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【3/16】ねえ、いま、どんな気持ち?

3月末に予定していた旅行を、中止することになった。

理由は、まあ言わずもがなだが、コロナウイルスによる影響である。予定していた旅先は、現在最悪の状況にあるヨーロッパだ。私が行く予定だった国は軒並み、外国人の入国禁止、あるいは14日間の隔離を発表している。1週間前までは「アジア人差別怖いな〜」と思いつつ、ギリギリ決行するつもりだったんだけど、もはや入国禁止となっては打つ手がない。

しかし、入国禁止にしてくれたことで選択肢がなくなったので、逆に心は軽くなった。「怖いなー、行けるのかなー、無理かなー」とそわそわしながら情報収集していたときが、いちばん脳と心の容量を使って疲れていた気がする。中止以外の選択肢がなくなった今、逆にちょっと冷静になれたというか。少なくとも、外務省からのお知らせメール「たびレジ」が届いても、心臓が跳ね上がることはなくなった。

中止したとはいえ、せっかくなので、この機会に作成した欧州の報道機関などを集めたTwitterのリストは、観察し続けようかなと思っている。イタリア、スペイン、フランス、イギリスなど日本人に馴染みのある大国の情報は日本でもちゃんと報道されるが、東欧の小国の情報は、こちらから取りにいかないとなかなか入ってこない。どこの国がどのタイミングで非常事態宣言を出すかなどは、観察していてけっこう興味深かった。

今回私が旅する予定だった5カ国(エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ)のなかで、いちばん早い段階で休校や100人以上のイベントの中止要請を出していたのは、意外にもチェコだ。なんだかのんびりした国だと思っていたので(私はチェコ好きですが、詳しいのは文化だけで政治経済のことはよく知りません!)今回の大胆っぷりには驚いた。ギリギリまで踏ん張っていたのはエストニアだけど、これはまあ他の国とあんまり国境を接してないからかな。なお、買い占めはどこの国でも起きているようで、ポーランドなどでもトイレットペーパーが売り切れている。なんでみんなトイレットペーパー買うんだろうなー、不謹慎ながら笑ってしまった。ちなみにチェコは16日現在、スーパーとドラッグストア以外の店の営業が停止され、国内移動も緊急の場合を除いて禁止されている。イタリアとほぼ同じ、厳戒態勢で感染を止めるつもりらしい。

で、まあ中止になったのはしょうがないというか、私に選択権はないのでいいんだけど、問題は、そう、飛行機代である。1月に予約して2月に引き落とされた、往復飛行機代11万円である。航空会社にも代理店にも問合せを続けているが、いっこうに返事がない。まあわかるよ、パンクしてるんだろう。鬼電しまくっていたが全然つながらず、先日ついにサイトに「出発まで72時間を切ってないやつは電話すんじゃねえ(意訳)」と書かれてしまった。んもー! わかった、じゃあ電話しないから! 電話しないから、問合せフォームから送ったメール、返信しちくり〜! そういうわけで、旅の中止は決定したが、航空会社&代理店との攻防はまだ続く。11万円はちょっと、笑って流せる金額じゃないぞ。お金、返してー!!!

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で、まあお金の話は、本当は泣きたいところだが、私の内々で処理するのでいいとして……。

バズっていたので、おそらくたくさんの人が見たことだろう。不要不急の外出が禁止されているイタリアで、人々がバルコニーから顔を出し、楽器を演奏して、歌って、DJをやって、曇りがちな心を互いに励ましてあっている動画を。イタリア人てそういうところ、ユーモアがあるし、発想が豊かだし、素敵だよねえ。イタリアには中部と南部にそれぞれ1回、計2回訪れたことがあるけれど、あんなに豊かな国を私はほかに知らない。豊かというのはもちろん経済のことではなくて、文化や芸術、太陽の眩しさ、そしてごはんの美味しさのことだ。コロナウイルスの混乱が去って落ち着いた頃にはぜひ「イタリアよいとこ一度は行きな」的な記事でもいっちょ書いて、かの国の観光産業を応援したい。今、まじで、シャレにならん大打撃を受けているだろうから。

だけどそんな中で、私はまったくバズっていない1つの投稿を見つける。イタリア人の医学生が投稿したものらしく、内容はざっくりいうと、「我々はいま、世界から孤立させられている。国境を封鎖されている。悲しい。助けて」と、いったかんじのものだ。そしてそこに、イラン人と思われる人物からのコメントがついている。

「ねえ、いま、どんな気持ち? 私たちイラン人は、ずっとそうだった。でも、誰も援助してくれなかった。その状況を楽しんでね。そして、学んでください」

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なんとなく、数年前にあった、「Facebookのプロフィール写真にトリコロールを重ねる騒動」のことを思い出させるではないか。テロがあったのは、人が死んだのは、フランスだけじゃない。中東でもっとたくさんの人の血が流れているのに、なぜフランスの平和と安全だけを祈るのか。

まあ今回の騒動は、ウイルスなので、人災の部分がないわけではないとはいえやっぱり感染症なので、テロや戦争とは全然事情が異なるけれど。でも、世界最強ともいわれている日本のパスポートが、まったく効力を持たなくなった。入国できない。行っても隔離される。今はヨーロッパ自体がそれどころじゃないのでどうなっているのかわからないが、つい1〜2週間前までヨーロッパでは、アジア人が町を出歩いていたらすれ違いざまに「コロナ!」といわれ、鼻をつままれ、迷惑そうな視線を投げかけられていたんだろう。私たちはまだまだ、差別と不平等のはびこる、平和も安全もクソもない世界を生きている。そのことを思い知らされる。

「ねえ、いま、どんな気持ち? その状況を楽しんでね。そして学んでください」

まあ、この書き込みをしたのが本当にイラン人なのかどうかはわからないけど、それにしたって、完全に無視できるわけがないコメントではないか。

この混乱は、いつまで続くのか知らないが、それでもいつかは終わるのだろう。国境は再び解放され、飛行機は飛び、日本のパスポートはまた、世界最強ともいわれる効力を取り戻すのだろう。でもそのときに、何もかも忘れて、「ああよかった、めでたしめでたし」って無邪気に喜ぶわけには、やっぱりいかないよな。思い知っちゃったからさ。

そもそもウイルス以前に政治的な状況から、すぐに、たとえば来年に、とは言えないけれど、私はいつか、イランも訪れてみたいと思っている。テヘランとイスファハンは、私にとって憧れの都市だ。そしてそのときまで、必ず覚えておこうと思う。

ねえ、いま、どんな気持ち? 私はいま、何を感じてる?




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