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【4/13】使い魔クラットに出会うタルトゥ
エストニアのタリンから、タルトゥという都市に移動する。バスでだいたい2時間半くらい。
朝、タリンのホテルで洗濯機を回す。前回(2019年)までの旅行では夜シャワーを浴びるたびに手洗いしていたため非常〜〜にめんどくさかったが、今回選んだホテルはどの都市のものもほとんど洗濯機がついているため、洗いから乾燥まであっさり終わる。この手軽さを知ってしまうと、もう泊まるのは絶対に洗濯機があるところじゃないとイヤ!と思う。しかしインドとかに行きたいと思ってしまったら洗濯機がついているホテルは…ないだろう。だからまたいつか手洗いするんでしょうね。
エストニアの公共交通機関は明快でわかりやすく、「間違ってたらどうしよう!」とハラハラすることもなく、出発30分前にバスターミナルに難なく到着。キオスクで買ったホットドッグを食べつつバスを待つ。Lux Expressという会社の長距離バスで、2時間半ほどでタルトゥに到着した。
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タルトゥで見たかったのは、エストニア国立博物館。建築が現代的でかなりかっこいい。なんと、日本人の建築家がコンペで優勝して、この博物館を手がけたとのこと。
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展示はまさかの英語がなく、エストニア語オンリー。そのため説明はさっぱりわからず雰囲気で感じとるしかなかったが、いちばん最初の展示ではもこもこのコートを着た男性がアシカらしき動物を凍った川で捕まえ、家族のもとに持って帰って掻っ捌いていた。ようするに、エストニア人の祖先はこんな暮らしをしていました、と言いたいのだろう。博物館はほとんど人がおらず、経営大丈夫かと心配になったが、見学者としてはのんびり見ることができてよかった。
ところで、私の大好きな映画『ノベンバー』は、エストニアが舞台だった。
「死者の日」を迎えるエストニアの寒村が舞台、ライナー・サルネの『ノベンバー』。滑り込みで観たけどもっと早く観ればよかった。今年とかのレベルじゃなく、ここ5年くらいの間に観た映画でベスト1位かも。
— チェコ好き(和田真里奈) (@aniram_czech) January 15, 2023
汚れた雪と夢遊病と血と悪魔とキリスト教。残酷で幻想的で、映像が完璧すぎて鳥肌立って涙。 pic.twitter.com/GpU1I1846a
この映画に登場する、「使い魔クラット」なる鉄の塊みたいな変な魔物が博物館に展示されていた。原作『ノベンバー』は確かエストニアでベストセラーになったカルト小説だと聞いているが、博物館に展示されるようなものだとは知らなかった。「使い魔クラット」ってなんなんだよぉと映画を観た時からずっと思っているが、日本語で検索しても映画『ノベンバー』関連のサイトしか出てこないんですよね。エストニア人はみんな知っているレベルのものなの?
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疑問を抱きつつ博物館で簡単なランチを済ませたあと、またバスに乗って市内中心部に戻る。タルトゥでもKGB拘置監房博物館に行く。
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このとき、見学者がなんと私だけであり、ゆっくり見られたのはよかったものの、まわりに人がいないとけっこう怖い。特にこのタルトゥの博物館はところどころに人形が設置されており、人が前を通るとセンサーが反応して人形が喋り出すという仕組みらしく、1人だと思っていたのにいきなり人間の声がして心臓が止まるくらいびびる。独房スペースも、人形がいないと「狭いな〜」って思うだけで終わるのだが、人形がいるとリアルにそこに誰かがいる感じがして、やっぱり怖い。
KGB拘置監房博物館の見学を終えたあとは、アパートメントホテルにチェックイン。晩ご飯はそのアパートメントホテルから徒歩5分くらいのところにあるピザ屋で、マルゲリータをテイクアウトした。そういえば、エストニア料理を全然食べていない。
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エストニアとは
11日〜13日と3日間滞在しただけで「エストニアとは」なんて語れるわけはないのだが、一応のまとめとして、感じたことをメモしておく。
成田空港から経由地のワルシャワ空港までの飛行機の中で読んでいた梨木香歩さんの『エストニア紀行』に、エストニアは最先端のIT国家である一方で、田舎に行くといまだに昔ながらの媚薬が作られていて…みたいなことが書いてあったのだが、私の抱いた印象もだいたい似たようなものになるかもしれない。タリンは都会だったが、タルトゥは自然がいっぱいの豊かなところである。そして、どちらも総じてのんびりしている。
このあとに移動したラトビアの首都リガと比べると、エストニアはやはり「北欧」という感じがした。どこらへんで「北欧」だと思ったのかあまり上手く言語化できないのだが、ラトビアに来たときに「ここは“北欧”じゃなく”東欧”だ!」とまず思った。街頭にいる鳥でそう思ったのだろうか。ラトビアは我々もよく知るあの土鳩がどこにでもいるのだが、エストニアには土鳩がおらず、カモメばっかりだったんですよね。カラスとか土鳩の感覚でめちゃくちゃカモメがいた、タリン。まともなエストニア料理を食べなかったが、料理のメニューには魚介類が豊富で、海が近いことをなんとなくいつも意識させられた。それから、今回は訪れる機会がなかったが、エストニアは島が多い。ヒーウマー島、サーレマー島などの島に行くと、さらにゆったりした時間が流れているのかもしれない。
すでにエストニアを去りラトビアに来ている今も、エストニア国立博物館で見たあのアシカらしき動物を器用に掻っ捌いている男性の映像が頭に浮かぶ。アシカの隣に寝そべり、気配を消してちょっとずつ近寄りながら最後に一突きする。そしてアシカの頭を何度も殴り、首をぎゅうぎゅう曲げて窒息させる。残酷だなあと思うんだけど、もとは我々の誰もがこういうことをしながら食糧を得ていたんだよな、とぼんやり考える。
殺したアシカを引きずって、男性は奥さんと小さな子供のいる家に帰る。家族の目の前で、アシカの体にナイフを入れ、肉と内臓を分離する。きれいにスポーン!と肉だけがアシカの体を離れる。残った皮の部分に、丁寧にナイフを入れる。なんに使うのかわからないが、服とかにするのかな? とにかく、余すことなく何かに使うんだろうな、と思う。手がかじかんだりしないのだろうか。かじかむけどそのままナイフを使っているのか?
「そこ?」という感じなんだけど、男性が真っ黒に汚れた手でアシカを掻っ捌いているあの映像が、私の中の「エストニア」として強く残りそうな気がしている。
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