「HEY!×3」にみる 笑いの天才【松本人志 特殊トークテク】 《凄さ》と《致命的な弱点》 音楽バラエティー番組 『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』 フジテレビ
本コラムは、
■電子新書■
[新版]「テレビ離れ」は、【松本人志】のせいだった!?
ー テレビ・バラエティー番組が、つまらなくなった本当の理由 ー
から、抜粋して再構成したものです。!
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‘‘本格派歌手‘‘を‘‘イジる‘‘
【松本人志トークテクニック】の
《真骨頂》
音楽バラエティ番組
『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』
先に述べてきているように、
「一般的なバラエティー番組制作手法」
「一般的なお笑いタレントのトーク手法・芸風」は、
《アウトとセーフのラインを見極め、エンタメとして成立するギリギリを狙う》ものだ。
それは、話題性や、視聴率を取るためにはある程度、過激で攻めたことをやらなければいけない一方で、
やりすぎて、スポンサーや、ゲストサイドからのクレームが来たり、
視聴者からの炎上を避けなければいけないという、
相反する要素を両立させなければいけないからだ。
そのため、〈数字〉と〈リスク〉を天秤にかけながら、エンタメとして成立するギリギリを狙い、【深さ】で、勝負する必要があるのだ
しかし、「松本人志」の場合は、
こういった〈一般的なトーク手法・芸風〉とは一線を画し、
《着眼点》や《言葉選び》という【角度】によって、
かわしながらも【インパクトのある笑い・見せ場】を作るという、
オリジナルの技を編み出した。
さらに、それは、
《リスクを最小限》に抑えながら《最大限の笑い・見せ場》を生むことができ、
なおかつ、
《どのような番組、どのような相手、どのような場面》においても広く対応することができる至高の芸であった。
そのため、
「松本人志」は、売れっ子タレントの中でも、テレビ業界において、特別な地位と評価を得ているのである。
その
【松本人志トークテクニック ・芸風】の、
有効性を、最も体現していたのが、
1994年10月17日から2012年12月17日まで放送されていた、
音楽バラエティ番組
『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』
フジテレビ系列
(ヘイ!ヘイ!ヘイ! ミュージック・チャンプ)
である。
この番組は、「ダウンタウン」がMCを務め、
毎週、ロック歌手やバンドのような本格派から、ポップ歌手、アイドルなど多彩なゲストが出演した人気プログラムであった。
主に、週ごとに数組のアーティストが出演し、
ダウンタウンと、ゲストのトークパートと、スタジオ演奏シーンから構成されている。
歌手をイジると、撮れ高は上がるが
どうイジるかは難しい
このような番組の中で、司会のダウンタウンが、迎え入れるゲスト出演者の大半は、
ミュージシャンや歌手という、
“バラエティー番組的 “ に扱いづらいジャンルの人々” である。
先に述べた通り、
このジャンルの人びとは、
総じて、テレビや、バラエティー番組への出演が少なく、
さらに、クールなイメージの場合が少なくないため、タレントと同じノリで、イジることが難しいタイプだ。
さらに、彼らの多くは、
タレントや、お笑い芸人のように、‘‘喋りのプロ‘‘でもなければ ‘ 、
自ら、率先してトークするわけではないうえに、
自身のイメージも重視する傾向が強い。
そのため、基本的に、MCの「ダウンタウン」 が《リード》しなければならない が、
《やりすぎてもいけない》 という点で簡単ではないのだ。
「さだまさし」「TMRevolution (西川貴教)」のように、
本格派歌手でありながら、話し上手であったり、タレント活動も行っている人、
アイドルなどは、バラエティー番組的なノリで扱ってもOKな場合も多いが、
その加減も、また難しかったりもするのだ。
このように、ホスト役であるダウンタウン、ことに、ボケやツッコミを入れる役割の多い「松本人志」は、
トークにおいて、押したり引いたりしながら、
ゲスト歌手のプライベートや、意外な一面など、素の部分を引き出していかなければならない。
なぜなら、
視聴者の多くが、音楽バラエティー番組に求めているものは、
アーティストの意外な部分を垣間見ることだからである。
普段は、クールでミステリアスな歌手・ミュージシャンが、想像もつかないことを喋ったり、
本来のキャラクターと違う茶目っ気のある様子を見せること
こういったことを視聴者は求めていたのだ。
特に、インターネットや、SNS、
「YouTube」「TikTok」のような動画投稿サイトが、
今ほどは、未発達であった2000年代後半くらいまでは、
アーティストの素の部分を見ることのできる機会は非常に限られていた。
そのため、この手の番組は、
そういった部分に、特に需要があったのである。
バラエティー番組的に扱いづらい歌手が相手だからこそ
「松本人志のトークテク・芸風」は、真価を発揮する
しかし、
そうは言っても、番組のホスト役からみれば、これは簡単なことではない。
先に述べた通り、タレントのように、
テレビ出演を生業にしている人であれば、
放っておいても、トーク番組として形になるし、きついイジりもOKだが、
ミュージシャンや、歌手などでは、
なかなか、そうはいかないからだ。
MC が、お膳立てをしなければいけない一方で、
《NGライン》 まで踏み込まずに、
彼らのパーソナルな部分を上手に引き出せるかどうかで、
番組の評価は、大きく変わってくる。
そのような観点から見ると、
「松本人志」の司会ぶりは、極めて秀逸である。
ここにおいて、【リスク】を回避しながら、
【着眼点】【言葉選び】という《角度》でかわすという、
【松本人志オリジナルのトークテクニック・芸風】の真価が、
遺憾なく発揮されていたからだ。
『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』は、
ゲストと「ダウンタウン」の掛け合いが魅力だが、
その中でも、トークの切れ間や、最後に、オチをつけるのは、
ほとんどが「松本人志」の役割 であり、これが、この番組の肝になっている。
ゲストの頭をはたいたり、どついたりするのは、相方の浜田雅功の役割であるが、
トークにおいては、
浜田は、相槌や、質問、コンビ芸としての松本へのツッコミなど、
サポート的な役割を担い、
ゲストに対して、
強くボケたり、ツッコミを入れるのは、
主に、松本の役割だ。
松本人志は、トークで、
‘‘扱いづらい人たち‘‘ に、好き勝手に放言し、茶化し、番組を面白いものにしている。
彼は、非常にリラックスした砕けた雰囲気を演出し、ゲストのトークを盛り上げている。
そして、いくつかの見せ場を作った後、
トークパートが終了し、歌唱シーンに画面が切り替わるのだ。
「松本人志」の特にすごい点は、
「矢沢永吉」「氷室京介」「井上陽水」のような、
バラエティー番組どころか、音楽番組にすら滅多に出ないような、
とりわけ扱いづらい大御所 でも、
変わらず、強いイジりや、ツッコミを平気ですることだ。
しかも、
当時の松本人志は、売れっ子ではあったものの、年齢的には30代とまだ若く、
キャリア的にも若手から中堅といったクラスであった。
しかし、その彼が、年齢もキャリアも上の大御所に対し、
普通のMCや、司会者では、なかなか言えないようなことや、
聞きづらいことまで、ガンガン攻めて、ブラックジョークまで発言している。
ぱっと見た印象では、相手の特徴やイメージとのギャップ、話の矛盾点などを、
面白おかしくイジり 、攻めるスタイルをみせ、
さすが、百戦錬磨の松本人志といった印象だ。
しかし、その内容をよく見ていくと 、
‘‘意外‘‘なこと” がわかる。
それは、【攻めたトーク】をしているようで【攻めて】いないことだ。
松本のトークや、立ち振る舞いをよく見ていくと、
放送には微妙な内容や、相手の反応から、
少しでも拒否感や、ナイーブな雰囲気を感じた場合は、
すぐにトークを《掘り下げる》 のを、
やめてしまうのだ。
その代わりに、【別の茶化しやすいポイント】 を見つけて、笑いに変え、一度、その話題をオトしてしまう。
つまり、《攻める》どころか
《配慮・忖度》した【逃げ】の姿勢なのだ。
先に何度も述べてきた通り、通常は、配慮や忖度をし、安全策に走った場合、
多くの場合、つまらない番組・つまらない タレントとみなされる。
だからこそ 多くの、バラエティ番組・タレントは、リスクを取りながらも、
ギリギリを攻めるのだ。
しかし、「松本人志」の場合は、
【他の人が思いつかないような、お笑いポイント】 を見つけるという、
《独自のテクニック》 によって、【逃げた部分】を巧みに《隠し》、
逆に、【インパクトの強いシーン】 を生み出すことができるのだ。
歌手や俳優 といった、
〈非バラエティー番組的なゲスト〉とのトークにおいては、
たくさんのジャブを繰り出し、派手に戦っているように見せて、
相手の‘‘急所‘‘ は、あえて狙わず、丁度よいところで手打ちにするイメージだ。
普通なら、
物足りなさが残るが、「松本人志」の場合は、
そこに、普通は思いつかない
《強烈な角度からのオチ》 が入る。
そのため、
《話の内容・深さ》は、
実は大したことがなかったり、
《本当に聞きたい話題》から、《ソフトな話題》にすり替えられていたとしても、
【インパクトのあるオチ】をつけることで、
「松本人志」が、相手を仕留めたような印象 が残るのだ。
派手な大技を繰り出すが、‘‘急所‘‘は狙わないような戦法とも言える。
それでいながら、視聴者に面白い、深い、過激なトークを見たような気にさせるのだ。
「松本人志のトークテク・芸風」は、
〈テレビバラエティ番組〉と、相性抜群
また、この芸風は、
テンポ・区切りが良いため、
テレビ的な編集もしやすく、
それがより強いインパクトを残すことに繋がっている。
一般的に、
「ゴールデンタイムのバラエティー番組」は、
〈尺の短い中で、いかに印象深いシーンを残すか〉
という点や、
〈番組の途中から見ても内容が分かり、
常に賑やかで見せ場がある構成〉
を理想としている。
そのため、
《話を深めずに、トークを小気味よく細切れ》にし、
《頻繁に見せ場をつくることができる》
【松本人志トークスタイル・芸風】は、
「テレビバラエティー番組」と非常に相性が良いのだ。
他のタレントとは一線を画する至高のオリジナル芸、
【松本人志トークテクニック・芸風】というのは、
フリートークに《漫才》の要素を取り入れたもので、
相手とのトーク内容を熟考して【深める】のではなく、
素早く反応し【オチをつける】というものである。
これは、
《着眼点》と《インパクトの強さ》 によって、
《逃げの姿勢》 を隠しながら、
【様々な場面】で【リスクを少なく】しながらも、【印象的なシーンを残しやすい】 という、
ある種、‘‘裏技的‘‘ ‘ で、強力なチート手法だと言えるのだ。
また、
「テレビ局」や「バラエティー番組制作スタッフの立場」からみても、
《都合が良すぎるメリットばかり》の、
‘‘夢のような手法‘‘だったのである。
このような実例をみれば、
「松本人志」が、テレビ業界において、
他の売れっ子たちと比べても、
特別な評価と影響力を得て、
二十年以上、第一線で活躍し続けられる理由に、おのずと納得がいくだろう。
“最強ゆえの弱さ”
最強に見える「松本人志トークテク・芸風」は、実は、諸刃の剣
しかし、
一見、最強に見える
「松本人志のトークテクニック・芸風」にも、
【致命的な弱点】は存在する。
強力な薬には、強力な副作用があるように、
彼の技もまた、“諸刃の剣的”なものであったのだ。
さらに、
その使い方を、テレビ業界が間違ってしまったため、
今日の【テレビ離れ】
ことに、【テレビバラエティ番組の低迷】が、
深刻化していると言えるのだ。
では、その本質とは…
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