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シロツメクサ 6【創作BL SM小説】

まひるは香月の歪んだ欲望を恐れるようになった。その恐れは、香月の歪んだ形の欲望に、心底惹かれているからくるものだった。そして、なによりも、香月の歪みが、まひる自身の歪んだ欲望の形を浮き彫りにしたからだった。

シロツメクサを踏みにじっていた朝壱の言葉が蘇ってくる。

<こいつらを幸せにしてやるには、踏みつけにして痛めつけてあげなければいけないんだ>

「兄貴の言ってたことって、間違ってなかったんだ……」

踏みつけにされてこそ美しなる生き物がいたことも間違っていない。しかし、それでも自分は踏みつけにしたくもないし、痛めつけたくもない。

そう思ったまひるはずっと、セックスの間の甘噛み程度に収めていた。どんなに香月に懇願されようとも、香月がまひるの加虐欲を煽ろうとしても、決して乗ろうとはしなかった。

そうしているうちに季節が移り変わっていく。朝壱の庭園に植えられたシロツメクサは庭中に広がって見事なグランドカバーを形成していた。しかも、朝壱が丹念に踏み続けたために、背丈が低く、庭全体に満遍なく広がった。

その日、大学の授業が休講になって1日が暇になってしまったまひるは香月の家に行こうと思い立つ。自宅を出る前に香月にLINEを送ってみたが返答は返ってこなかった。きっと大方、眠りこけているってところだろう。

香月の家の合鍵を持っていたまひるは着替えをして香月の家に向かう。もし、いなくても適当に遊んで香月が帰ってくるのを待っていればいいや、と考えた。

湯ノ神家と香月の家は電車で30分程度の距離のところにあっていつでも通える距離にある。その日は久しぶりの秋晴れで雲1つない青空が広がっていた。香月がふかふかの布団の中で丸くなって寝ているところを想像して、まひるは自然と笑みがこぼれる。惰眠を貪るまひるは天使みたいに可愛いのだ。

香月の下宿先のアパートの最寄り駅で降り、駅前のコンビニに寄って、この前、香月が好きだと言っていたスイーツポテトとカボチャのプリンを買って彼の家に向かう。

香月の家のドアに鍵を差し込んで解錠し、ドアノブに手を掛けた瞬間に、まひるは言い知れない違和感を抱く。何かがおかしい。その正体は分からないけれど、何かがいつもと違った。もしかしたら、このまま帰った方が良いかものかもしれない、とさえ思うほど嫌な予感がする。

その違和感を頭から振り払って、彼は扉を開けた。するとそこには、見慣れた香月のスニーカーと、これまた見慣れた朝壱のクロックスが並んで置かれていた。

……

……ん?

………は?

まひるの頭にはいくつもの疑問が浮かび、それが不安へと変わっていく。

「香月……起きてる?」

香月を呼ぶまひるの声は緊張によって掠れていた。

物音1つしない部屋を恐る恐る進んでいく。そして、部屋へ通じる引き戸に手を掛けて、ゆっくりと戸を開く。

「おやおや。弟君じゃないか。こんなところで会うなんて奇遇だね」

兄の朝壱がソファに腰掛けてニタニタと笑っていた。彼の右手にはカメラを持ち、もう一方の手には縄らしきリードのようなものが握られていた。その縄の先には後ろ手に縛られて、脚を曲げたまま縛られてM字に開脚されている香月の姿があった。

「んー!んー!」

まひるを見た香月は目を大きく見開き何やら叫ぼうとしているが、猿轡をキツく噛まされていて言葉にはならなかった。

「しっ!静かにしてなきゃダメだよ?」

朝壱はそう言って、裸足の足で顔を踏みつけにした。それを見たまひるは、

「おい!なにやってんだよ、クソ兄貴!」

と言って、コンビニで買ったスイーツポテトとカボチャのプリンの入った袋を朝壱に投げつける。それらは朝壱の肩に当たったが、それでも朝壱はまったく動じる気配を見せない。

「まずはその汚い足をどかせよ!」

「おいおい、落ち着けよ。なにカッカしてんだ」

「するだろ普通!早く!」

仕方ないなあ、と言って、香月の顔を踏みにじる足をどかして、ソファに深く座り直して、足を組み直した。

「説明しろよ」

そう言ってまひるは兄を睨みつけるが、朝壱は笑顔を一切崩さなかった。

「うーん。面倒だなあ。でも、愚鈍な弟のために順を追って説明してあげようじゃないか。

まずだ。香月くんはまったく悪くないよ。まあ、俺も悪くはないんだけどね。ていうか誰も悪くはない。はっはっは。

いつだったが香月くんが俺たちの家に来た時に俺の会社の名刺を渡した。そこにはポートフォリオ代わりにしているインスタのアカウントがあって、緊縛だったりSMをモチーフにした作品も載せている。それを見た香月くんが興味を持ってDMで連絡をくれたんだ。

香月くん。美しいだろ?だから、是非、モデルをやってくれないかって俺が打診したんだ。

それでこうなってるってわけだ。何か質問はある?」

「……ヤッたのか?」

「ふうん。ヤッてないって言ったらまひるは信じるかい?」

ニコッとして微笑む。その笑みはとても冷たくまひるの背筋に寒気が走った。

「ん゛ー!ん゛!ん゛っ!!!!!」

香月が床で喚いているがまったく言葉にならなかった。

「なあ、どうでもいいだろ?ヤッたとか、ヤッてないとか。所詮、粘膜同士が触れ合ったか触れ合ってないかの些細な違いじゃないか。そんなに重要なことかい?

それよりも、大事なのは美しさだ。この世の中で一番尊いものは美しさだ。

その次に重要なのが美しさを楽しむこと。

美しいものを楽しんで罪悪感を覚える必要なんてあるのかい?」

「言ってることがめちゃくちゃだろ……」

「いいや、めちゃくちゃなんかではない。俺が正しい。

それにお前だって薄々勘付いているんじゃないのか?

まひるだって俺と血が繋がっているんだ。湯ノ神家の人間には淫乱の血が流れている。お前だってそれが芽生え始めてるだろ?

香月くんを美しくするために、俺が踏みつけにしてやったのさ。だから言っただろ?<大事にされるだけじゃ物足りない、痛めつけられなければ幸せを感じられない、そういう生き物がこの世界には存在しているんだよ>ってな」



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