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シロツメクサ 3【創作BL SM小説】

「お兄さん、面白い人だったね」

ドライバーをまひるに交代してもらった香月が助手席でそう言った。

「はあ!?あのウンチク野郎の話が楽しかったって?」

「もう~。お兄さんには辛く当たるんだから。名刺に書いてあったインスタのアカウント見てるけど、なかなか面白い写真撮ってるみたいだよ?」

「見んな見んな!今すぐブロックしとけ!あんなん見たら目が潰れる!ヌードばっか撮ってんだろ?」

「うーんまあ、そういうのもあるにはあるみたいだけど、それ以外にも風景の写真とかもあるし。それにヌードだってイヤらしいって感じじゃなくて綺麗だよ?縄で縛ってる写真とかもあって、美しいって感じ」

「うつっ、美しい!?おい見んなよ、消せって」

香月が朝壱の撮影した写真を褒めていることに対して、まひるは面白くなかった。いつだって兄は、飄々としていて、好きなことを好きにやって、それが認められて、褒められる。面白くないし、ムカつく。やっぱり会わせるべきじゃなかったかも、と後悔していた。

ただ、前回の逢瀬の時に感じた気まずさみたいなものは2人の間には流れておらず、まひるはとりあえずほっとしていた。せっかく車を出したのだからと湾岸沿いのアウトレットモールまで遠出をしてショッピングデートを楽しみ、夜に香月の住んでいるアパートに一緒に帰ってきた。

今晩も泊まっていくでしょ?という香月の言葉に、いつもは素直に従うところだが、今日は戸惑った。もちろん先日の一件が気になっていたからだ。香月の消え入りそうな声で、「僕に酷くしてくれないか……」という懇願をいなしたまま、有耶無耶にしたままにしている。泊まるとなると、どうしたってそのことに触れざるを得ないだろう。

香月にまひるの困惑が伝わったのか、

「ああ、もしかしてこの前のこと、気にしてるの?」

とまひるの顔を覗き込みながら香月が尋ねる。ビー玉のように澄んだ瞳に射抜かれたまひるは答えに窮した。香月のこの顔を曇らせることだけはしたくない……と思ったからだ。しかし、この場にあった適切な言葉を見つけることはできなかった。

「……」

「いいのいいの。気にしないで。僕の方こそ変なこと言っちゃってごめんね……」

違う。違うんだ。謝らないでくれ。

「こっちこそ、ごめん」

「大丈夫……うん。だって僕、まひるくんのこと、愛してるから」

そう言って香月はまひるの胸の中に収まった。まひるを強く抱きすくめて香月の頭に顔を埋める。ふわふわの髪の毛がまひるの鼻をくすぐり、シャンプーと頭皮の匂いの混じった彼の甘やかな体臭を胸いっぱいに吸い込む。

そして、いつも通りのセックスが始まる。二人の湿度の高い吐息と、息継ぎと、喉の奥を鳴らすような短い喘ぎ声が部屋の中に充溢する。いつも通り、彼を慈しむように、大事に抱いた。彼が痛くないように、苦しまないように、大事に、大切に愛した。

香月の胸板は薄く、それでいてシミが1つも無くて白磁器のように白い。カーテンの隙間から差し込む街灯の光が当たって、まるで彼自身が光り輝いているように見えた。

闇夜を照らす月。

そんな真っ白な肌でつるっとした胸の上に、小さな2つの突起があって、それがかえってイヤらしい。こんなにも美しい身体があっていいものかとまひるは常々思う。こんな美しい存在を傷つけるなんて、そんなこと、できるはずもないじゃないか。これは俺が命を賭けてでも守る価値のある美しさだ。

まひるの指が与える快楽によって、真っ白だった胸板が桜色に火照ってきた頃、ふと昼間の朝壱との会話が思い浮かぶ。

<こいつらを幸せにしてやるには、踏みつけにして痛めつけてあげなければいけないんだ>

<大事にされるだけじゃ物足りない、痛めつけられなければ幸せを感じられない、そういう生き物がこの世界には存在しているんだよ>


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