不法行為とは ~その2
今回は、不法行為の要件を満たしている場合でも、不法行為の成立が否定されるケースがあるということについて書きます。
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|不法行為の成立が否定されるケース
前回記載したような不法行為の要件を満たしたとしても、以下のいずれかに該当する場合は不法行為は成立しない。
① 責任能力がない場合
② 正当防衛が成立する場合
③ 緊急避難が成立する場合
④ 被害者の承諾がある場合
⑤ 正当行為に当たる場合
⑥ 自力救済を行うやむを得ない事情がある場合
これらについて、各項目をケーススタディとして説明すると以下のとおり。
① 未成年者かつ責任能力がない場合
未成年者が他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、不法行為に基づく損害賠償責任を負わない(民法712条)。
また、精神上の障害により、自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者も、不法行為に基づく損害賠償責任を負わない(民法713条)。
ただし例外的に、故意または過失によって一時的に責任能力を欠くに至った時は、不法行為責任を負うことになる(例えば、アルコールを飲んで酩酊状態になった場合など)。
② 正当防衛が成立する場合
他人の不法行為に対し、
◍ 自己
◍ 第三者の権利
◍ 法律上保護される利益
を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、不法行為に基づく損害賠償の責任を負わない(「正当防衛」という。民 法720条1項)。
③ 緊急避難が成立する場合
他人の物から生じた急迫の危難(生命にかかわるような、危ないこと)を避けるため、その物を損傷した者も、不法行為に基づく損害賠償責任を負わない(「緊急避難」という。:民法720条2項)。
④ 被害者の承諾がある場合
明文の規定はないものの、被害者の承諾がある場合には、不法行為の成立が否定される場合があると解されている。
ただし、被害者の承諾は自由意思に基づき、かつ社会通念上の合理性がなければならない。
例えば、脅されて承諾した場合は、自由意思に基づいていないので、有効な承諾が認められない。
また、「手術に当たって、何が起こっても一切文句を言わない」という承諾も、社会通念上の合理性がないので、その効力は否定されると考えられる。
⑤ 正当行為に当たる場合
公務やその他の正当な業務の執行によって損害を加えた場合に、不法行為の成立が否定される場合がある。
例えば、刑事訴訟法に基づいた適正・適法に行った逮捕行為などの場合がこれにあたる。
また、医師の医療行為についても、身体への侵襲(しんしゅう)を伴う点(皮膚を破ったり、何らかの医療機器を体内に挿入したりするようなこと、手術など)で不法行為の要件に該当するものの、正当業務行為であり違法性が阻却され不法行為は成立しない。
⑥ 自力救済を行うやむを得ない事情がある場合
裁判手続きなどを経ずに、実力行使によって権利を実現する「自力救済」は、原則として違法である。
ただし判例では、権利に対する違法な侵害に対抗して、現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急でやむを得ない特別の事情が存在する場合に限り、必要の限度を超えない範囲内で、例外的に自力救済を許容する余地があるとされている(最高裁昭和40年12月7日判決)。
このような事例は極めて限定的ではあるが、自力救済について不法行為が成立しないと考えられる場合がある。
|不法行為が成立する場合の効果
不法行為が成立する場合、被害者は加害者に対して以下の請求ができる。
以下これらの内容について説明する。
① 損害賠償(慰謝料)
不法行為に基づく損害賠償は、金銭によるのが原則とされている(民法722条1項、417条)。
被害者は、加害者に対して、不法行為により被った損害の賠償を請求できる。
この場合の損害は、財産的損害に限らず、非財産的損害(慰謝料など)についても損害賠償の対象になる。
② 名誉毀損における原状回復
名誉毀損を受けた被害者は、裁判所に対して訴訟を提起し、加害者に対する名誉回復措置命令を求めることができる(民法723条)。
裁判所は訴訟手続きを通じて審理を行った上で、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、被害者の名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。具体的、典型的な例では、「謝罪広告」などが名誉回復措置としてある。
③ 差し止め
知的財産権(特許権・商標権・著作権など)の侵害については、各法律によって差し止め請求が認められている。
差し止め請求に当たっては、通常の不法行為とは異なり、加害者の故意・過失は要件とされていない。
また、法律上の明文の根拠がなくても、一定の場合には不法行為に基づく差止請求が認められると解されている(例:プライバシー権の侵害など)。す。
|一旦まとめ
以上のように、不法行為の要件を満たしても、一定の事由に該当する場合には不法行為が成立しない、成立が否定される場合がある。
一方、不法行為が成立する場合には、損害賠償請求などの効果が生じることについて説明した。
次回は、これまで説明した民法709条の一般不法行為以外の、「特殊不法行為」について説明する。