人は誰でもミスをする。
1995年、メルセデス・ベンツの広告。
当時憧れた、キャッチ・コピーだ。
僕は、広告会社に就職し、コピーライターになった。
新聞広告は毎朝、目を通してから、一日が始まる。
と言っても、夜中や明け方まで、
仕事をするのが当たり前の頃で、
1日の始まりとか終わりとかのない日々だった。
複写機をゼロックスと呼ぶ。
原稿用紙は1冊が1日で無くなる。
職人の集団だった。
デザイナーやアートディレクターは、
みんな美大出身で、マックでデザインする。
カメラはまだデジタルじゃなく、職人技だった。
僅かな光や背景の違いでガラッと変わる、
撮影現場の緊張感にゾクゾクした。
コピーライターの師匠たちはみんな、
ではないけど、机の上には、
吸殻が溢れた灰皿があり、
仕事が早く終われば飲み歩いた。
書いても書いても、
原稿用紙は屑籠行き。
僕という人間が、
屑だと言われている気がした。
下積み時代とはそんなものだと、
思っていたところもある。
だから、クライアントに褒められ、
自分の書いたコピーが、
新聞広告やポスターになるのが、
どんなに嬉しかったことか。
日記や小説を書く余裕は無かったが、
インプットとアウトプットの毎日は、
怒涛のように過ぎていく。
もちろん仕事で書いた数々のコピーも、
駆け出しの僕にとって宝物だったし、
大先輩の書いた数々のコピーも、
年鑑で書棚の奥に眠っている。
それはまだしばらく、
この胸にしまっておこうと思う。
仕事漬けの日々でも、街を歩け、
本を読め、音楽を聴け、映画を観ろ。
この無言の圧力は凄かった。
それが、人間や社会の本質を言い当て、
温かく、共感される言葉の力を磨くのだという。
人は誰でもミスをする。
なんと優しさに満ちた、コピーではないだろうか。
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