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IT投資によるサステナビリティへの効果認識はまだわずか――JEITA「日米デジタル経営調査」結果から

電子情報技術産業協会(JEITA)のソリューションサービス事業委員会は、3月6日、IDC Japanと共同で実施した「日米デジタル経営調査」の結果を発表した。日本企業と米国企業のDX/デジタル経営の違いを示すこの調査では、サステナビリィとデジタルとの関係についても言及している。本稿ではこの点に注目して紹介する。 

米国に比べてデジタルテクノロジーの適用領域が狭い日本企業

JEITAでは2013 年に「IT を活用した経営に対する日米企業の相違分析」、2017 年に「日本企業のIT経営に関する調査」、2020 年に「日米企業のDX に関する調査」を行い、デジタル化の進捗を捉えてきた。2023年の最新調査では、特にデジタルテクノロジーを活用した経営の意識と取り組みの違いに焦点を当ててアンケートを実施した。対象は民間企業の非IT 部門のマネージャーおよび経営幹部で、日本と米国それぞれ約300 社から回答を得ている。

調査の結果、中長期的なデジタル戦略を持つ日本企業は半数を超え、米国と大きな差はないものの、デジタル戦略と経営戦略の統合は米国の方が進んでおり、日本のテクノロジーの適用領域は狭いとJEITAでは指摘している。

サステナビリティ領域でのデジタル技術活用

デジタルテクノロジーの活用の一つとして、同調査では世界的な経営課題となっている「サステナビリティ領域でのデジタル技術活用」について、その分野を聞いている。

日本企業では、「省エネルギー化」が35.0%、「労働条件の向上」が28.0%、「法令順守」が26.1%でトップ3。米国企業では「労働条件の向上」が48.7%、「廃棄物の削減リサイクル」が44.7%、「ダイバーシティインクルージョンの促進」が43.7%でトップ3となっている。

 日本、米国ともにE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の幅広い項目でデジタル技術を活用しているものの、各項目の利用率では、米国の方が高い比率を示しているものが多い。

サテナビリティ領域におけるデジタル技術活用、日米企業の比較 
出所:JEITA/IDC Japan調査、2024年 

 IT投資の環境/サステナビリティへの貢献

IT投資に関して、全社または部門にこれまでにもたらした、あるいは現在もたらしている効果を挙げる設問では、「環境サステナビリティへの貢献」という項目も選択肢の一つとなっているが、日本企業で10.1%、米国企業で16.7%と共に下位であり、まだ大きな効果が認識されていないことが分かる。

ITがこれまでもたらした効果 日米企業比較 出所:JEITA/IDC Japan調査、2024年

一方、今後のIT投資に期待する効果では、「環境サステナビリティへの貢献」を選択した比率は日本では12.1%と下位のままであるのに対し、米国では20.7%となり、上位に浮上する。

ITに今後期待する効果 日米企業比較 出所:JEITA/IDC Japan調査、2024年

 グローバルな課題に対する感度の差


さらに今後2~3年で経営に影響を与える外部環境については、米国企業で「自然環境の変化」が36.%とトップなのに対し、日本では「消費者ニーズの変化」が37.7%でトップ、「自然環境の変化」は14.8%で9位であった。「地政学上の変化」も米国では29.3%であるが、日本企業では12.5%と最下位である。

経営に影響を与える外部環境 日米企業比較 出所:JEITA/IDC Japan調査、2024年

この結果について、JEITAでは「日本の企業はグローバルな外部環境変化への感度が低い」ことの表れではないかと分析している。 

すべての経営課題にデジタルテクノロジーを内在させる

 同調査はデジタル経営にフォーカスしているが、日本企業は全般的に「効率化」、特にプロセスの効率化を重視したデジタル活用にとどまっており、次の事業展開のための攻めの姿勢にする米国企業との意識の違いが浮き彫りになっている。
 したがってサステナビリティのようなこれからの分野に対しても、日本のデジタル活用は消極的な姿勢が見て取れる結果となった。
 JEITAはこの結果を踏まえ、「デジタル『経営』であることの理解」「日本企業の実態に即した人材施策と組織変革」「『米国企業だからできる』という考え方を捨てる」という3本の柱を掲げた日本企業への提言をまとめている。
 その中で「『デジタルのため』ではなく、『競争に勝つため』『従業員のやりがい』という高次の目的を設定し、戦略、人材、投資、組織文化、CSR…すべてに『デジタル』を内在させること」をアドバイスしており、サステナビリティ分野もその一つとして認識する必要があるだろう。


参考:プレスリリース
https://www.jeita.or.jp/japanese/topics/2024/0306.pdf

文:錦戸陽子
インプレス・サステナブルラボ 主席研究員。『インターネット白書』と『SDGs白書』の編集を担当。タテグミ代表。熊本県天草郡在住。

トップ画像:iPhotostock.com/pcess609
編集:タテグミ

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