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『関心領域』

昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリ受賞、アカデミー賞でも作品賞や監督賞にノミネート、国際長編映画賞と音響賞を受賞した、話題作と言っていい。
こういう作品は本当に観るのを躊躇う。自分が試されているように感じる。結果、ネットに溢れる考察に、結局どれも納得できず、自分が人とは違うことに落ち込むのだ。
最近の秀作は、観る人に委ねることが多いので、驚くにも値しない。演出をシンプルにするのも流行りだ。音響にこだわるのも、よくある。では一体、この作品の何が凄いのか。僕だったら、こう考える。
戦争や悲劇は、どうして繰り返されてきたのか。みな、アウシュビッツに囚われすぎだと思う。もちろん象徴的だから、題材にするのはかまわないが、アウシュビッツにすることで、過去のことだと、他人事だと思ってしまうリスクがある。子どもの頃から夢見た生活が、殺戮の上に成り立っていることを、あの妻は知っていないはずがない。関心がないのではない。耳を、目を塞いでいるだけ。命をかけて救いの手を差し伸べる若者たち。そんな環境で育つ子どもたちが健康で幸せだと。今の大人たちと同じだ。私たちは今の豊かさが、誰かの犠牲によってもたらされているかを、知っているだろうか。
あの悲劇が、際立つのではない。幸せな暮らしをする私たちは関心の外にある、今なお世界中での悲劇に目を向け、耳を傾けなければ。それが、この映画のメッセージだと、僕は思っている。


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