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ブローデルの人間賛歌:人間的歴史観

 ブローデル『物質文明・経済・資本主義 15-18世紀 日常性の構造』 の結論としてを読んでいきます。ここを振り返るのは実は2回目、前回は以下のようなまとめとなっています。

 ブローデルは、文明は一定の人間集団が一定の空間に定着したことにほかならない、という。経済生活は、規則性を基礎とする。しかし、私たちの生活は、不平等な凸凹で成り立つ。この凸凹のおかげで、世界が活気づき、より優れたシステムへと変化する。過去に資本主義を選択したのは、それが他のシステムに比較して自由を有していたからであった。資本主義が、自分が介入し、世界を経済的に変えていく原動力になった。
 今の私たちの眼前にある不公平社会の解決のために、私たちは何を想像するのか?そのヒントは、これまで私たちが信じていた尺度を変えるところにありそうだ。つまり、『革新せよ、さもなくば死ぬ、さもなくば停滞せよ!』は真なのか?仮に、経済尺度での停滞を選択し、新しい尺度として、生きがい、豊かさを目指したらどうか?そのような世界を目指すのかは、我々にかかっている。選択ができるのは、莫大な特権なのである!

以前の感想:https://note.com/d4a/n/ncb4e7b19fa84

人間中心的・価値共創的な歴史アプローチ

 今回読み直して感じるのは、ブローデルの歴史を見る暖かな眼差しだ。ブローデル自身、読者が自分の体験と重ね合わせて本の中身を充実させることを許容しているので、サービス論的、人間中心デザイン的に解釈していこう。

先端的な経済圏のなかにおいてさえ、遠い昔の物質生活がその名残をこそかしこに留めている。

ブローデル『物質文明・経済・資本主義 15-18世紀 日常性の構造』p326

 歴史を、過ぎ去ったこととして、今の生活と切り離して考えるのではなく、私たちの日常のそこかしこに自然にあると。私たちは、時間をかけて築かれてきた歴史と共に、今生きているのだ。

こまごまとした事実ながら、無際限に繰り返されてゆくと、なろほどそうしたことどもは連鎖的現実として自己を主張する。

ブローデル『物質文明・経済・資本主義 15-18世紀 日常性の構造』p327

 歴史から浮かび上がる自己主張は、人間の営み、すなわち文明との対話の中で、不規則な中に点在する均衡、それらが恒久的な絆となり、新しい秩序を創り出す。ブローデルにとって歴史を考える上で、人間の活動が基礎であり、それが歴史の原動力である。物質文明抜きでは、歴史は空虚なのである。

理性的・非人間化される社会経済

 私たちの物質文明の営みは、長年、穏やかで遅々として進まず、ごった煮のようだった。しかし、そこから規則性が姿を表す。それは、分類、階層性、数量化、合理的理性と馴染みが良い。そして、急速に威力を増していくのである。資本主義は、自由市場と交換といった規則性を武器に、介入できる領域を戦略的に拡大してきた。

 幸いなことは、その革新的な変化の中でも私たちの世界の大部分は、物質文明として営まれ、機械的で均質ではないのだ。ブローデルは、その不均衡こそが、私たちの次の変容をもたらす僥倖だという。

まさにこれらの不平等・不正・矛盾ー大きいものも微細なものもーのおかげで、世界は活気づき、その構造は絶えずより優れた形態へと、つまりそれだけがほんとうに可動的な構造へと、変貌していったのである。

ブローデル『物質文明・経済・資本主義 15-18世紀 日常性の構造』p331

人間的な社会を想像・創造し、選択するのは私たち

 この書籍は、歴史が、日々の暮らしに埋め込まれている以上、人間が介入している限りは、良い方向へ進むというブローデルの人類への応援歌だ。以下の3点がある間は、私たちの行く末は明るい。 

  1. 歴史の物質文明への埋め込み・対話

  2. 秩序下における物質文明の不均衡性

  3. 混沌下における人間的な想像性

 均質な、人間味のないSFの世界をデストピアと感じるのは、上記の3つが成り立っていない世界だからだろう。私たちが主体的に考え、行動し、機械的全自動でないうちは、私たちの選択が入る余地があり、それらが良い方向を創り出すという希望がある。新しい秩序、どんな技術を作ったとしても、それとの付き合い方を自ら考える。考えてみれば、他人任せにして破滅した事例には事欠かない。

 最後に、前回の自分への問い「これまで私たちが信じていた尺度を変えるところにありそうだ。つまり、『革新せよ、さもなくば死ぬ、さもなくば停滞せよ!』は真なのか?」を考えてみよう。ブローデルなら「尺度は、自分の中にあり、革新・停滞をどう捉えるかについても同様だ。いつも歴史と共に!」と、言うのではないか?ブローデルの人間賛歌、前向きな期待を背に受けて、私はこれからも遅々と考えていきたい。


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