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トッドフィリップス 監督『全身ハードコア』

映画JOKERで一躍有名になったトッドフィリップス監督の過去作であるGGアリンの自伝映画 『全身ハードコア』について考察していこうと思う。私はこの映画が見たくてしょうがないのに、配信にも、近くのビデオ屋にもないので、頭の中であらすじから映画をつくって、視聴しました。なので、映画の内容について言及しますが、ネタバレにはなりません。

GGアリンとは、一人のロックスターであり、客に糞尿をぶち撒けたり、テンション次第では目についた客をボコボコにして病院送りにしたりする派手なパフォーマンスで有名です。特に有名なエピソードとしては、GGアリンの葬式でバンドメンバーがGGアリンの遺体から脳味噌を取り出し、ホルマリン漬けにして友達に見せびらかしたり、脳味噌だけになって生きていると悪ふざけのライブを開いて、飽きたらオークションサイトで売却するなどの側から見れば非倫理的な暴挙を繰り返したというものです。これらのエピソードから、狂っているのはボーカルのGGアリンだけでなく、バンドメンバーも相当狂っている事が分かります。YouTubeに、GGアリンの葬式動画が上がっており、残念ながら親族に無許可で、脳みそを盗み出す犯行現場までは映されていないのですが、犯行前に、ニタニタ笑いながら棺桶を覗き、悪巧みするバンドメンバーの様子を見る事ができます。


ロックンロールという定義は人それぞれですが、何度も逮捕されながらも露悪的な、自分のスタイルを最後の最後まで貫く様は、正にロックンロールと言えるでしょう。

そんな最高にロックンロールな彼等を描いた映画のサビについて説明と解説をしていきたいと思います。

それはGGアリン  ジーザス•クライシスト•アリン
救世主の名を冠した彼が、バンドメンバーのマール•アリンに呼びかけるシーンです。

マール•アリンは全裸にスキンヘッドの風貌で、自身の糞を溶かした絵の具を使って、糞の絵を描いています。GGアリンは、変わり果てた兄マールの姿を見て、冗談めいた口調で、もう辞めちまうか?と問いかけますが兄は全く、振り返る事なく絵を描き続けます。

豪快なGGアリンが珍しくただの軽口であっても生き方を曲げる提案をした時に、マール•アリンはそれを諌める訳でもなく、糞の絵を糞を溶かした絵の具で描き続ける事でGGアリンに伝えたのです。それは、マール•アリンが血を分けた兄弟にさえも、自分の信じるロックンロールのスタイルを貫いてしまう、余りにも不器用なストイックさなのです。その時の、マール•アリンの悲しくて強いまっすぐな目はとても美しいものでした。

芸術家とは死体と糞を描くもののことだ、というかの有名な芸術家の名言は、所詮、趣味や道楽の延長でしかない行為が職業になるには、普遍的な人間が、目を背けなければ生きていけないものに芸術家たるもの、向き合い続けなければいけないという意味だ。

自分が一週間前に出したクソさえも、自分の一部として扱い続ける。究極の実存、それがマールの
スタイルなのです。神話体系などの長い歴史の中で形作られた、人が快感を感じる物語の類型というものはあります。その類型、洗練された方程式に代入すれば、洗練された構造の物語というコンテンツとしての魅力は凄まじいものです。しかし、一度その方程式を理解してしまえば、その後の快感や感動は、薄まっていきます。

ですから、あらゆる構造からは完全に逃れられないとしても、その中で足掻き苦しみながらも、最後まで意地を通してしまう過剰な一人の人間の人生が一番面白いのかもしれません。

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