契約書って必要?見積書を用いてトラブルを回避するポイント-その②

前回の記事はこちら

 今回の記事では、トラブルを防ぐために、特にフリーランスデザイナーの方に、「最低限ここだけは確認しておいてほしい」という内容について、おそらく多くの方が作成しているであろう見積書を意識して記載していきたいと思います。(もちろんフリーランスデザイナーの方以外にも応用できる内容です。)
 あくまで最大公約数的な一例として参考にしていただけますと幸いです。

見積書に書いておきたい7項目

①業務内容・金額
②報酬の支払時期・納期
③提案するデザイン数
④納品までの修正回数
⑤著作権譲渡の有無
⑥クライアントが成果物を使用できる範囲
⑦制作中止の際の扱い

①業務内容・金額

 業務内容と金額について、「カタログ制作一式:●円」「キャラクターデザイン:●円」などと大雑把に記載せず、金額の内訳を項目ごとに単価で分けて記載することがおすすめです。

 項目を書くことで受注範囲が明確になり「当然××までやってもらえると思っていたのに」といった認識のズレを防ぐことができます。
 さらに単価を書くことで、制作途中で撮影日数や、イラスト点数・ページ数などが変更となった際も「●頁増えたので、●円追加でお願いします」と追加費用の交渉がしやすくなります。

【具体例】
・項目例:ディレクション、デザイン、写真、イラスト、コピー、印刷費など
・単価例:「10万円(10p制作、1万円/1頁)」、「30万円(キャラクターデザイン3点、1点あたり10万円、ディレクション費は別途)など

②報酬の支払時期・納期

 報酬の支払時期を明確にして、支払遅延を防止する目的です。なお、納期は納品の目安時期として記載すればよいですが、納期が絶対的なものと思われると不都合な場合もあると思いますので、※等で「あくまで納期は目安であり、今後の進行状況等により変更となる場合があります。」などと書いておくとよいでしょう。

 ちなみに報酬の支払時期を事前に決めなかった場合は「納品と同時に報酬を支払う」というのが、民法のルールです。
 なので「事前に報酬の支払時期を決めていなかったから、支払いが遅くなっても仕方がない…」ということはありませんが、クライアントが民法のルール通りに支払う場合はほぼ0なので、やはりきちんと支払時期を決めておくことが望ましいです。

【具体例】
「納品月の翌月末」「納品から1ヶ月以内」「納品と同時」

③提案するデザイン数

 制作過程で提案するデザイン案の個数を明記すること、不採用案の無断利用を禁止する旨の注意書きを行うことがポイントです。

 制作過程で提案するデザイン数をきちんと明記して、クライアントから何度も繰り返し別のデザイン案の提出を求められることを防止します。もちろんサービスで提案してあげることは問題ないですが、本来費用が発生するようなことだが特別にサービスで対応するよということをわかってもらう意味でも書いた方がいいかと思います。
 また不採用となったデザイン案が無断利用されたというトラブルもよくありますので、見積書で注意書きをしておくことも重要です。

【具体例】
「ロゴデザイン決定までに●個のロゴデザイン案を提案します。仮に●個を超えてデザイン案の提案が必要となる場合には、別途追加費用が必要となりますのでご注意ください。なお、不採用案の著作権その他一切の権利は、全て受注者に帰属し、いかなる利用許諾も行いません。」

④納品までの修正回数

 デザイン案決定から納品までに行う修正回数を具体的に記載すること、納品後の修正等は別料金になる旨を記載することがポイントです。

 クライアントがOKを出すまで何度も何度も修正をしなければならないという状況を防ぎます。もちろんサービスで修正してあげることは問題ないですし、理不尽でない修正依頼はそうすべき場合もあるでしょうが、仮に理不尽なクライアントが存在した場合に、見積書記載の注意書を示せることは有用かと思います。
 またデザイン等の制作依頼の場合は、クライアントが納得いくまで修正してもらえると思い込んでいるケースもありますので、制作開始前にそうした認識のズレを防ぐことも重要です。

【具体例】
「お見積り内容は、デザイン案決定から納品までの段階で修正●回の前提となります。こちらの回数を超える修正及び納品後の修正は、別途費用が発生しますのでご注意ください。」

⑤著作権譲渡の有無

 デザイナー側からすれば、著作権譲渡をしない前提で、「※著作権譲渡は行いませんので決められた範囲でご利用ください」と記載することが考えられますが、仮に「著作権譲渡は行わない」と明示すると無用に揉めそうだと思われる場合には、以下の「⑥クライアントが成果物を使用できる範囲」だけを明確に記載するという方法もあります。
 「⑥クライアントが成果物を利用できる範囲」を記載しているということは、著作権譲渡をしていないと合理的に考えられますので、著作権譲渡をしたくない場合は、最低限これだけでも書いておきましょう。

 ちなみに、クライアントによっては、「別の媒体に使用するのにいちいち許可をとるのはめんどうだなぁ。」という思いなどから、明確に著作権譲渡を求める場合があります。クライアントが代理店の場合には、代理店のクライアントとの関係から、特に著作権譲渡を求めるケースが多いかと思います。
 この場合、著作権譲渡をすると、クライアントに無断で自己のWebサイト等でも公開できなくなりますので、「ポートフォリオとしての公開は可」ということを明確にしておくことが重要です。
 また、仮に著作権譲渡をして良いと考える場合であっても、契約上、クライアントに勝手に改変しないことを約束させたり、利用範囲を定めたりすることもできます。さらに、著作権譲渡を行う場合には、製作費とは別に「著作権譲渡料」として別途費用をもらうこことも考えられます。

 以上のように、著作権譲渡を行う場合には、様々なリスク対策や少し専門的な知識があった方がいい場合、記載方法に特別な工夫をするべき場合もありますので、自己判断のみで行わず、一度、専門家にご相談されることもよいかもしれません。

⑥クライアントが成果物を使用できる範囲

 成果物の使用範囲を制限したい場合にはきちんと使用できる範囲を明記することが重要です。また、成果物の利用時に、自己の著作権表記(©表記)をしてもらいたい場合には、その旨とどのように記載してもらうかにつき、指定することが望ましいです。

 成果物の使用を認める範囲を詳しく書いた上で、それ以外での使用には別途費用が発生する旨などを記載して、使用範囲の認識のズレを防ぎ、無断で二次使用されることを防ぎます

【具体例】
「成果物の利用は、ホームページ、SNSでの使用に限ります。それ以外での使用の場合(商品にロゴを付す等)には、別途費用が発生します。」

⑦制作中止の際の扱い

 制作がある程度進んだ段階で、クライアントの都合等により、制作が中止となった場合の扱いを書いておくことも重要です。

【具体例】
「クライアント様都合で制作中止となった場合は、以下の段階に応じて記載したパーセンテージの制作費用をお支払いいただくものとします。
・着手後ラフ提出前 ●%
・ラフ提出後納品前 ●%
なお、納品後については、事情を問わず100%の制作費用をお支払いただきます。」
「制作中止の場合は、事情を問わず、未完成の成果物、提案したラフ、不採用案を含め、提案した一切のデザインを転用・流用されないようお願いします。」

さいごに

 本記事で書いた内容はあくまで参考のための一例であり、どういった内容を書くべきかは、それぞれの方の仕事スタイル、取引内容や先方との関係によって変わる場合がほとんどです。
 何を書いてはダメということはありませんので、自分として、その取引で守ってもらいたいことや注意してもらいたいことについては、事前にきちんと先方と協議し、あとから双方が見返せる形で残しておくという意識が何よりも重要です。
 ご相談いただくトラブルの多くは事前に協議して確認しておけば回避できただろうになぁと思うものがほとんどです。本記事で書いた見積書などを用いて、先方と上手にコミュニケーションを図りつつ、トラブルを回避して日々の活動に打ち込んでいただけることを願っています。


~デザイナー法務小僧とは~
我々の活動の詳細は、以下の記事をご覧ください。


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