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「レジ袋有料化」の意味とは? プラごみ論争で知っておくべき重要なこと

レジ袋の有料化では、それまで当たり前のように無料で提供されていたものが有料となることに、抵抗を感じる人は少なくなかった。一方、その背景にある環境問題を意識するきっかけにもなった。プラスチックごみ問題の本質について、『SDGs白書2020-2021』を参照しながら解説する。

コロナ禍の最中に始まったレジ袋有料化

2020年7月1日にスタートしたレジ袋有料化によって、プラスチックごみ問題が注目された。プラスチックは、その利便性の高さから、あらゆるところで活用されている。それゆえに利用の制限や規制は、私たちの生活に大きな影響を及ぼす。

中でもレジ袋は、店で買った物を運ぶだけでなく、ごみ袋として利用されることも多く、日常生活になくてはならない存在だ。「使ってはならない」のではなく、あくまでも「有料化」であって、レジで数円払えば手に入る。しかし、「たとえ数円であっても有料」であることの心理的障壁は高いようで、多くの人がレジ袋を辞退するようになった(環境省のアンケート調査「令和2年11月レジ袋使用状況に関するWEB調査」によると「最近1週間以内にレジ袋をもらわなかった人」は、30.4%からレジ袋有料化後に71.9%まで増加した)。

プラスチックごみ削減に向けた啓発という政府の目的を理解して賛同する声がある一方、レジ袋を無料でもらえないことの不便さから、政策への批判も多くあった。環境への配慮という目的を理解した上で、「プラスチックごみ全体に占める割合を考えると意味がないではないのか」「レジ袋の代わりとなるマイバッグの増加は別の問題を生じさせるのではないか」といった意見もあった。

また、コロナ禍のタイミングで実施されたため、「感染症対策にはむしろ逆効果ではないか」という批判も強くあった。まだ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の全容が分かっていなかった当時の状況を考えるともっともで、こればかりは政府も運が悪いとしか言えない。もっと柔軟に対応できなかったのだろうかとも思うが、そもそもレジ袋の有料化は突然決まったわけではない。一部のスーパーでレジ袋を有料化する動きは数年前からあったが、政府(環境省)としてはレジ袋の問題に20年以上前から取り組んできた。例えば、レジ袋の削減に向けた調査を2008年から行っている。

2050年までに120億トンのプラごみ

さまざまな意見がある中で、レジ袋の有料化が強く進められる背景には、プラスチックごみ問題の深刻さがある。『SDGs白書2020-2021』の「プラスチックごみをめぐる最新動向と課題」では、大阪商業大学公共学部准教授の原田禎夫氏が、この問題の全体像について解説している。

海洋プラスチック汚染は年々深刻化しており、海洋生物への被害が生じていることや、マイクロプラスチックが人々の健康を脅かしつつあることから脱プラスチックが世界潮流になっている。各国首脳会議でも取り組みに関する宣言がなされ、世界中で政策が進められている。

1950年以降のプラスチック生産量は累計83億トンにも及ぶが、そのうち63億トンがプラスチックごみになっていると考えられている。しかし、リサイクルされたものはわずか9%にすぎず、このままプラスチックの生産と廃棄が続けば2050年までに120億トンのプラスチックごみが埋め立て処分されるか、環境中に流出することになる。

(『SDGs白書2020-2021』、p.147、インプレスR&D、2021年5月)

注目すべきは「意図しない流出」

原田氏は、欧州各国の積極的な取り組みに比べると、日本での対策は回収や処理が中心で、根本的な発生抑制については見劣りのするものと指摘する。その中で、2019年に政府が策定した「プラスチック資源循環戦略」と関係閣僚会議で策定した「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」に注目。8項目あるアクションプランの中で、特に「ポイ捨て・不法投棄、非意図的な海洋流出の防止」が重要であるとする。

海洋プラスチックごみ問題が社会の構造的な問題により発生しているにもかかわらず、不法投棄やポイ捨てなど、一部の心ない企業や個人に起因するものであるという考え方が広く浸透しているのも事実である。そうした中、意図せずして環境中に流出しているプラスチックも多くある、ということが明記されたことは大きな前進である。

(『SDGs白書2020-2021』、p.151、インプレスR&D、2021年5月)

この「意図せず」という視点は、地球規模でも同様だ。記事内で重要な事実として挙げられているのが、2019年に世界で最も多くのプラスチックごみを輸出したのは日本であるということ。そして、日本からのプラスチックごみ輸出先上位国には、海洋へのプラスチックごみ流出元と考えられている上位にも挙げられている国が多いということ。日本国内で出たプラスチックごみが、輸出された先で海洋に流出している可能性があるということだ。

レジ袋に限らず、プラスチックごみ問題でよく出る意見に、「流出量の多い国がやらないと意味がない」「流出量の多い国だけがやればよい」がある。しかし、名目上はリサイクル資源として輸出される廃プラスチックが、実際はごみとして流出してしまうこともあるのだ。そう考えると、ごみになった後の処理をどうするかではなく、根本対策=プラスチックそのものの使用を減らすという視点も、決して的外れではないだろう。

レジ袋の有料化がどの程度の効果をもたらすかは分からないが、その根本にある問題を正しく知っておくことは大切だ。事業者として取り組む立場であれば、顧客に説明できるようにしておくことも必要だろう。

現状とゴールまでの距離を考えると、本当に達成できるのかと途方に暮れてしまうが、少しずつでも進み続けることにSDGsの意義がある。


文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

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