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『ダブドリ Vol.19』インタビュー06 中原雄(福井ブローウィンズ)

2024年2月9日刊行の『ダブドリ Vol.19』(株式会社ダブドリ)より、中原雄アシスタントコーチのインタビュー冒頭を無料公開します。

「日本にはプロのアシスタントコーチがいないんですよ。本当にヘッドコーチのアシスタントをしている人が多い。僕はそれを変えたいと思っているんですよね」
数年前からそう語っていた中原雄氏が、今シーズンから福井ブローウィンズのアシスタントコーチに就任した。中原氏の目指すプロのアシスタントコーチとは一体どういうものなのか。12月現在B3で首位を走る福井で中原氏はどのような役割を果たしているのか。強豪横浜エクセレンスとのアウェイ戦を控えるブローウィンズの練習にお邪魔し話を聞いた。(取材日:12月6日)

[ Interview & Photo by 大柴壮平 ]

もらって一つ目のドリブルをどこにつくかでポイントガードかそうでないかがわかる。

大柴 まずはチュウさん(中原コーチの愛称)のコーチング・フィロソフィについて聞いていこうと思います。と言うのも、普通のコーチよりチュウさんはインプットがめちゃくちゃ多いじゃないですか。現役のときは主将として4連覇を経験されていますし、専修大学でアシスタントコーチとヘッドコーチをやられて、並行して長年NBAの解説もやられています。さらに1992-94シーズンにいすゞ自動車で指揮を執ったドウェイン・ケーシー氏(現在はコーチを引退し、デトロイト・ピストンズのフロントオフィスで働いている)とは彼がNBAで成功してからも交流がありますよね。それだけのインプットを、どうやって自分のコーチングに落とし込んでいったのかをお聞きしたいです。
中原 ベースは現役のときのコーチですね。小浜(元孝。1982年に秋田いすゞ自動車のヘッドコーチに就任。1986年のいすゞ自動車移管後も指揮を執りいすゞ黄金時代を築いた)監督やドウェイン・ケーシー、年に2、3回指導に来てくれたピート・ニューウェルさん(1964年の東京五輪の時に全日本の強化に携わると、その後もたびたび来日して日本人選手を指導。日本バスケットボール界の発展に寄与した)。彼らが僕のコーチングのベースです。

大柴 その三人にはそれぞれどんな影響を受けたんですか?
中原 小浜監督からは「ポイントガードとはなんぞや」ということを学びました。ポイントガードは常に考えていなければならないというのが小浜監督の教えで、特に前後半の終わり、今で言ったらクォーターの終わりに時間と点差、どのプレーコールで終えるかというところまで考えられなければ一人前のポイントガードではないと教わりました。
大柴 ワンプレー、ワンプレーに一喜一憂していてはダメなんですね。
中原 そんなことしていたらポイントガードの仕事は務まりませんね。ポイントガードの心得についてはピートさんからも教わりました。一つはチームメイトの性格を考えること。例えばあの選手はこういう性格だから今言っても恐らく耳に入らない。だから少し時間をおいてからアドバイスしなさい。そんな指導を受けましたね。
大柴 コーチング以外でも使えそうな教えですね。
中原 そうなんです。ピートさんはコーチでもありティーチャーでもある。そんな感じの方でした。話していると何か見透かされている気がしてくるんですよ。今君はこういう風に考えてプレーしたと思うけど、他にもこういう選択肢があったよね。ポイントガードは常に最低でも三つは選択肢を持っていないとダメだよなんて言われると、思い当たる節があるから言葉がすごく胸に響くんですよね。

大柴 なるほど。今聞いていると、お二人とも戦術的なこととか技術的なことよりも、考え方に重きを置いて指導されていたのでしょうか。
中原 ピートさんは両方でしたね。技術的なことも習いました。「いいプレーヤーは前には行ける。右にも左にも行ける。止まることもできる。だけど本当にいい選手は後ろに下がることができる」とよく仰っていましたね。それとボールをもらって一つ目のドリブルをどこにつくか。そこでポイントガードかそうでないかがわかると習いました。
大柴 もらって一つ目のつき方の違いというのは、ドライブとかシュートを目指しているのか、それともアングルを変えるようにつくのかという違いですか?
中原 そうです。ポイントガードは一つ目のドリブルを全体のスペースが見れるところにつくんですよ。でも、そうやって見ていると、なかなかいいポイントガードっていないんですよね。
大柴 特に今は自分でガンガン攻めていくタイプのガードが多いですからね。ちなみに名前を挙げるとすればどの選手がチュウさんの言ういいポイントガードの条件に当てはまっていますか?
中原 NBAで言ったら(ボストン)セルティックスの(ドリュー)ホリデー。あとはインディアナ(ペイサーズ)の(タイリース)ハリバートン。それとクリス・ポール(ゴールデンステート・ウォリアーズ)ぐらいですかね。
大柴 ハリバートンはドリブルしながら後ろに下がっているイメージが湧いてきますね。常に視野を広く保っている印象です。
中原 そうなんです。あれだけフロア全体が見えているのは、見える位置に常に動いているからなんですよね。ハリバートンはルーキーの時からいいガードだと思っていました。まさかここまで化けるとは予想できませんでしたけど。ホリデーに関しては、高校3年生の時から知っているんです。
大柴 早いですね! 何がきっかけで注目するようになったんですか?
中原 アメリカに勉強しに行った時にUCLAでNBA選手のピックアップゲームを観る機会があったんですが、当時高校3年生だったホリデーがNBA選手を相手に普通に活躍していたんです。すごいものを見たなと思って、それ以来注目しています。ずっと過小評価されていたので、優勝した時は嬉しかったですね。
大柴 (ミルウォーキー)バックス時代ですね。日本のポイントガードはどうですか?
中原 日本では今のトップのポイントガードがチームで点を取ることを求められているじゃないですか。
大柴 河村(勇輝)選手、富樫(勇樹)選手、安藤(誓哉)選手といった選手たちですね。
中原 そうですね。安藤君なんかは元々ポイントガードというより生粋のスコアラーなので、どのチームでもあれを求められると思うんですけど、河村君なんかはおそらくナショナルチームの方針でシュートを沢山打つようになって、その流れでチームでも同じことを求められているんだろうなと想像しています。
大柴 フィンランド戦の河村選手はヤバかったですもんね。
中原 あれは彼がああやらないとチームが動かなかったですからね。チームから求められたものをああやってできるのも素晴らしいガードの証だと思うんです。たださっき僕が言った視点とはまた違う良さですよね。
大柴 河村選手の場合は例えば他のチームに行って違う役割を求められたらこなせそうな気もします。
中原 僕もそういう選手だと思います。

プロである以上、ヘッドコーチ、アソシエイトコーチ、アシスタントコーチの役割を明確にする必要がある。

大柴 小浜さん、ニューウェルさんと比較してケーシーさんはどういった指導方法だったんですか?
中原 ドウェインは小浜監督の逆で、技術的なことしか言わなかったですね。ピートさんがその間という感じでした。僕はその3人の偉大なコーチをミックスしたコーチになりたいと思ってずっとやってきました。
大柴 コーチとしては専修大学でアシスタントコーチを経てヘッドコーチに就任、長期に渡り指導されました。そこで偉大な3人のコーチをミックスしようとトライしたということですね。
中原 相手が大学生なんで、あの頃は技術的なことよりも精神的にどうアプローチするかという方に重きを置いてましたね。技術的なことで言うと、特に将来性がある選手には大学でこぢんまりとしたプレーをしてほしくなかったので、どのポジションでもできるように何でもやらせました。あとはもう一つ、日本には190㎝台の大型ガードが必要だと思っていたので、それは意識していましたね。

大柴 宇都選手(直輝。現富山グラウジーズ)や今シーズンから福井で再び同じチームになった渡辺竜之佑選手が専修大出身の大型ガードですね。
中原 あと田代(直希。現琉球ゴールデンキングス)もいます。田代を最初に見に行った時は点が取れるって聞いていたんですが、彼はボールも扱えました。宇都、田代、竜之佑という順に上手い具合に続いたのは良かったですね。彼らは大学に来た当初から上でも絶対できる選手だと思っていました。

大柴 その3人にはオールラウンドに何でもやらせたんですか?
中原 はい。僕の発想としては、何でもできれば上のカテゴリーに行っても困らないというのがありまして。
大柴 特に現代バスケはいろんなことをやれる選手が求められていますもんね。
中原 ドリブル、パス、シュート、何でもやる。今はアメリカもパクってますけど、元々これはヨーロッパから来たスタイルですよね。2メーター10センチある選手にもリングに背中を向けさせない。ああいうのを日本もアンダーのカテゴリーでいち早く取り入れるべきだし、プロのカテゴリーでも、アシスタントコーチが若い選手をしっかり育成していかないといけないと思います。

大柴 チュウさんにはもう何年も前から「日本には本当の意味でのアシスタントコーチがいない。日本ではアシスタントコーチがヘッドコーチのアシスタントみたいになっているけど、それは違う。僕がアシスタントコーチになって、そういう部分を変えていきたい」という話を聞いていました。
中原 これは京都のテクニカルアドバイザーをしていた時に感じたんですが、日本には本当に必要な個人のワークアウトが無いんですよ。チームの動きをブレイクダウンした練習はあります。例えばAからB、BからCにパスしてCがシュートを打つ、みたいな練習。あれをワークアウトと呼んでいる。でも、違うんです。どうやったら個人が上手くなるかというのを追求していかないと、選手個人が上手くなるわけがないんです。
大柴 ブレイクダウンした練習をしていればチーム戦術に馴染むことはできるけれど、スキルレベルが上がることはないと。では福井でチュウさんがやろうとしているのは、そのスキルアップの部分のアシスタントということなんですね。
中原 そうです。例えば志冨田(温大)にはマテオ(ルビオ。アソシエイトヘッドコーチ)と二人でフローターだったり、ステップを踏んだ後にクイックでシュートを打ったりといったワークアウトを徹底的にやっています。若い選手がチームのブレイクダウンの練習だけやっていても上手くなるわけないので、そうすると試合にも出れないですからね。マテオはスペインで育成に実績のあるコーチなので、僕もいい刺激を受けています。スペインの感覚だと育成のタイミングとしては大卒じゃ遅いと言うんですけど、僕は諦めたくないってマテオに言ったんです。日本には日本の年齢層があって、それでやっていくしかないし、彼を上手くしたい。僕はバスケットボールで生きてきたので、こうしてまたコーチングできるのは幸せだと思っています。だからこそアシスタントコーチとしてちゃんと勉強して、選手たちがステップアップできるような手助けをしていきたいですね。僕は自分がプロの時にそういう人に出会えなかったんですよ。ワークアウトに付き合ってくれるどころか球を拾ってくれる人もいませんでした。
大柴 え、そうなんですか?
中原 当時はいなかったですね。チームの中心は選手だと僕は思っているので、ちやほやするとかそういう意味ではなく、彼らが頑張ってくれるような環境を作ってあげたいんです。

大柴 戦術的なことについて伊佐(勉)HCから相談を受けたりはしないのでしょうか?
中原 基本的には伊佐さんとマテオが相談しながら戦術や試合ごとのプランを決めています。その中でもちろん僕が何か聞かれることもあるんですが、でも特にゲーム中は意見を控えるようにしているんですよ。
大柴 選手たちが混乱するからですか?
中原 タイムアウトの短い間に伝えられる情報って、コンパクトじゃなきゃいけないんですよ。情報があり過ぎてもよくない。伊佐さんとマテオが困っている時とか、二人が言ったことで余程必要なことが抜けていると感じた時だけ一言言うようにしています。それがアシストですから。プロである以上はヘッドコーチ、アソシエイトコーチ、アシスタントコーチの役割を明確にするべきだと僕は思っているんです。アシスタントコーチはヘッドコーチがどんな練習をしたいのかをミーティングの時からしっかりと察知して、それを選手たちに求めていかなきゃいけない。ここはああした方がいい、こうした方がいいとヘッドコーチに意見するのが仕事ではないと思うんです。もちろんチームには常にいろんな課題がありますけど、チームを作り上げていかなければいけないわけですから、ヘッドコーチが今はこれが必要だと言っているときに別の細かいことを言うのはナンセンスですよね。

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