プーチンの終わりは始まっているのか

私たちからすると、ロシアのウクライナ侵攻が始まって2週間が経過したとなるが、ウクライナに言わせれば、これは2014年から続く戦いである。そのとおりだな、と思うと同時に、裏を返せばロシア側も8年にわたって介入を継続していることになる。そこで思い出したのがForeign Affairsの、ロシアの政策決定において軍が影響力を増している、昔と違ってFSBではなく、という論文だった。

これをプーチンの戦争と呼ぶならば、実際に彼がほとんど1人で意思決定したのだからこの呼称が正確だろうが、プーチンが権力を失う、倒れることは講和への狭い道の1つとなる。ウクライナが軍事的にロシア軍を撃退すること、ロシア軍が一方的に撤退すること、またはウクライナ全土を占領すること、これらが戦争の終結点になる可能性は低い。和平交渉については、今がまだその時ではないのが今日のトルコ・アンタルヤでの外相会談の決裂でも明白なところだろう。

プーチンが倒れるという結末を迎える場合、そこから遡って何が条件となるのか、バックキャスティングでシナリオを考えてみる。突然の自然死、病死、事故死は除くとして、経路として考えられるのは①ロシア民衆の反政府運動の高まり→政権打倒、②権力の回廊とかインナーサークルと呼ばれるところでのプーチン押込(宮廷クーデター)、③側近や警護による暗殺、④軍・治安機関の離反とクーデター、このあたりだろう。

ロシアの政治中枢の内情や反政府勢力の実態などは情報が欠如しているので、それぞれ足早に検討してみる。

先ず①の民衆による政権打倒だが、現時点ではその兆しはない。反戦デモが行われても数千人単位で当局が拘束して抑え込んでいる。何よりプーチン政権の支持率は、少なくとも今はそんなに低くないのだ。開戦前は独立系の世論調査で7割を維持している。欧米諸国の経済制裁によるルーブル下落や経済麻痺の影響が出てくるのはこれからだが、ロシア国民の過半にとって政治的不安定、ソ連崩壊後の混乱の日々の記憶が残る限りは、プーチンが倒れることを望むに至らない可能性がある。

続いて②の宮廷クーデター。これについての予測は非常に難しいが、条件としてプーチンに代わる新たな指導者の存在が合意されている必要がある。次の大統領になるべき存在、ポストプーチン、プーチンの後継者、これが浮かばないとしたらおそらく成功しないだろう。よって現時点ではこれも排除されるシナリオ。

そして③、暗殺。KGB出身でFSB長官を務めたスパイ出身のプーチンが暗殺される絵は浮かばない。暗殺を計画するような背後のある人物は事前に排除されているだろう。プーチン自身がそんなに人を信頼信用するとも思えない。

最後の④。これで冒頭の話に戻るが、出身母体の旧KGB、FSBの情報機関治安機関を頼ってきたプーチンだが、クリミアやシリアで「成功」を収めてきた軍への依存度が増しており、ショイグ国防相も政権のインナーでは在任期間が長く重用されているとの論考がある。今回の戦争計画でもショイグと参謀総長のゲラシモフは当然知っていた、最側近となっていたわけで、軍との関係において兆候となるものは表向き見受けられない。また、今や時の「人」さんがツイートしていたけど、ロシア軍とクーデターはこれまであまり結びついていない、少なくとも軍組織が一致して権力奪取に動くことはなかったと述べている。したがってこれもペケ。

独裁者が倒れる事例を踏まえても、戦時中に攻勢側で変事が起きたというのはメジャーな出来事ではない。サダム・フセインなどは湾岸戦争で失敗しても、その後イラク戦争まで権力の座を維持していた。そう考えると、プーチンが失脚するシナリオは、今は見えない。少なくとも現時点から線形的に展開するシナリオではなさそうである。今回の軍事的冒険主義、侵攻がロシアにとって失敗し、プーチンが権力を失うのではと見る向きもあるが、wishful thinkingだなというのが本日の評価。

英米のインテリジェンスレベルで掴める未知のトリガーがあれば話は変わるけれど、今ある材料だとそんなところ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?