小説 『必要・悪夢』
1
夢の中にいる僕。自覚できる夢を何というか。そこまで、頭は冴えていないようだ。場所は遠い、ような気がする。先ほど寝た場所(いや時間軸はわからないが最後に意識があった寝床)から幾分離れた場所に来ているような気がする。しかし、おかしい。先ほどの寝床と全く同じ見た目をした場所なのだ。そこで体を横にしているのだ。言葉にすると大変妙なことだが全く同じなのに違うと思わずにはいられない。この空間は、異質と親しみの両方が相反しながら僕の感覚を狂わせる。声が出そうにも出ることはない。不完全な声が体の中で暴れて全身に熱が帯びる。声を出すことを続けるが途方もない行為に疲れ果て一息をつく。ふと、どのくらいこれを続けているのだろう、と疑問が湧く。しかし、現在進行的に過去も未来も現在に集約されて時間の前後が掴めない。だんだん夢から覚める気がするし、覚めない様な気がする。太陽も月もない洞窟に放り込まれ、疲労も空腹もない状態が続いている様な感覚だ。確かこの感覚を随分前に体験した気がする。
朧げな記憶だが、何者かになりたかった大学一年生の時だと思う。いわゆる“意識高い系”だった僕は、授業も毎回出席し、学生団体にも入り、アルバイトを掛け持ちして、国際ジャーナルの会議に教授と共に同席しつつ、プログラミングを覚え、起業もして、あれやこれやと自分に取り入れていった。「大学生がやっとくべきことベスト10!」には入りそうなことを端から端まで網羅して、出来る限界の経験とスキルを否応なしに触れていた。しかし、つまりは”出来る限界”だったのだ。毎日の睡眠時間は3-4時間足らず、肉体的限界はすぐ訪れた。少ない睡眠中によく同じ様な体験をする様になった。ああ、今思い出したがそれは「金縛り」だ。僕は金縛りを何度も経験した。最初体験した時はかなり恐怖を感じた。聞いていた金縛りは、幽霊の類が金縛り中に現れると聞いていたからだ。ただ、金縛りは身を任せていれば自然と治る。原因は疲労から来ていることが分かってからは上手く調整できていた。
しかし今起きている金縛りはあの時と少し違うみたいだ。不快感が漂っている。起きろ、その信号が身体の奥から響いてくる。徒労とわかっていても起きたいと願っている自分を、僕は第三者的にみている。心地よくはない。
そこで完全に目が覚めた。ふと横を見ると女の裸が目に入る。二つの大きな肉が横に垂れ、先端が嫌らしくこちらをみている。先輩が隣で横になっている。昨日のことを一から順に思い出すが、あまりにも断片的で話の脈絡がつかめない。意識がほんの微かに戻ってくると、すぐ喉の渇きを覚えた。ベッドから起き上がりリビングに向かう。棚からカップを一つ取り出して、蛇口を捻る。連続的な音を立てて、蛇口からの水がカップの底に溜まっていく。カップに入れた水が、胃の中に流れてくる。喉が潤う、しかし、喉に鉛のような違和感が残る。昨日飲み過ぎたか、変なプレイでもしたか。先輩のことを考えると、恐らくどちらもだろう。先輩はいつも僕を惑わす。
ベッドに戻って先輩の上体を起こす。ベッドの横幅に沿って大きな掃き出し窓があり、先輩はそこにもたれ掛かった。もたれかかったはずみで窓が少し開き、先輩は外を見つめた。朝の陽光が先輩の顔を照らしているが、その顔は不自然に青白い。「何をされているのですか」と僕は聞く。先輩は何も答えない。
未だに何故だか意識が朦朧としている。昨日のことも含めて、僕と先輩のことを少し振り返る。僕は先輩のことがずっと好きだった。いつからなのか、最近のことにも感じるし、随分前のことにも感じる。とかく、いつからかというのはどうでもいい。その先輩と僕は今では体の関係だ。昨日寝たのが初めてではない。初めて寝た時のことを断片的でも思い出そうと励む。そうだ、先輩に呼ばれたのだ。体の関係になる前の先輩は何かにつけて僕を呼び出し、そして呼ばれて着いた頃には口も聞けないくらいに酔っ払っていた。そしていつも、僕はその姿を見て静かに勃起をしていた。そして静かに先輩の自宅まで付き添い、静かに僕の自宅に帰り、そして僕は激しく自慰をする。しかし、初めて先輩と寝た時は呼ばれた場所がいつもと違かった。普段飲み屋に呼ばれるのに、初めて先輩の自宅に呼ばれたのだ。また同じように揶揄われるだけだと随分迷っていた。そのはずなのに、勝手に足が動き目的地についていた。何とも哀れな、オスよ。自宅を出てから先輩宅の呼び鈴を鳴らすまでの記憶は正直、無かった。玄関を開けるや否や、先輩は僕の首の後ろに手を回し、全体重を乗せてきた。先輩の吐息がまぶたにかかって痒い。先輩は何かを大声でいう。しかし、先輩の呂律が回っていないせいで理解できない。とりあえず僕は自分の靴を乱暴に脱ぎ捨て玄関の中に入る。鍵を閉めて、寄り掛かる先輩の両足を抱えて、部屋の1番奥にあるベットへと担いで移動させた。先輩を静かにベッドの上に下ろした。「今日はどうされたのですか」と聞くと、「別に」と先輩はぶっきらぼうに答える。先輩の右手と僕の左手が指を絡めて繋がれていた。先輩の手は芯が心細いくらい小さいのにとても温かい。その時の先輩は、一段と可愛く、美しく見えた。先輩は何を考えているのか全く分からない。先輩の言葉と行動、全ての意図が全くわからない。だからこそ好きなのかもしれないと思った。僕も物好きだ。先輩は誰にでも開放的で相手を包み込み、備わった美しさと垣間見る優しさと、そして表面的な悪戯さがある。全てが僕を十分に魅了する。
「水、飲みますか」と僕は聞いた。「うん」と先輩は答え、少し頭を上下させた。水道水をコップに入れて先輩に飲ませた。先輩はそのまま、ベッドに倒れ込み寝息を立て始めた。何か様子がいつもと違うと思ったが、ただの勘違いの様だとその時は思った。ベッド横の床に座り、先輩の寝顔を覗き込む。ベージュ色のチークが枕の表面に少しかかる。
「期待してもダメですね。先輩。期待させる先輩が悪いのか。それとも、この気持ちに嘘をつけない僕が悪いのか。僕にはわかりません。しかし、どうしてでしょうか。どちらだとしても、僕はあなたが悪いとは全く思えない。」
「泣いているの?」
「起きていたのですか。」
「ずっと起きていた。」
「寝たフリが上手ですね。意地悪な人だ。」
「でも、私は悪くないのでしょう?」
「からかわないで下さい。」
「いい気分だから、一緒に飲む?」
「はい。」
突然、先輩は上体を起こしベットから飛び降りる。キッチンの方に向かい、冷蔵庫の扉を開けた。扉に右半身を乗せて、左手を奥に伸ばす。冷蔵庫の警告音が静かな部屋に鳴り響き、喧しい。冷気が床を伝って足の先の方が冷たい。
「お酒ない。」
「ですよね。」
目前のテーブルには、卓上から溢れるばかりの空き缶が乱列されている。先輩はずっと一人で飲んでいたのだろう。
「新しく買いに行きますか。」
「うん。」
先輩は乗せていた右半身で冷蔵庫の扉を、勢いよく閉めた。
冬の夜は凍える寒さで外に出るのも億劫だ。先輩は玄関にあった白のクロックスを履いた。
「寒いね。外。」
「寒いですね。」
「走る?」
「ん。え?」
先輩はクロックスを鳴らして楽しそうに駆け出した。それは淡雪を踏み鳴らしている様で、夜を舞う天使にも妖にも見えた。凍てつく風が熱った体を後押しして、僕は先輩の後を追った。
コンビニに着くと室内機の生暖かい空気が僕らを包み込む。冬のコンビニには人の温かさと同じものを感じる。
「何にしようか。」
「僕はビールにします。先輩は?」
振り返ると先輩は居なくなっていた。辺りを見回すとレジ前のおでんを物色していた。
「おでん食べよっか。何食べたい?」
「僕はちくわぶ、と、大根、それと白滝で。」
「あれ、私も一緒。」
缶ビールとおでんを買ってコンビニを出た。僕たちは近くのデパート裏にある喫煙スペースに向かった。デパートは小さな丘の上を登ると、人影に隠れてひっそりとある。そしてまた、その隅っこに僕達の目的地があった。先輩によると、ここは夜になると穴場らしい。簡素なベンチと雨除けの屋根だけだが、綺麗な夜空と街並みが目前に広がる。日中に降った雨が地面から蒸発して空気が澄み、喫煙所の不快感はない。
「私ここによく来て、いつもおでんを食べるの。」
「贅沢な景色です。」
「君も好きでしょ。」
「かなり。」
僕たちのおでんはそれぞれ二つの容器に分けてもらっていた。僕は柚胡椒を、先輩は辛子を選択した。
「君は柚胡椒が好きなの?」
「はい。先輩は辛子が好きなのですね。」
「うん、早く食べよう。」
最初に僕はちくわぶを食べ、先輩は大根を食べた。すると、先輩は自分の容器にある辛子を、僕の柚胡椒の上に混ぜた。慌てた僕に、先輩は悪戯に笑う。
「やめてくださいよ。」
「案外美味しいかもよ。」
辛子と柚胡椒のブレンドに大根をつける。食べてみると案外美味しい。辛子をさらに追加してもらった。先輩といるといつも調子が狂う。予想外のことを平然とこなしてくるから、焦る。しかし、先輩に振り回される自分が嫌いではなかった。
その後、先輩の家の帰路へ戻った。家に戻ると僕達は体を重ねた。溢れ出る性欲は、異常なほど体を熱くした。実際に体調不良な状態かと思われる程熱を放ち、身体中から汗が噴き出て気持ちが悪かった。先輩がつけていた香水と僕の精液と僕たちの汗が異様な匂いを放つ。
翌朝になり、先輩はいつもの調子に戻っていた。昨晩のことが幻のように思えた。だからといって僕は項垂れない。悲観的になることはない。そう振る舞うこともとてもじゃないができない。例えば、ニュースで見る死亡事故では、よく被害者遺族は涙で被害者の無念を訴える。加害者に恨みつらみを全て吐き出して、この世で出来る全ての仕打ちを食らわさんと意気込む。そして、世間はそれに賛同し、同じように悲痛の声をあげて遺族のように罪を問うのだ。僕にはそれができない。恐らく僕の家族の一員が同じ目になっても、加害者にも何か事情があるのだろうと考えてしまう。イエスは説いた、「罪のないものだけが石を投げろ」。誰にでも罪があり、罪を裁くのは神だけである。だから、人が人を裁くことはできない、ということだった気がする。その感覚に少し似ている。もしかしたら、加害者の立場になればそちらの方に同情するかもしれない。だから、僕はどんな仕打ちも静かに受け入れることにしている。許す許さないは、本来赦されない。そう思っているのだ。
2
先輩と僕が寝るより随分前の話。先輩と僕が初めて会った時、先輩は酷く泣いていたのだ。道路を闊歩して、蝉の鳴き声と張り合って声が掠れるまで息苦しく泣いていたのだ。その時の僕は、先輩を美しいと思った。生命の産声を体験したと錯覚するくらいだ。豪快に泣く姿に、ただ呆然と見つめることしかできなかった。2回目に先輩と会ったのは新しく始めたアルバイト先だった。先輩は要領がいい方ではなかったが、親切に接してくれて何かと贔屓してもらった。不得手ながらも懸命に取り組む姿に、僕はとても勇気づけられた。アルバイト先で話すうちに飲む付き合いになった。僕は先輩が好きだったから毎回楽しみにしていた。ある日の飲みの席で僕は切り出した。
「先輩が好きです。付き合ってほしいです。」
「君って雰囲気とか大事にしないの。」
周りは大衆酒場、その真ん中にある二人席。
告白のシーンとしてはかなり適していない。
「雰囲気大事にしないと、モテないよ。」
「先輩が飲みしか来てくれないからですよ。」
「私のせい?」
「いや、そういうわけでは。」
「ふーん。へー。ふーん。」
先輩は悪戯な顔をした。いつも、先輩は悪戯な顔をして話をはぐらかす。その時の僕はどうにか耐えた。
「それで、返事はどうですか。」
君とは付き合えない、と先輩は言った。
「私、君みたいなタイプをよく知っている。私とは合わないタイプ。」
「ではなぜ、一緒に飲んでくれるのですか。」
「必要だったからよ。」
どういうことですか、と僕が聞くのを、先輩は遮り手元にあるグラスを勢いよく掲げた。口元で反対にひっくり返して、喉が波打つ。その日初めて先輩は僕の前で酩酊した。仕方がないので先輩の家まで送った。それからか、介抱役を買って出ることが多くなった。時間や場所関係なく呼び出されては、それに応じて駆けつける関係。そして、先輩と初めて寝た。男女の関係としては順調だった。
先輩と寝る様になって、僕の私生活は激変した。今まで取り組んできたものに一切手をつけられなくなった。友人や知り合いから心配の連絡が来た。
【疲れる女だな。】
【何でも君がやっているじゃないか。】
【面倒だな、そいつ。】
【死ねと言われたら、死ぬのか?お前。】
【私が嫌いなタイプだ。】
【若気の至りだよ。長くは持たまい。】
【顔からして嫌なやつだ。】
皆口を開けば先輩のことをそう言う。僕に取ってみたら退屈しない人、だった。先輩といると僕が描く未来予想図が、夢と冒険が詰まった海図になったのだ。そんなに僕は世話好きな方ではないが、先輩といると無自覚にも心が広くなる。
そんな僕でも、先輩の料理下手には辟易した。あまりにも美味しくないから僕が炊事を毎日担当した。気分転換によくコンビニのおでんを食べた。柚胡椒と辛子を混ぜたものをおでんにつける。何度もあの喫煙スペースで食べた。そして帰って熱い性行為をするのだ。月並みな表現だが、それだけで日々は満たされていた。
「嫌になる気温ね。何もかも。」
冬が終わり、春がきた。遥か彼方から暖かい風が吹いてくる。春の風は割と激しい。全てを入れ替えていくように吹く。確かに鬱陶しいくらいだ。先輩は起き上がると窓を開けて日光を浴びた。そして目下の道路を歩く群衆を眺めて、憂鬱そうな顔を浮かべた。
「皆陽気な顔をしている。羨ましい。」
入れ替わったのは、先輩もそうだった。人が入れ替わったように心が脆くなっていった。むしろ戻ったのか、初めて先輩を見たときの様に悲しい顔をしていた。
「なぜ、そんな悲しい顔をしているのですか。」
「春が来るといつも思うの。私は一年前と何も変わってない、って。」
僕はリビングからベッドに移動して温かい紅茶を先輩の両手に包ませた。そして、その両手をまた僕の両手で包む。
「僕はずっと変わらず先輩と居たいと思いますよ。」
「君はすごいね。良い人だよ。君は。」
「先輩のためなら何でもできます。」
「昔はそう言ってくれる人が理想だった。でも、みんな変わる。私を置いてみんな変わっていく。」
先輩はベッド横の大きな掃き出し窓にもたれた。
「それもそうだよね。所詮、他人だから。」
先輩の顔に涙の筋ができた。部屋の湿度が上がる。
「私は君といると眠りたくなる。何も考えたくなくなる。私は起きたいのに、君は心が綺麗すぎるから私を眠らせようとする。」
先輩は僕から目を逸らす時、僕を見ていなかった。物理的にも精神的にも。僕から目を逸らす。
「そう思っているならなぜ振ってくれないのですか。」
「復讐だから。この悪夢を終わらすために。」
「僕に?復讐?」
「復讐といっても便宜的な意味よ。それも、あなたじゃない。ずっと忘れられない人がいるの。でももう会えない。そういう運命なの。でも、君がいた。君はあの人に似ている。本当の完璧人間ってところが彼と似ている。完璧人間に、復讐したかったのよ。こんなこと言っても、あなたは許してくれるだろうけど。」
「僕はそれでも構いません。」
先輩は吹き出して、相好を崩した。君って本当にお人好しよね、私よりバカね、と言って手を叩いて笑う。
「馬鹿でも構いません。」
「バカ。何であの人より先に出会ってくれなかったの。」
「すいません。でも、いつかその人を完全に忘れさせますよ。約束します。」
先輩はまた手を叩いて大きい動作で笑った。突然恥ずかしさが込み上がってきた。一連の僕の行動が最早、愛の告白だったからだ。でも本心だった。本気の恋愛だったのだ。
「今夜も私と。」
「もちろん。」
先輩はまだ笑っている。先輩は買い物に出掛けてくると言って部屋から出て行った。先輩は夕方には帰ってきた。
「今日は私が作るよ。」
先輩は両手に買い物袋を掲げている。袋には野菜や卵、豚肉などがギッシギシに詰まっている。先輩の料理の下馬評は良くない。僕の不安な顔を見て、先輩は悪戯な顔をしている。
「これも復讐ですか。」
「お礼だよ。たださっきの言葉嬉しかったからだよ。」
鼻歌まじりで料理をして大変陽気だった。明るい先輩を見たのは久しぶりでとても嬉しかった。美味しい匂いが部屋中に漂って僕の空腹を誘う。部屋の空気に色がついていく。先輩の料理が楽しみになっていた。料理の完成間近、僕がくつろいでいたベッドの上に先輩がやってきた。ご飯かな、と聞くと、その前にやりたいの、と先輩は言って自分で上着とブラジャーを脱いだ。僕たちは裸になってベッドを揺らす。飲酒しないで性行為を行うのは初めてだった。案外、先輩も僕も息遣いが荒いことがわかった。お互い張り合うみたいに声を出して、息を吐いた。
一段落ついて先輩は裸のまま、料理の続きを始めた。僕はパンツだけ履いた。またベッドから先輩を見つめる。料理が食卓に並んだ。
「復讐は今夜で終わり。君に復讐する必要ないものね。あの人を思い出す毎日だったけど、もう悪夢を終わらすわ。」
「そう言ってくれて、嬉しいです。」
「食べよう。」
「はい。」
「あ、そう。良い夢を。」
先輩はおでんを作ってくれた。柚胡椒と辛子を混ぜた物を用意してくれていた。とても美味しかった。料理が苦手なはずなのに、おでんだけは彼女の十八番だったのか。いやそもそも、料理が下手なんてのも嘘なのか。わざとまずい料理を作っていたのも、先輩が言う復讐だったのか。今となってはわからない。そう、辛さでまるでわからなかった。先輩は睡眠薬をおでんに大量に入れていた。やっと思い出した。睡眠薬の効果なのか、意識が朦朧としてここまで思い出すのが一苦労だった。意識が朦朧とするのも、喉の不快感も、起こしたときに先輩の体が冷たかったのも全て先輩の仕業だ。
昨晩、薄れゆく意識の中で先輩は言った。
「君が寝た後、私も一緒に眠る。そこで永遠に君と一緒にいるの。やっと今あの人を忘れられているの。また思い出す前に、私にとって完璧な君が永遠に変わらない場所で、良い夢を永遠にみる。」
先輩は永遠に起きることはない。
もし起きることがあるなら、悪夢くらいだ。
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ご愛読いただきありがとうございました。
以下の曲をリスペクトして創作いたしました。
是非こちらも併せて聞いてください。
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