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奇巌城

ご存知だろうか。
僕はすっかり忘れていた。

アルセーヌ・ルパンの本を、
娘が学校から借りてきて、
読んでいるのを見るまでは。

著者モーリス・ルブランはフランス人で、
イギリスの人気作家、
アーサー・コナン・ドイルに敬意を表し、
登場させた名探偵役の名前を、
アナグラムを使ってエルロック・ショルメにする。

もちろんシャーロック・ホームズとは別人だ。

英語読みでハーロック・ショームズ、
と訳せばまだよかったものを、
エルロック・ショルメではわからないからと、
シャーロック・ホームズそのまま使ってしまった。

最初に翻訳を発表したのが、どこかは知らないが、
世に広めたのはおそらくポプラ社だと思う。

クリーム色の背表紙、黄色のタイトル帯、
表紙の絵が劇画風の「怪盗ルパン全集」だ。

これが子どもの頃、父親の本棚に並んでいた。
その中でもなぜか僕は「奇巌城」が好きだった。

探偵や推理小説は知恵を使うことが多い。
けれどこの「奇巌城」は冒険だった。

危険に挑む勇気がいる。
子どもにとって、冒険そのものが夢だった。

うちの全集はいつの間にか無くなっていたが、
ポプラ文庫から同じ装丁で「奇巌城」があり、
南洋一郎訳も変わらないので思わず買って読んだ。

あとがきの最後の最後に、
原作者および翻訳者は故人であり、
本書の文学性や芸術性を鑑み、
表現の削除や変更を行いませんので、
注意深くお読みください、とある。

ポプラ社は童話や絵本など、
児童文学に長けた出版社である。

昔のヒットシリーズとはいえ、
教育的に勧められる本として、
他の出版社から次々と新訳が出ている。

出版社との仕事を長くしてきた中でも、
この時空が複雑な権利関係は悩ましい。

それでも僕は、ポプラ社を応援したい。

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