(小沢書店)、堀江敏幸『振り子で言葉を探るように』(毎日新聞社)を購う。

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