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「ブルグマンシアの世界」のひとたち3~堀田ユカリ~

1ヶ月経っちゃいました・・・。
こんなに時間かけるつもりじゃなかったんですが・・・。
需要あるんですかね。正直自信はないです。
もう僕の備忘録というか自己満足という開き直りというか意固地というかゴリ押しですね。
なのでよければお目汚しにおつきあいいただければ、くらいのものです。
もちろんここに書かれるひとたちに関しては、僕は大事に書くつもりですし、これを読んでくださる奇特なあなたに残ったら嬉しいです。ほんまに。

今回こそ簡潔に終わらせるぞ。

堀田ユカリ(シロ)

今回の「ブルグマンシアの世界」は、舞台上に二人とか三人とか、少人数で会話してるシーンが多かったんですね。総当たりではないにせよ、それなりにみんなと濃い会話してるんですが、稽古期間のわりと初期に、いちばん稽古相手として僕につきあってくれてたのが堀田ユカリでした。積み上げの最初期に手合わせした時間が長かったので、印象に残ってる役者さんです。
あくまで褒め言葉として評するんですが、「素直」と「素直じゃない」が同居してる役者さんだな、というのがいちばん大きなイメージですね。そのイメージは公演本番を終えても大きくは変わっていません。

「試す」ということにそれほど躊躇がない。こちらから「こうやってみてもいい?」と提案すると「解りました!」と二つ返事。で、その提案には一定以上の答えを出してくれる。失礼ながらそれほど経験のある役者さんとは伺っていないので、このレスポンスはとてもありがたい。「素直」と評することのできる、大きな美点です。とってもやりやすい。
あ、そうそう。ある日の稽古中なんですけど、前出のベルにダンスの振り付けをしてもらってました。そのときは僕は自分のことで手一杯だったので、ぼんやり「(どのシーンの振り付けだろう・・・。)」くらいにしか思ってなかったんですが、始まってみたら僕とのシーンが突如ひとりタカラヅカになってました。完全にノーマークだった僕は「そこか!そこに持ってくるんか!」と崩れ落ちるしかなく。面白かったから全てOKなんですけど、(おそらく)焚き付けられたからといってそんな素直にやってしまうユカリさんのことがさらに好きになってしまいました((おそらく)焚き付けたうちの一人であろう斎藤ゆうは大爆笑してるし)・・・。

で、一方。
「素直じゃない」という一面も。
とても素直に「試し」てみてくれるんですが、そのこと自体には納得していない。おそらく。
またエラそうな言い方をしてしまうんですが、経験値がそれほどある訳ではないので、「試した」ことがどれくらい効果的なのか、自分で評価することができないのだと思うのです。その効果自体そんなに高精度で発揮できているとは言い難いのですが(そんなことは彼女の経験値から推量すると当然のことで)、でもそれを差し引いても、「自分がどれくらいできているのか」にとても懐疑的。いや、臆病と言った方がいいのかもしれません。だから彼女の口からは「・・と思ってやってみたんですがうまくいきませんでした」という類いの言葉が頻出します。
「こう思ったからやってみました!」という言い切りは、記憶の限りでにおいて彼女の口から聞くことはありませんでした。

この「素直」と「素直じゃない」の二面。
決して相反するものではありません。
「素直」に受け入れて試すからこそ、「素直じゃない」=「疑問を抱く」というプロセスに至ることができる、と思っています。
ゆえに彼女はとても正統的な進化の途上にある、と、独断ではありますが断言します。

「『素直』ゆえの」という前提のもと、「素直じゃない」あるいは「臆病」という彼女の素養は舞台上にも表出しています。功罪両面で。
たとえば。
シロが榊(斎藤ゆう)に喰ってかかるシーンがありまして。
ここでは榊を押さえ込む必要があるのですが、経験値でも技量でも優る斎藤ゆう相手ということもあり、なかなかうまくいかない。
ここから少なくともふたつの要素が抽出できると思っています。
ひとつは、ごく単純に技量と経験値が不足しているということ。
(僕を含めおよそ全ての役者さんが通ってきた途だと思います)
このシーンなら「いったんマウントを取ってそこからひっくり返される」という流れを逆算して細分化して、どの台詞/単語をどの強さでどの高低差でどの距離感で相手にぶつければいちばん効果的か、を計算するのですが、このことはある程度経験を積まないと見えて来ないものだと思います。
これは逆に言えば、ちゃんとした場数さえ踏めばどうとでもなる問題でもあります。
もうひとつ。
「臆病」は、「慮る」「(空気を)読む」と(一定の説明が必要だと思うのですが)換言できると思うのです。
「慮る」というのは文字通り「相手の事情や周囲の状況について十分に思いを巡らせる(weblio辞書)」ということであり、役者にとってはそのシーンを成立させるために必須の能力です。このシーンに限って言えば逆効果だったかもしれませんが、事情よりも状況よりも、「相手役の存在感」への思い(萎縮と言えるかもしれません)に偏重してしまったからなのかな、という気がします。でもさらに言い換えると(これも語義を少し整理する必要があるのですが)「(空気を)読む」という言葉で定義すれば、相手役の力量も含めてその場の状況判断がかなり正確にできているということの裏返しでもあると思うのです。

簡潔に、と言ったそばから・・・。
小難しいことはちょっと置いておいて、僕(ダスト)とのシーンを少し抽出してみます。

シーンとしてはひと続きなんですが、敢えて分割します。
以下引用、上演台本P12
シロ  な、なんだかんだ久しぶりやけど、最近どうなんですか?
ダスト え?
シロ  家のほう。
ダスト …相変わらずだよ
シロ  ま、そうですよねぇ。…そう簡単に、現実は変わりませんもんね。
引用以上
引用部分下から2行目のダストの台詞文頭に「…」が挿入されています。一方でその次のシロの台詞には「...」が挿入されていません。つまりダスト(僕)は、シロが「...」を使わなくて済むように、自分の台詞の「...」を処理しなければならなかった。おそらく作家はそういう意図で書いていたと思います。実際の舞台上に表出した結果の善し悪しは別にして、僕は自分の「...」を自分の得意分野で処理しました。その結果、シロの台詞の入りに「...」を挿入する必要が生じました。
(あとで中村太亮から聴いた話ですが、僕の「...」の処理はあまりオーソドックスではなかったようで。作家や演出、それに当の堀田ユカリには違和感を与えたかもしれません。一方で「効果的ではなかった」とも思っていません。行為の美化といわれればそれまでですが、作家という他者の言葉を操るうえで、この異化作業は有益だと思っています。)
で、堀田ユカリは。
「(「...」)ま、(まあ、)そうですよねぇ。・・(()部分を挿入)」という処理を掛けてくれました。
これも(演出からのアドバイスがあったのは重要な事実ですが)非常に有効な異化作業です。勝手にやらかしてみんなにケツを拭かせた僕が言うのも何ですが、とてもありがたい。
で、これも、字面を追うだけでなく、「場の空気を読む」チカラがないとできないことです。
おそらく彼女も事前に台本を読んで、ある程度そのシーンの絵面・光景を思い浮かべてプランを練っていたでしょう。よくあることとは言え、僕がそのプランと異なるアプローチを持ち込んだ。それを彼女は読み取って、どうにかしてそれを活かそうとしてくれた。で、これに関しては成功したと思っています。
経験値が云々、と彼女を評してはいますが、これを成功させてくれたという事実は、経験値に限定することなく、彼女の持つ「素養」としても評価すべきところだと思います。
(どうも「上から」な書き方になってしまいます。我ながらイヤなんですが、「自分より年齢も若く経験も少ない」役者さんに「これだけのチカラがある」「自分をも脅かしてくれる」という僕なりの喜びの表出だと思って許してください。あと、「今のうちにマウントを取って上下関係を植え付けておかないと自分の立場がヤバくなる」という窓際族の死亡フラグだとも(笑)。)

同じシーンでもうひとつ。
以下引用、上演台本P12
シロ  でもいいんです。うちにはここがあるし!ここにきたら、リアルのことは忘れられるし、…うちはうちでいられるし!ちゃんと、笑えるし。
ダスト ...…。
シロ  (満面の笑み)…ほら!
ダスト うん。いい笑顔だ。
引用以上
引用最上段のシロの台詞、内面的な葛藤(であろう)を示す「...」と、思考の決定あるいは決意表明を示す「!」が(おそらく敢えて)混在しています。「!」で自分の思考に決定を出しながら、同時に「...」で葛藤もしなければならない。かなり難易度の高い台詞だと感じます。「!」と「...」の配置は若干の異化作業を行っていたようには感じますが、その結果として、作家の意図をさえ超えた「堀田シロ」の揺れ動きが表出していたように感じます。これももちろん演出のディレクション抜きに語ることはできませんが、これをこなしてくれたおかげで僕は次の「...…。」で存分に彼女の葛藤と決意表明のせめぎ合いを咀嚼することができた。
同様に、引用下から2行目の「…ほら!」も。
ダストに「自分は大丈夫!」と虚勢を張るために、あるいはダストを安心させるために、「...」で目一杯葛藤した上で「ほら!」と満面の笑みを見せてくれる。
その「満面の笑み」にはほんの僅かな強がりが見えましたし、強がるために、少しだけダストから隠れたところで「...」でちゃんと葛藤してそれを振り払う仕草も見せてくれた。
そのおかげで、ダスト=僕は目一杯彼女の揺れ動きを感じることができましたし、そのあまりに複雑で豊かな揺れ動き、それをどう捉えたらいいのかというダスト自身の葛藤をも、引用最下段「いい笑顔だ」に存分に込めることができました。

あぁ。
やっぱり長くなっちまった。
予定ではもう一人書くつもりだったんですが。
確申終わるまでちょっと待って・・・。

相変わらずの散文(ここでは散漫な文章という意味です)になってしまいましたが、結論としては「堀田ユカリ=慮れる女優」とさせてください。
主観ではありますが、とても組みやすい女優さん。
次にお相手いただけるのが楽しみです。ほんまに。

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