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【5/21】差別、ダークツーリズム、物見遊山

このnoteは、2020年11月に「ホームレスを3年間取材し続けたら、意外な一面にびっくりした」というcakesに掲載された記事が炎上してしまったとき、ちょっと自分の考えをまとめておこうかな〜と思い書き始めたが、あまり上手くまとまらなかったので一度お蔵入りになったものである。そして、そのまま日の目を見ることなくポチッと削除ボタンを押そうかと思っていたところに、新今宮ワンダーランドのPRであった某noteが炎上し、やっぱり力ずくでまとめ切って公開しようかな〜と気が変わって書いているものである。

といっても、炎上した2つの記事に対する真正面からの批判ではない。というか、2つの記事はともに「自分の普段の生活圏から脱出し、普段の生活圏では出会わないモノ・人・事に対峙する」ものであり、つまり旅行大好き人間である私は本質的に2つの記事にあるような「差別的な視線」を抱えこむことから逃れられないんじゃないか、みたいな罪悪感がこれを書く動機になっている。が、同時にTwitterで見た「スラムツーリズムは現地の人を搾取するものなので、すべて悪」みたいな行きすぎた言説に、ストップをかけたいという目的もある。

『ダークツーリズム入門』の中のスラムツーリズム

まず私の認識だと、「スラムツーリズム」は「ダークツーリズム」なかの1ジャンルというか、「ダークツーリズム」のなかに「スラムツーリズム」がある、という感じである。たとえば上に貼った『ダークツーリズム入門 日本と世界の「負の遺産」を巡礼する旅』には、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所やチェルノブイリに混じって、フィリピンのスラム街であるスモーキーマウンテンが掲載されている(p.15、p.221)。

スラムツーリズムやダークツーリズムに否定的な人であっても、アウシュビッツを訪れることは倫理的にNGで悪趣味である、なんて主張をする人はおそらく稀だろう。ただ、同じダークツーリズムであっても大学生が「フィリピンのスラム街の子供たちに夢を与えたい!」と旅費をクラファンで募ると炎上する。両者の間の違いは何かというと、私は2つの軸があると思っていて、1つは旅行者の「旅慣れ度」、もうひとつは参加方法である。

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えー、もちろん厳密には間にいろいろなグラデーションが存在するわけだけど、すご〜くざっくりいうとこんなイメージ。たとえば、アウシュヴィッツをガイドさんの解説を聴きながら訪問するのって「正規ツアー」なので、本人の旅慣れ度に関係なく誰にもあんまり文句言われないんじゃないかと思う(館内で不適切な騒ぎ方とかをしない限り)。ただ、あんまり旅慣れてないと思われる大学生が、独断決行で「スラム街の子供たちに夢を与えたい!」とスモーキーマウンテンに突っ込んでいったら、まず何より本人にとって危険だし、現地の人からも歓迎されないだろう。よって、方々から怒られる。みたいな。

しかし独断決行のスラムツーリズムがすべて悪趣味で軽薄でNGかというとそんなこともないと私は思っていて、なかには「良質なルポルタージュ」もちゃんとある。たとえば、私は丸山ゴンザレスさんとかのスラム旅って「良質なルポルタージュ」だと思うんです(悪趣味要素がゼロだとは言わないけど)。独断決行であっても旅慣れている人であれば、危険ゼロにはならないけどある程度は勘所が働くし、ゴンザレスさんとかってだいたい現地で顔が利く人とコネクションを作ってから潜入しているし。

ちなみにここでの「旅慣れてる」基準は超ハードに設定する必要があると思っていて、数十カ国をバックパックで旅した程度だと旅慣れてることになりません。つまり、私くらいだと全然旅慣れてることになりません。よって、私はアウシュヴィッツには行くけどスラム街にはすごく信頼できるコネクションが例外的にできない限り行かないです。ダークツーリズムを十把一絡げに悪者にしないで、批判するのは「旅慣れてない」×「独断決行」の枠だけにして〜! ってのがまずひとつ、私のなかにある。

ダークツーリズムの本質的な悪趣味さ

書いていたらcakesやnoteの炎上とまったく関係なくなってきた上に、これだけだと「お前がゴンザレスさんのファンだから擁護したいだけだろ!」と思われてしまいそうで、それは本意ではない。というかここからが本題で、「ダークツーリズムに惹かれる好奇心や怖いもの見たさ」ってそんなにダメなものなのか? というのを私は件の炎上を通して考えてしまったよね。

さきほど「アウシュヴィッツを訪れることは悪趣味ではない」と書いたけど、では悪趣味度がゼロか、清廉潔白か、と言われるとけっこう怪しい。ただこの手の批判ってあんまり的を得ているとは私は思わなくて、「清廉潔白な人間なんているわけないし、もしも自分が清廉潔白だと思ってるやつがいたらそいつのほうがやばいでしょ」で終わる話かなって気もしている。根底に怖いもの見たさやちょっと悪趣味な好奇心が潜んでいたとしても、そんなのは人間なら当たり前なので、あまり気にしなくてもいいのではないか。きっかけが悪趣味な好奇心だったとしても、実際に現地を訪れて考えさせられるものってやっぱりすごく多い。

旅行者と”stranger”

さて、ここから先は「お、怒られるかも……」と私がビビったので有料ゾーンである。

「旅行者」って存在は、たいていの場合「強者」である。ホームレスの人々の生活を取材すること、ホームレスの男性に定食を奢ること、または私が日本のパスポートを印籠のようにかざして世界のさまざまな場所を訪れること。これらはすべて「強者」としての振る舞いだ。

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