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『オッペンハイマー』

これだけ観るかどうか迷ってから観た作品も珍しい。
アカデミー賞7部門受賞では尚更だ。レースの相手が『バービー』なら仕方あるまい。

監督のクリストファー・ノーランは、スタンリー・キューブリックを崇拝し、ドラマよりSFを得意としていた。デジタルよりフィルムにこだわり、映画館での鑑賞を推奨する。映画はエンターテインメントだと、言い切る映画人だ。だから余計に、観たくない、という気持ちが勝っていた。原爆開発がエンターテイメントだと?
もはや当事者が少なくなり、絵空事になりつつあるのだろうか。ウクライナもパレスチナも、画面越しに慣れきってしまっている。同じくアカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した『関心領域』はホロコーストだ。
戦争はエンターテインメントではない。差別だ。
オッペンハイマーが、ユダヤ系ドイツ人の子であることは、おそらく大きな意味を持っている。大学で物理学を学べる、ごく一握りの富裕層だ。彼は原爆開発を進めるナチスを憎み、開発競争をリードした。
1945年5月、ドイツが降伏をすると、原爆を落とす想定相手が日本になった。6月、悲惨な沖縄戦が終わり、本土決戦が近づく中、7月にトリニティ実験が成功する。

映画の主題は、戦後のオッペンハイマー事件であることは間違いない。だが日本人は、そんな事件さえ知らない。共産党がなんなのかさえ、知らない。差別さえ、知らない。自分のことで、今を生きることで、精一杯なのだ。

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