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『陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「な、なんだ⁉」
「大入道?」
「……」
 大柄なものが栞たちの方に向かって歩いてくる。
「どうやら男ではあるようだが……」
「………」
なにかが軋むような音がするね?」
 耳を澄ましながら焔が呟く。
「これは……金物か?」
「それと木……かな」
「なんだよ、それは……」
「あいつから聞こえてくるよ」
 焔が大柄なものを指差す。
「…………」
「ほら、一歩歩くごとに」
「確かに……ガシャガシャ言っているな……」
「いや……」
「うん?」
 栞が焔を見る。
「どちらかというと……ガッシャガッシャじゃない?」
「はあ?」
「いや、ガッシャンガッシャンかな……」
 焔が顎に手を当てながら首を傾げる。
「別に音の種類はこの際どうだっていいんだよ」
「いやいや、大事なことでしょ」
「そうか?」
「そうだよ」
「まあいいや、それよりあいつはなんなんだ?」
 栞が大柄なものを指差す。
「さあ?」
 焔が首を傾げる。
「さあってお前……」
「人の形をしたなにかかな?」
「それはなんとなく分かるけれどよ……」
「人の形……」
 焔が自らの発言にハッとなる。栞が尋ねる。
「どうかしたか?」
「いや、あれは人形なんじゃないかなって……」
「人形だと?」
「うん」
 焔が首を縦に振る。
「人形って、あれか? 傀儡師とか、戎回しとかが道中で披露している……」
「そう、それそれ」
「あれは木箱の中に入った小さなもんじゃねえか」
「それはそうだね……」
「あんな大きい人形は見たことがねえぞ?」
「うん、こんな大きいのはないね……」
「え? こんな?」
「……!」
「うおっ⁉」
 大柄なものが太い腕を振るい、攻撃してきたため、栞は慌てて後ろに飛んでかわす。
「接近していたね、気をつけて!」
 横に飛んだ焔が声をかける。栞が声を上げる。
「声をかけるのが遅えよ!」
「気がついているのかと思って……」
 焔が後頭部をポリポリと掻く。
「お前との会話にすっかり気を取られていたんだよ!」
「ごめんごめん」
「ったく……」
 体勢を立て直した栞は大柄なものをじっと見つめる。
「……………」
「なんだってんだ、こいつは……昨日みたいに腐った死体かなにかなのか? それにしては顔が変に青白いというか……」
 栞が顎をさすりながら呟く。
「こんな美人を目の前にして、顔を赤らめないなんて失礼だね」
「い、いきなり何を言ってんだよ、お前は……!」
 焔の発言に栞が顔を赤らめる。
「え、アタシのことだけど? どうかした?」
 焔が自らを指し示す。
「お前のことかよ!」
「………!」
「どおっ⁉」
 大柄なものの攻撃が再度行われる。栞はまたもなんとかかわす。大柄なものの拳が地面を深くえぐる。焔が驚きながら呟く。
「なんて威力だ。食らったらひとたまりもないね……」
「ほ、焔! 変なことを言って、オレの集中を乱すな!」
「ええ? 変なことを言ったつもりはないけれど……」
「まあいい……とにかくこいつをなんとかする!」
「栞ちゃんも馬鹿力だけど、さすがに分が悪いよ!」
「馬鹿力って言うな!」
「じゃあどうするの?」
「なに、やりようはあるさ……『木枝の剣』!」
「……‼」
 栞は尖った木の枝をより鋭利にしたものを生じさせて、それを手に取って、斬りかかり、大柄なものの右腕を斬り落とす。
「どうだ!」
「お見事!」
 焔が拍手を送る。栞は素早く振り返って、冷静に大柄なものの様子を伺う。
「血は流れていねえ、かといって霧消するわけでもねえか……それにしても……」
「………………」
「腕が斬り落とされたってのに、うめき声のひとつも上げねえとは……不気味だな」
「やせ我慢しているんじゃない?」
「だと良いんだが……」
「…………………」
 大柄なものが栞の方に振り返る。
「まだやる気みたいだね!」
「腕じゃなく、腹か胸を斬る! そうすりゃくたばるだろ!」
 栞が再び勢いよく斬りかかり、木枝の剣を横に思い切り薙ぐ。
「……‼」
 栞の攻撃を大柄なものは身を屈めてかわす。
「か、かわされた⁉ しゃがんだのか⁉」
「………‼」
 大柄なものが斬り落とされた右腕を拾い、切断跡にくっつけてみせる。すると、その右腕がまたも動き出す。それを見た栞が大いに驚く。
「はあっ⁉ くっつけただと⁉」
「…………‼」
「がはあっ⁉」
 大柄なものが右腕を振るう。栞はその拳をもろに食らってしまう。
「栞ちゃん!」
「ぐっ……」
 栞が膝をつく。
「……」
 大柄なものが腕を振りかざす。
「あ、危ない!」
「くっ……『木の蔓』……!」
 栞が右手を振って、印を結ぶと、蔓が生え、近くの建物に巻き付ける。
「!」
「くっ!」
 栞が蔓を伝って、大柄なものから距離を取る。焔が声をかける。
「栞ちゃん、大丈夫! ……じゃないよね」
「わ、分かってんじゃねえか……」
 栞が腹をさすりながら苦笑する。
「まだ答える元気はあるみたいだね……」
 焔はほっとしたように呟く。
「元気というかなんというかだな……それにしても、こいつは……」
 栞が大柄なものを見つめる。
「………」
「腕を斬り落としたと思ったのによ……」
「自分でくっつけたね」
「どういう体してんだ?」
「……体の仕組みといったら良いんじゃないかな?」
「体の仕組み?」
 焔の呟きに栞が首を傾げる。
「例えば、額のあたりをよ~く見てみると……」
 焔が大柄な者の額のあたりを指し示す。
「……あれは継ぎ接ぎした跡か?
 栞の言葉に焔が頷く。
「つまりはそういうことだよ」
「いや、どういうこったよ、さっぱりわけがわかんねえぞ」
「……察しが悪いね~」
「悪かったな」
「……元々バラバラな頭や手足、胴体をくっつけて出来ている存在なんじゃないかな」
「な、なんだよそれ……」
 焔の推測に栞が困惑する。
「さあ、なんだろうね」
 焔が肩をすくめる。
「木で出来ているのか?」
「いや、大部分は金を使っているようだけどね……」
「………」
 大柄なものが栞の方へと近づいてくる。
「さて、どうしたもんかね……みぞおちに強烈なのを食らって、まだまともに動けねえ……」
「術は使えるじゃん」
「なんとかな……ただ、逃げるしか出来ねえぞ」
「とりあえずはそれで良いんじゃないの?」
「それもそうか……よし、ここは退却するぞ。悪いがこっちに近づいてくれ。迎えにいくのはちょっと骨が折れる……」
「いや、お一人でどうぞ」
「は?」
 栞が首を捻る。
「退却するのならお一人でどうぞ」
「お前はどうすんだよ」
「こいつをこのまま放っておくわけにもいかないでしょう?」
 焔が大柄なものを指差す。
「そ、それはそうだが……」
「まあ、なんとかしてみるよ……」
「な、なんとかするって……はっ!」
「……!」
「『木の蔓』!」
 蔓を生やし、それを伝って、栞が大柄なものの攻撃をかわす。
「やいデカブツ! アタシが相手だ!」
「…………」
 大柄なものが焔の方に向く。焔が両の手のひらを広げて小さく振る。
「あ、やっぱりなんでもないです。栞ちゃんのお相手をどうぞ……」
「うおい! ビビってんじゃねえよ!」
 栞が声を上げる。
「冗談、冗談……」
「冗談を言っている場合か……!」
「さて、どうしようかね……?」
「……………」
 大柄なものが今度は焔にゆっくりと近づいてくる。焔が自らの顎をさすりながら呟く。
「動きはそこまで早くはないか……ただ、あの強い力がどうにも厄介だ……まともにやりあったら無事ではすまないよね……」
「お困りのようだね……」
「ん⁉」
 焔が驚く。自らの側に、手のひらほどの大きさの人の形をした紙がひらひらと舞って、それから晴明の声がしたのだ。焔が呟く。
「晴明ちゃんの式神……見ているの?」
「ああ、その人形の紙を通してね……」
「随分とヒマそうだね」
優美に休日を過ごしていると言ってくれないか」
「それは心底どうでもいいよ……なに、冷やかし?」
「その大柄な人形の対処法を教えてあげようかなと思ってさ」
「わ、分かるの?」
「ああ、なんとなくではあるけれどね……」
「なんとなくでも良いから、早く教えて!」
 焔が式神のある部分をつまむ。晴明の苦しそうな声が聞こえてくる。
「! ちょ、ちょっと、そんなところに爪を立てないでくれ……!」
「あ、ああ、ごめん、わざと……」
 焔が式神を離す。晴明が呟く。
「わ、わざとって、君、質が悪いな……」
「それで?」
「……おほん、あの者は金の属性だ……ということは焔、火の術を扱える君なら克つことが出来る……! 『火克金』だ!」
「ああ……」
「君ならば出来る!」
「簡単に言ってくれるけどさ……」
「……‼」
「あぶねえぞ、焔!」
「……あまりやりたくないんだけど……『火炎放射』!」
「⁉」
 焔が印を結んで口を開くと、そこから火炎が放射される。それを食らった大柄なものは溶けるように霧消する。栞が頷く。
「……久々に見たな、その術……」
「いいぞ、焔。やはり君は大口を叩くのがよく似合う。いや、この場合は開くかな?」
「燃やしちゃおうかな……」
 焔が紙の式神を睨みながら小声で呟く。

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