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従業員のマイボトル利用の“習慣化”に向けて実証実験を実施――RFIDタグで利用状況を見える化

サトーホールディングス、象印マホービン、総合地球環境学研究所の3者は、プラスチックごみの発生を抑止する方策として、マイボトルの利用を“習慣化”するための共同研究を4月1日から開始した。その最初の取り組みとして「マイボトル利用促進プロジェクト」と題した実証実験が、同日からサトーHD社内で実施されている。

「マイボトルは面倒」を変える仕組みをつくりたい

本研究のきっかけとなったのは、サトーHD本社内のカフェのごみ箱が「夕方になるとプラスチックカップでいっぱいになっていてなんとかしたいと思った」(同社ビジネスイノベーション統括の熊林知之氏)ことである。同カフェでは年間約2万5000個のプラスチックカップが利用されている一方、カフェ利用者のうちマイボトルの利用者は2%にとどまっていた。さらに、同社本社内の自動販売機でも年間約5万本のペットボトル飲料が販売されている。

象印の調査によると、マイボトルの所持率は73%(*1)と低くないが、使用していない人も51%(*2)と多い。さらに、MMD研究所が東京・ニューヨーク(米国)・パリ(フランス)在住者を対象に行った調査(*3)によると「外出時にマイボトルを持つようにしている」との回答は、東京は他の2都市に比べて低い結果となっており、日本ではまだ、マイボトルの利用が習慣になっているとは言えない。

象印の調査(*4)では、マイボトルを使用しない理由のトップ3は①持ち運びが面倒②洗うのが面倒③準備が面倒――だった。だから、ペットボトル飲料を買ったりドリンクのテイクアウトを利用したりしてしまう人が多いのだろう。しかし、これはプラスチックごみ削減という社会課題に大きな影響を与える。

そこでサトーHDでは、自社のみならず社会全体の課題としてマイボトルの利用を定着させるにはどのような仕組みが必要かという検討・調査を始めた。その取り組みの中で知ったのが、象印の「マイボトル洗浄機」である。マイボトルを逆さまに置くとオゾン水が洗浄・除菌を行う装置で、これにより、新しい飲み物をちゅうちょなく入れることができるようになる。オフィスの給湯室やカフェの店頭、ホテルのロビーなどの設置を想定しており、外出先で手軽・気軽にマイボトルを洗える環境を整えることで「洗うのが面倒」の解決を狙ったものだ。

今回の実証実験は、このマイボトル洗浄機にサトーHDのタギング(*5)技術を組み合わせて実施される。その中で、マイボトルを手軽に洗えるようにすることで、マイボトルを繰り返し使用する行動モデルを提案するとともに継続使用の動機付けとなる環境への貢献度を分かりやすく提示することで、マイボトルの利用が習慣化するかを検証する。有効性の評価と検証は、ごみや環境・SDGs教育を研究テーマとしている地球研の浅利美鈴教授らの研究グループが協力する。


(*1)象印が、20~60代の男女4万3993人を対象に2019年8月に実施したオンラインアンケートの結果。
(*2)象印が、20~60代の男女1000人を対象に2019年10月に実施したオンラインアンケートの結果。
(*3)MMD研究所、「日米仏3ヶ国比較:都市部消費者の食の意識・動向調査」
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2190.html
(*4)象印が、マイボトルを利用していない20~60代の男女639人を対象に2019年10月に実施したオンラインアンケートの結果。
(*5)「自動認識技術を使って人や物にIDや状態などの情報を物理的にひも付けてデジタル化すること」(サトーHD)


記者説明会では、マイボトル利用促進プロジェクトのデモンストレーションが行われた
(右から、サトーHDの熊林知之氏、同社の坂上充敏氏、地球研の浅利美鈴氏、象印の岩本雄平氏)

従業員200人が参加する実証実験

マイボトル利用促進プロジェクトは、4月1日~9月30日の半年間、サトーHD本社オフィスで、同社従業員200人を対象に実施される。

実証実験に参加する従業員は、配布されたRFIDタグ搭載タンブラーをマイボトルとして使う。同社本社内のカフェにはRFIDリーダーを搭載したマイボトル洗浄機が設置されており、これでマイボトルを洗浄するとRFIDによって洗浄回数が取得される。この洗浄回数を基に、プラスチックカップ削減数とCO2削減量を算出する。参加者は専用のスマホアプリで、自分がどれだけ削減したかを確認することができる。

左:RFIDタグはふたの天面に搭載される
右:読み取りを含めた洗浄工程にかかる時間は20秒程度
(出所:共に象印のプレスリリース)

マイボトル洗浄機の利用回数に応じて同カフェの利用クーポンを配布したり、参加者全体のプラスチックカップ削減数とCO2削減量が増えるごとにアプリ画面内のイラストが変化したりするような仕掛けも用意している。これにより、参加者は個人および全体の行動による環境効果を、データとイメージでつかむことができる。

行動変容の効果は、実施前・3か月後・6か月後の意識調査で検証する。

左:専用のスマホアプリには、個人と全員の画面が用意されている。個人画面では、洗浄が行われるごとにスタンプが押され、利用回数に応じてクーポンやトリビアが表示される
右:全員画面では削減数・量に応じてイラストが砂漠から森へ変化していく
(出所:右は象印のプレスリリース)

なお、この実証実験は、他企業の見学も受け付けている。
「この取り組みは我々だけでやっていても広がらない。情報を広く公開することでさらに効果を上げていきたい」(サトーHD T4Sビジネスラボの坂上充敏氏)

文:佐々木 三奈
フリーランスライター/校正者、がん患者・経験者の運動を支援する「まめっつ」メンバー。『SDGs白書』『インターネット白書』の編集にも参加。

トップ画像:象印のプレスリリース

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