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旅行中の日記

物乞いに金をやったことが、なかった。ロンドンでもニューヨークでも、アテネでもマラケシュでも。プノンペンで、赤ん坊を抱えたストリートチルドレンに金をせびられたときも、やらなかった。

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何かポリシーがあってそうしているわけではなく、単純に、あまりマナーがわからないのだった。物乞い稼業を成り立たせてしまうと治安的なものが悪化したりするのかもしれないし逆にあげないほうがいいのかなとか、いくらあげればいいのかなとか、頭の中でぐるぐるしているうちに、彼らは私の前から去っていってしまった。

シチリア島のパレルモという街にも当然ながら物乞いはいて、道行く人に金をねだっている。たいていの人は無視して通り過ぎるが、たまに金をやる人がいる。私も最初は、いつも通り無視していた。

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上の写真は、なんつー食べ物なのか知らないけど、シチリア風揚げパンといったところだろうか。とても美味しい。というか、イタリアは何を食べても平均点をこえてくる美食大国なので、とりあえず何かを口に入れて美味しくないということはない。少食の私にしては珍しいことだが、ここ数日は屋台にふらふらと寄っては揚げパンだのジェラートだのを買っておやつにもぐもぐ食べていた。

先日も、そんな感じで揚げパンを買って店先のベンチに座って食べていたのだけど、そこへやってきたのが今回の物乞い。「シニョーラ、シニョーラ」としきりに私の前で右手を差し出す。彼女は例によって赤ん坊を抱えているが、本当に血の繋がった子供かは知らない。アジア圏だと同情を買うための物乞い用レンタル赤ちゃんがいるというし、欧州にも物乞い用レンタル赤ちゃんがいておかしくない。

「この子最近、一歳になったばかりなの。でも私、二人目がお腹の中にいて、あ〜〜お金がないお金がない!」(みたいなことを、たぶんイタリア語で言っている)

物乞いのお母さん(?)は、揚げパンを頬張る私の前で、必死に「金くれ」アピールをする。「イタリア語わかんないんで……」と雑な英語でかわすも、女はおかまいなしに私の腕をべたべた触る。接触系の物乞いは初めてなので、わりとビビる。

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しばらくして、接触が効かないと悟ったらしい女は、私の目の前でしきりに赤ちゃんに口づけをする。「こーんなにスィートな私のベイビー、お金がなくてかわいそうね!!!」(みたいなことを、たぶんイタリア語で言っている)
そして、自分のお腹を指しては、「さらに二人目が」アピールも忘れない。その腹は妊娠じゃなくて単に太ってるだけのように見えなくもなかったが、とにかく。

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本当に血が繋がっているのかは定かではないが、しかし赤ちゃんはかわいい。私のほうを見て、満面の笑みでニコニコしてくる。小さな右手を、お母さん(?)の真似をして、「金くれ」と差し出す。赤ちゃんはもちろん、その行為がどんな意味を持っているのかなど微塵も理解していないはずで、お母さん(?)の真似をしているだけ。金くれ、金くれと、私が揚げパンを食べ終わるまで、結局ずっとつきまとわれた。

私の腕やら頰やらをべたべた触るのは勘弁して欲しかったが、この親子、観察しているとなかなか勉強になるし面白い。通行人、意外と金をやるのである。プノンペンのストリートチルドレンも赤ちゃんを抱えていたけど、その赤ちゃんはこんなに営業熱心ではなかった。こちらの物乞い母さんが抱える赤ちゃんは、本当にCMに出られるんじゃないかと思うくらいかわいくて、天使みたいにニコニコしているのである。

「シニョーラ、シニョーラ、私とこのスィートなベイビーにどうかお恵みを。さらに二人目が」(みたいなことを、たぶんイタリア語で言っている)

最終的に私は金をやったわけだが、それは赤ちゃんの可愛さに同情したわけではない。誤解を招く言い方かもしれないが、私は物乞いって案外立派な職業なんじゃないかと思っているのだ。

誰に声をかけるか、どこで声をかけるか、どの時間帯がいいか、彼らはちゃんと考えているし、市場を把握している。観察していると、それはわかる。プロなのだ。「売り上げデータをExcelで管理してます」と言われても、別に驚かない。それくらい、ちゃんと考えてやっているんだなあと、私の目には映る。

この際、倫理はどうでもよい。私は、お母さん(?)と赤ちゃんの、プロ根性に参ってしまったのである。営業熱心さ、しつこさ、接触を恐れない大胆さ、ちょっとわざとらしいが情に訴えるアピール。実際、この親子は本当に通行人からジャラジャラ小銭を集めていた。物乞いって儲かるんだなあ、私もガチで困窮したらやりたいなあ。ただ私はあまり物乞いとしての才能がなさそうだから、ダメかもしれないけど……。

私がお母さんに渡したのは、2ユーロ。その右手にコインを握らせたとき、「これだけ? もうちょっとちょうだい」とたぶんイタリア語で言われ、さらにスィートな赤ちゃんにも心なしか口をとがらせたような表情をされたが、「勘弁してよ」とジェスチャーで伝えて、そこは譲ってもらった。

人生で初めて、物乞いに金をやった。

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旅と文学について書くブロガー・コラムニスト。AM連載:https://am-our.com/author/103/article書籍:『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか』

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