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『ダブドリ Vol.8』インタビュー06 前田顕蔵(秋田ノーザンハピネッツ)

2020年2月15日刊行(現在も発売中)の『ダブドリ Vol.8』(ダブドリ:旧旺史社)より、前田顕蔵HCのインタビューの冒頭部分を無料公開いたします。インタビュアーはマササ・イトウ氏。なお、所属・肩書等は刊行当時のものです。

あれだけタレント不在の状況でスタイルを貫いて17勝。これは中々すごい数字だと思っているんです。

―― 6月にヘッドコーチ(以下HC)就任が発表されましたがペップさん(ジョゼップ・クラロス前HCの愛称)の退任は4月末でした。その頃にはHC昇格が決まっていたのだと思いますが。
前田 いや、決まってなかったんです。
―― あれ、そうなんですか。
前田 シーズンの終わる3月末ぐらいの練習のアップ中にペップが僕に「俺、来年やらないから、お前やれよ。お前がやらないといけない」みたいなことを真剣に言い出して、「え? 何このタイミング」と思いましたよ(笑)。
―― ワハハハ。
前田 それ僕が決めることじゃないし。水野社長は外国人コーチも検討していました。一方で、秋田のスタイルを継続していくためには僕が適任とも考えてたそうなんです。そこでシーズン後に僕の方から社長に「どっちでもいいですけど、早く教えてください。別のコーチを探すなら協力するし、自分がやるなら選手のリクルートに早く動かないといけない」と伝えました。社長は僕が当時日本代表のサポートコーチを務めていたことも気にしてくれていたようです。HCになれば東京五輪は諦めることになるので。そのミーティングからは数週間で決まりました。
―― 細谷(将司。今シーズンから加入)選手がリクルートについて「前田コーチの情熱がすごかった」というコメントをされていたので、5月頃から準備はされていたのかなと思っていました。昨シーズン、B1に昇格したものの田口(成浩/現千葉ジェッツふなばし)選手が抜けて、いきなりB1で勝負という状況で、B1残留争いという結果でした。あと1年やればもっと成長できるという伸び代の部分や、問題点として修正した方が良いという部分、色々あったと思うのですが、どう見られていましたか。
前田 状況としてはすごく冷静に見ていました。まずB2からB1に昇格したチームの難しさと、その裏に隠れているリクルートの難しさ、全てが後手に回りました。そしてペップが外国人でB1を知らない。試合を見てないし、見てない選手は取りたくない。契約金額を聞けば滅茶苦茶高い。「なんでそんな選手達を取らないといけないんだ」という中で、集めたのが去年のメンバー。この状況で築いた17勝というのは、なかなかすごい数字だと思ってるんですよ。
―― 逆にですね。
前田 はい。去年は僕たち断トツにタレントがなかった。B2で結果を残した選手が集まってきたわけでもない中で、試行錯誤しながらスタイルで貫いた。
―― 貫けるのかという声もありました。
前田 ペップの苦悩もそばで見ていましたし、僕もできる限りサポートしました。こうできるだろうなというより、選択肢がなかったと思っていました。
 そして、今シーズン。選手を集めなければいけない。秋田がどうやってこのB1で勝っていけるのか。何を持ってアドバンテージを作れるのか、僕は二つだけと思ってます。一つはバスケットの「スタイル」、もう一つは「気持ち」。
―― 気持ちですか。
前田 気持ち。つまり人ですね。それができると思ったのは水野社長の人柄や、この秋田のホームのすごく温かい雰囲気。チームがお金やタレントで勝負できないときに、どうやって選手を呼ぶのか。他のクラブにない「気持ち」を見せていかないと伝わらない、響かない、それが僕の中ではすごくありました。そのために、僕と会社とチームスタッフが協力して「良い秋田」を見せないといけないと思いました。将司が「僕の情熱」と言ってくれるのは、すごくありがたいですけど、その裏には、営業の人達、グッズの人達、色んな人達がチームプレーで動いていたんです。
―― 総力戦だったわけですね。
前田 そうです。秋田ならそれができるし、強みにもなると思ってました。そういう今まで点だった部分を繋ぐ役割が、自分ならできるかもしれない、それにチャレンジしたいなって、強く思いました。

リクルーティングでは「このリーグで一番激しいディフェンスをしたい。君もやらないかい?」と伝えました。

―― 新加入の古川(孝敏)選手、細谷選手、伊藤(駿)選手、もともと面識はあったのですか。
前田 全然ないです。ハハハハ。
―― え! それはすごい。
前田 フル(古川選手の愛称)は日本代表でちょっとだけ。だけど、そんなにがっつり話したことはなかったですね。
―― それでも秋田に来てくれたというのは、チームワークの成果ですね。
前田 もう超ハッピーですよ。
―― 選手を選んでいくときのポイント、例えばチームの課題としてこういうことを解決して欲しいという点はどういうものがありましたか。
前田 「経験値」と「ディフェンス」「シュート」この三つだけです。それでリストを作って、そこにはまる選手を探してもらってすごくシンプルにやりました。
―― 「経験値」「シュート」で接戦を勝てるようになってきた印象です。ただ「ディフェンス」は秋田の場合、コンディショニング、走り切る、ハードにぶつかっていくとか、他のチームとは大きく違うと思います。
前田 はい、全然違うものだと思っています。
―― そこは選手の評価も変わってきますか。
前田 もちろん秋田とは違うディフェンスですけど、秋田がやろうとしているバスケットができる足を持ってるのか、ハードワークできるのか、それは映像を見れば分かります。リクルートのときは「このリーグで一番激しいディフェンスをしたい。やらないかい?」と伝えました(笑)。
―― え? そういう誘い方だったんですか(笑)。
前田 はい。映像をちゃんと見せて「君ならここにこうはまる」とか具体的にその選手にとってイメージがつくように見せました。
―― すごい! それで納得して来てくれたわけですから、これは嬉しいですね。
前田 滅茶苦茶嬉しいですよ。
―― 「やる」っていうことですもんね。
前田 はい。だから、選手もスタッフもそういう気持ちの人達と一緒に仕事ができて、やはり楽しいですね。
―― 一方で既存の戦力、白濱(僚祐)選手、中山(拓哉)選手との、新しい競争も起こっていますか。スタメンも固定されていないようです。
前田 そうですね。ペップはスタート固定って無かったんですね。それで僕も「あ、本当に必要ないな」と思いました。ゲームや調子によって決めてますね。自ずと競争は生まれて欲しいです。ただ、役割が余りにも違って、それぞれ個性的な能力があって、例えば中山と細谷だと全然違いますよね(笑)。
―― 確かに全然違う(笑)。そういう意味ではチームで補い合っているイメージが持てます。
前田 そうです、そうです。パズルを組み合わせるような感覚。

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つづきは本誌で!

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