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『ダブドリ Vol.16』インタビュー07 桂葵/前田有香/MQ(ZOOS)

2023年2月22日刊行の『ダブドリ Vol.16』(株式会社ダブドリ)より、インタビュー冒頭を無料公開します。

「女性を取り巻くスポーツの環境をリデザインしていく」ミッションを掲げて、ZOOS(ズーズ)は2022年春に立ち上がった。3x3の国別対抗戦「FIBA 3x3 ウィメンズシリーズ」が参戦の門戸をクラブチームへ開いたことに伴い、日独混合チームを結成。世界最高峰のツアー大会で、いきなり世界5位へ躍進した。発起人であり選手の桂葵と盟友・前田有香、ZOOSのアートディレクターであるMQに、1年目の舞台裏について聞いた。(取材日:2022年11月13日)

Interview by 大橋裕之/photo by 本永創太

このロゴが持つ可能性を信じて、ZOOSが走り出したんです。(桂)

大橋 私、2018年に当時は会社員の桂さんに初めて取材していて、「プロを目指すのは違うというか、仕事があって、週末に3x3でワクワクできるのが良い」と話していたのが、印象的だったんですよ。
 はい(笑)。
大橋 そこから会社を辞め、なぜZOOSを立ち上げようと思ったんですか?
 3x3をやってる以上、ずっと世界を目指していました。国内で4シーズン戦って、やっぱり世界に出て行きたいと思って、立ち上げを決めました。
大橋 この4年で心境の変化は、何が一番大きかったんですか?
 3x3にはまりました(笑)。本当に(本気で)バスケをやると思っていなかったです。理由は2つあって、1つは(SHONAN SUNSから)BEEFMANへの移籍です。練習環境が整い、コンディションが上がった。もっとやったらどうなるのか、ワクワクしたんです。もう1つは、3x3がスポーツ、カルチャーとしてスタートアップなので、このシーンでの楽しみ方が決まっていない。そこを描ける面白さがありましたね。
大橋 前田さんは、どう思いましたか?
前田 5人制を辞めて、絶対にバスケはやらないと思っていたんです。でも、何気なく始めた3x3は自分たちで自由にチーム作りができる魅力がありました。その分、結果が全て自分たちに返ってくるので勝つとさらに嬉しくなりました。ただ、競技にはまっていく中で男子のワールドツアーはクラブチームとしての参戦だけど、女子には無く、なぜないのかと思っていました。
 ウィメンズシリーズはありましたが、出場枠は代表チームだけ。いずれ女子もクラブチームとして出場できるという噂は聞いていて、3x3を本気でやったからには世界に挑戦したいと思っていました。でも、毎年まだ(できない)みたいな感じで、コロナもあって無理かと思って、競技人生的にもどうしようかなって。2021シーズンのプレミア(3x3.EXE PREMIERというプロリーグ)のシーズン中に膝を怪我をしたんですが、トレーニングやコンディションの取り組み方を変えてプレーオフに間に合って、優勝することができました。そこでの達成感もあり、その後来シーズンを考えた時に競技人生をどうしようか悩み、来シーズンのプレミア参戦に関してチームオーナーに相談にいきました。
 私もその時、来シーズンは競技環境を変えるために、何かしら世界へ出て行きたいから、プレミアの参戦はしないと伝えましたね。
前田 でも、結果的に良かったのかな。2021年の年末に(2022シーズンからウィメンズシリーズへ)クラブチームがコマーシャルチームという出場枠で参戦できる話になって。「本当に!?」って驚きましたけど、世界を目指したいと思いました。
大橋 ZOOS立ち上げへ、安田(美希子)さん(国内外の3x3に精通するZOOS結成のキーマン。のちにグローバルリレーションズを務める)に話をしたんですか?
 安田さんに相談へ行きました。3x3で世界に挑戦したいと話をしたんです。その後、コマーシャルチームの条件が発表されたのですが、参加費がとんでもない金額で、6人のロスター枠制限もありました。一方で、ウィメンズシリーズでこれまでのベースになっているフェデレーションチーム(各国協会が派遣する代表チーム)はロスターの制限がない。つまり、協会が連れて行かないWリーグの3x3をやりたい選手と一緒にチームを作る考えが難しいと察しました。チーム間で選手はシーズン中に行き来ができないルールなので、選手が代表に選ばれる機会を奪ってしまう可能性がありました。日本人だけで世界挑戦を考えていたので、Wリーグのチームや日本協会と話もしたんですけどね。
大橋 そうなんですね。
 それでも私たちは、未知数な状況だけど、一緒の船に乗って目的地を目指していこうと思える仲間が必要でした。安田さんを通じてFIBAに相談したところ、真っ先にドイツが挙がったんです。その後、他の国も挙がったので、最初にドイツと言われただけかもしれませんが、向こうに拠点を移せることも決め手でした。腹をくくって始まりましたね。
大橋 で、その船に乗ったのがMQさん!
 ZOOSの名前を一緒に決めました。
MQ ガストでね。
 茅場町の。MQさんは弟の大学の先輩なんです。
MQ 私は、スポーツチームを見てきて、スポーツと、アートやデザインの間に壁を感じていました。お互いに踏み込んでいかない印象もあったんです。でも、葵ちゃんはそんなことが無かったんです。私はバスケやNBAが大好きで見ていたので、その壁が無くなればいいなと思っていたから、選手側からアートやデザインが大事だよ、クリエイティブの力が必要だと熱弁されたら、「私もそう思っていたんだ!」と、共感しましたね。
 本当に、そう。選手もドイツも決まっていない時期でした。コマーシャルチームの枠ができると知った時点で、一番にMQさんへ会いに行きました。だから、日本人だけでチームができないと分かった時は一瞬諦めて、有香さんと2人でMQさんへ謝りに行きました。ロゴをお願いしていたので。
MQ チームができないかも、ZOOSが無くなったらすみませんと(笑)。
 頭抱えましたね。でも、ドイツが決まって、もう一度お願いに行きました。
MQ 結果的に全部良い方に行って良かったという話をしたよね。
 もうラッキー! 結果的に良かったけど、何度か絶望しました。
MQ いろいろね。
 ZOOSへの波を全てMQさんは見守ってくれて、信じてくれました。
大橋 名前やロゴの生みの苦しみは、ありましたか?
 ガストの打ち合わせで、名前の候補がありました。このチームは女性文脈で語られることが多くなると思ったので、あえて強い・かっこいい・独立したイメージがあるといいなと思いましました。GやZとか強めの音の名前にしたくて、ZOO(ズー)という案に、弟が「Sつけたらいいんじゃん」と言ったんですよ。
MQ 良いアシストだったよね。
 で、え! ZOOS(ズーズ)となって。
MQ ピンと来た感じだったね!
 MQさんが文字の並びを見て、「良い!」となって、名前が確定しました。
MQ 私も絶対いいじゃんと思った!
 そこからプレゼン資料をZOOSに書き換えました。選手もスポンサーもいなかったけど、このロゴが持つ可能性を信じて、ZOOSが走り出したんです。本当に嵐みたいな日々でした。ただ、私が走り回って、ワーッてなっているときに、帰ってくる場所がこの2人でした。あ、安田さんー!!!

〈安田さんが、赤ちゃんと到着〉
安田さん視点のZOOSストーリーは『ブリッジ』&ダブドリSOCIOで公開中!

ZOOSロゴがあって、テンション上がりました。ずっと試合中に映ってる。(MQ)

大橋 ウィメンズシリーズは7月からのシーズン途中参戦で、プラハ大会が初陣でした。イタリア戦では初勝利。ただ、緊張していましたよね?
 記憶ある?
前田 あまり無いんです。
 有香さんは、憧れの選手がね。
前田 念願の世界大会で、初戦はスペイン代表。サンドラ(Sandra Ygueravide)選手が憧れなんです。今まで試合も見ていて、かっこよくて、年齢も同じ。対戦できるとなったら、かなりの緊張でした(笑)。
 私は緊張よりも、ハイでしたね。「やっとスタートラインに立ったぞ。クラブチームの可能性を示すために、ここで結果を残すんだ!」という気持ちでした。
大橋 MQさんは、開幕戦はどう見られていましたか?
MQ (コートサイド看板の)端っこにZOOSロゴがあって、テンション上がりました。ずっと試合中に映ってるし!
大橋 確かに、そうでした。
MQ 全然、2人が緊張しているなんて知らなかったから、みんな揃ってユニフォームを着て、その出来を見ていましたね。
 そうそう。みんなに、ユニフォームがカッコイイと一番言われました!
大橋 それは他国の選手から?
 選手も、FIBAからも、現地のファンからもです。クリエイティブはZOOSの強みで、私たちが新しい女子3x3の可能性を示していける感触も初戦で感じました。
大橋 ひとつ聞きたかったことがあって。次のブカレスト大会は、2018年に2人が初めて出場した国際大会と同じ会場で開かれました。どんな気持ちでしたか?
 めっちゃエモいと思っていました! 有香さんは緊張してましたけど。
前田 4年前と同じシチュエーションだと、はっきりと覚えていました。でも、あの時はチームとして良かったと思うんですけど、私はもっとできたことがあったんじゃないかという気持ちでした。だからこそ、今回のブカレストでやってやるぞという思いもあったんですけど、初戦は緊張していましたね。
 2018年はSUNSがプレミアで成績が良くて、出場できましたが、海外まで行ける選手が少なくて、ライバルチームの有香さんに助っ人をお願いしました。一緒にプレーするのが、その時が初めてだから、18年の大会が全てのきっかけですね。
大橋 そうなんですね。ただ今回のブカレストでは準々決勝でカナダに大敗して、次のケベック大会も3戦全敗でした。
 選手同士がぶつかった時期でしたね。でも、結果的に全部良かったと思える4試合でした。苦しかったけど、ZOOSは、みんなの志が一緒だったんです。日本代表でウィメンズシリーズに出られない。ドイツ代表で出る可能性はあるけど、順番待ち。そんな私たちは、ただじゃ帰らないよ、という気持ちが同じだったから、コミュニケーションが上手くいかなくても、アマ(Ama Lemonie Owusua Degbeon)やジェニー(Jennifer Crowder)、エマ(Emma Lina Stac)も含めて、みんなが向き合い続けました。結局、勝ちたいんです。ブカレスト大会後から、チームのコミュニケーションも変わってきて、有香さんの役割が改めて明確になりました。次に繋がる負けだったと思います。

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