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「ブルグマンシアの世界」のひとたち5~君嶋藍~

君嶋藍(音響、演劇 闇鍋会)

昔、「笑う犬の生活」というコント番組がありました。

コレで原田泰造さんのファンになりまして。
これ以外にも「ココリコミラクルタイプ」なんてのもありました。

今と比較するのもアレですが、この当時(2000年代)は「かっちり作り込まれたコント」が番組として成立していたように感じます。

何でこんな話をマクラにしたかというと、君嶋藍を語るのに「笑う」を抜きにすることがどうしてもできないからなんですね。
第0章から延々、いかに稽古場が笑いに溢れていたか、もちろん真面目にはやってるんですが、それでもうっかり笑ってしまってついつい脱線してしまってたかを語り続けてきたんですが、その中でも群を抜いて笑ってたのが君嶋藍でした。正確には、笑ってる時間数というより声量ですね。稽古場のある建物の外でタバコ吸ってても、君嶋藍の笑い声は明瞭に聞こえてきます。
ちなみに稽古場のビル(都島区民センター)は鉄筋コンクリート。分厚いコンクリート(実際には窓ガラスを透過する音波の方が強いと思いますが)の吸音効果をスルーしてしまう音量で、彼女はひたすらに笑い続けます。
参考までに。


引用はしたものの、正直読むのはめんどくさいと思うので、ハードコピー(スクリーンショット)を。
一般的な女声の音域が概ね2000Hz前後。稽古場の建物躯体がコンクリート、内装材がプラスターボードだったとして、約66db減衰されるはず。これは防音対策として十分とされる60dbを大きく超える数値です。
にもかかわらず、です。


笑う音響。
大谷奈津美の章でも書きましたが、役者はもちろん、スタッフが笑ってくれてる現場って、役者にとってはすごく楽なんです。手を抜くという意味ではなく、自分たちを支えてくれる人たちがピリピリしてない。落ち着いてくれてる。だから信じて舞台に立つことができる。そんなことを感じさせてくれるから。
本番中の出来事をひとつ。
確か2日目昼公演だったと思うのですが、流れているはずのME(劇伴、BGM)の音量が明らかにおかしい、そんな瞬間がありました。
(前提として、今回の音響オペレーションには僕が持ち込んだPC(DAW)とUSB接続のミキサ(フィジカルコントローラ)を使用しています。彼女はこの機材を現場でオペレートするのは初めてのはず。)
ちょうど僕は舞台上のメインスピーカの真下でフリーズしていました。
「鳴ってないな。」と思いながら、こっちは舞台上にいるわフリーズしてるわで当然どうすることもできず。まあぶっちゃけ「焦る」ことすらできませんでした。
そのうち。
音は復元してました。

あとから彼女に聴いたんですが、特段教えた訳でもないのに、最後に保存したデータを基にDAWを再起動していたらしいです。
実際には原因は他のところ(常設のアナログミキサ側)にあって、これが正解ではなかったものの。
初めて現場で使う機材でこれだけできちゃうのって。それも満席の本番中に。
あなたの辞書には「慌てる」という言葉は載ってないのですか?
「正解ではなかった」とは書きましたが、トラブったときにすべからく必要なのは、言うまでもなく「原因と思われる箇所を一つずつ検証して修復する作業」です。「どこがクサい」を見極める勘みたいなものは現場踏むうちに見えてきます。それより今の段階でそのうちの一つを教科書通りにやってくれたのはちょっとびっくり、というか感動でした。
ちなみにその回の本番が終わったあと彼女にそのことを伝えると「やったぁ!」とあまりに屈託のない返事が。・・たぶん、トラブった瞬間は少なからず慌てていたんだろうと思うんですよ。で、僕の言葉(賞賛したつもりではあるんです)に喜んでくれたのは間違いないと思うんです。でも、その「やったぁ!」を聞いちゃうと(現場にいらっしゃらなかった皆さんには伝わらないと思うんですが)あまりの屈託のなさに「あなたほんのちょっとでも慌てた?」なんてことを思っちゃいます。「むしろその瞬間も笑てたんちゃうん?」くらいのことは思っちゃいます。こんど隣にいた大谷奈津美に聴いてみよう。

そんなことを話したあと、飯を食いに楽屋に上がっていった僕を追いかけてきたのは、いつも通りの君嶋藍の笑い声でした。
「天然」、ではないな。
「動じることを知らない」圧倒的な強さ。
スタッフとしてはこれほど頼りになる要素はないですね。
まあひょっとしたら、今は「怖いもの知らず」なのかも。「怖いものなし」との微妙な違いはこれから明らかになるのかもしれませんが、現時点ではスタッフに求められる信頼感を発揮してくれています。
場数を踏んで「怖いものなし」に昇華されれば、あのある種脳天気な笑いは「作り込まれた」高笑いになるんでしょう。
楽しみで仕方がない。

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