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『地中海世界』フェルナン・ブローデル - 海

地中海の唯一の豊かな漁はまぐろ漁

 学生の時、訪れたギリシャで食べたのは、ヤギのチーズとオリープがたくさんのったサラダとムサカだった。海に囲まれているのに、魚が少ないと感じたことを思えている。「水産資源としての地中海は貧しい」とブローデルはいう。それもそのはず、google mapが示す地中海は深く、魚が好むプランクトンなどの餌がない。そのため、限られた種類の、少量の魚しか取れないのだ。

道としての地中海

 一方、「交通路」として地中海は、地中世界の「富のための道具」である。今のようにトルコからスペインまであっという間に駆け抜ける飛行機や、丈夫で大きな船が誕生するまでは、その海は土地をつなぐ「絆」ではなく、長い間「障害物」だった。そして、地中海を完全に把握するためには、幾重もの航路だけではなく、それらを取り巻く空間のダイナミズム、「交易路網の体系」として捉えることだ。

地中海世界の豊かさの秘密はシステム

 陸地、海、近接した空間が、地中海世界の日常生活に、豊かさをもたらす。地中海という道が、定期市をつなぎ、そこで情報や物や鉱物が交換されることによって、周辺に広がる空間の暮らしに彩りを添える。14世紀から16世には、ベネチアは交易網の核心に位置し、最も豊かな地域の一つとなった。ベネチアは、その近辺のヨーロッパ最大の消費国であるドイツの第一の仲介業者の地位をしめたのである。ヨーロッパ中の富が、地中海世界とその周辺空間を取り囲み、システムの中を留めとなく流れていた。

経済と文化に及ぶ影響をもたらす地中海

 このシステムは、「経済的成果」を産むに止まらず、文明、「文化的運動」にも影響を及ぼした。ルネサンスはイタリア、フィレンツェを起点に広がり、ローマ、スペインを巻き込み、全ヨーロッパを覆い尽くした。その範囲はペルシャやインドにまで及ぶ。この拡大した「遠隔地交易」が、まさに今に残るベネチアの華麗、豪華な街並み、広場を成したのだ。

 しかし、16世紀後に他に支配された地中海は、これまでの主の元から離れて行った。大航海によって大西洋航路が発見され、スエズ運河が開かれたとしても、一旦動き出したその流れは変わらなかったのである。

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