第7章
本番当日は、落ち着いて迎えることができた。
自分にとって定期演奏会3回目、今までの会場が改修になって、いつものホテルから徒歩5分、というわけにはいかなかったが、それでも自宅からより1時間以上短縮でき、しっかりと朝食ビュッフェを満喫して、会場に余裕で到着さた。
コンビニでこれも定番のお茶、ウィダーとリポビタンのいいやつを購入して昼食の心配もない。会場設営も今まで以上に積極的に手伝うことができた。
そして迎えた2時間のリハーサルは、あっという間だった。昼休み、チェロ数名が残って練習した。前回首席に、残って聴かせて、と言われた苦い経験を思い出す。最後まで、同じプルトの表の方が残っていた。彼女は、家庭の事情で合奏練習にあまり参加できず、最終的には15年以上の団員生活に終止符を打つ。
当たり前だが、ホールで弾くリハーサルは、聴こえる音が違う。3回目で慣れてるはず、ではなく、今回初めての会場では、初めて聴く音だった。
いつもはすぐ後ろの木管楽器が、よく聴こえていた。いや、もちろん当日会場でもよく聴こえていたが、右後方からのティンパニとトランペットが、そこに覆い被さってくる。サポートのクラリネットも、よく聴こえた。
それなのに、両隣のチェロの音がしっかりと聴こえてきたのには、動揺してしまう。リハーサルでは、いつものように音を出せなかった。それで逆に、力を抜くことが自然にできたのかもしれない。
本番。最初のモーツァルト交響曲第26番は、もう少し弾けた気もするが、落ち着いてできた。難題のアリアは、やや事故がありながらも、それを冷静に受け流すことができた。
休憩も落ち着いていた。いよいよ、ベートーヴェン交響曲第7番。今までのことを考えない。もっとあれをやっておけば、ということは、考えてもキリがないのだ。今はただ、本番にできることをやることだけに、集中した。後半が始まり拍手の中、席へと向かう。右隣のチェロの先輩が、めったにできないベト7を楽しみましょう、と声をかけてくれた。心配ない。緊張もしない。さんざん練習したのだから。
指揮者のアイコンタクトに、また緊張が解れる。姿勢を正して、あの最初のAを気持ちよく弾こう。
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