見出し画像

『別世界からのメッセージ』(2020) AMCの新作ドラマがアマゾン・プライム・ヴィデオに追加

デヴィッド・リンチ×『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』(サム・イスメイル)的な、いやそれ以上に玄人向けに振った作品。

AMC(マッドメンやブレイ・キングバッドで知られるアメリカのケーブルTV局)製作で、サリー・フィールドも出演。ピーター役のジェイスン・シーゲルがクリエイターで、共同脚本とエピソード1の演出を担当している。Dispatchesは多分、イギリスの時事ドキュメンタリー番組のタイトルからとっている。番組ホスト的な役回りでもあるリチャード・E・グラントはアクセントからも分かるようにブリティッシュだ。シモーン役のイヴ・リンドリーは男性から女性へトランジションした人で、「トランス・アクトレス」という言葉があるらしい。後述するがLGBTQは『オズの魔法使』とも関係してくる。

【以下、物語の核心や結末に関する記述あり】

作品自体がマトリョーシカ人形のように入れ子構造になっていて、物語の中の物語、深層心理の中の深層心理が何段階もの多層になっているうえに、メタファーを多用しているので、苦手な人には全く意味が分からない作品ということになるだろう。

言葉遊びの謎めいた指示で不思議なゲームに参加するのは間違いなく『不思議の国のアリス』の影響。最終回に出てくる小さなドアや狭いトンネルは「この作品は不思議の国のアリスのオマージュですよ」というシグナルである。同様にクリストファー・ノーランへのオマージュも見受けられる。

どこまでが現実でどこからが夢なのか?どちら現実でどちらが夢なのか?夢だとしたら誰の観ている夢なのか?というのは『鏡の国のアリス』であり、チェコの奇才ヤン・シュヴァンクマイエルの『アリス』そのままである。また、マックス・フライシャーのアニメ作品『ベティ・ブープ』シリーズのオマージュも見られる(ベティ・ブープには不思議の国のアリスをベースにしたエピソードもある)。そう考えてみるとクリストファー・ノーランの『インセプション』の元ネタは、やはり『不思議の国のアリス』なのだろう。

画像2


さらに、キー・ヴィジュアルからも、なんとなくそんな気がしていたのだが、仲間たちと足りないところを補い合いながら魔法使い(クララ)を探す物語は、『オズの魔法使』である。私はクリストファー・ノーラン『インターステラー』の元ネタは『オズの魔法使』だと考えている。

画像1

ジュディ・ガーランドはバイ・セクシャルであったとも言われており、LGBTQの人たちから今でも支持されている。本作品に出てくるチョコレートミルクは言うまでもなく酒のメタファーだが、複層的に薬物のメタファーにもなっていると捉えることもできる。ジュディ・ガーランドは十代前半からアンフェタミン(覚醒剤)を常用していた。当時は合法だったうえに、ハリウッドのスタディオでは自社のスターにヴァイタミン注射とか適当なことをいってアンフェタミン注射をさせていたのだ。道化の少年は、ピーターであると同時に、道化の少年とピーターはジュディ・ガーランドのメタファーなのである。

ヘッセの『荒野のおおかみ』のように難解でもあり、おまけにフェリーニの『8 1/2』のオマージュも入っている(8 1/2の影響はアメリカの批評家で指摘している人は誰もいないようだが、気が付かないのか?)。最終回終盤はメタフィクションになり、ピーターが視聴者に向かって語りかける。キャストとスタッフたちが登場するのは、やはり『8 1/2』の影響であろう。『8 1/2』の結末では、主人公グイドが自殺したことが暗示されていた。本作品は全て、頭を強打した道化の少年あるいは脳にコブのあるピーターが観ている夢という解釈もできるだろう。

ゲームは全て劇中劇であった。そして全体のドラマさえも、自己啓発的なヴィデオの一部だったように感じるかもしれない。しかし、最後の最後にリチャード・E・グラントがパチンと指鳴らして終わる。視聴者はフィクションと承知でTVドラマを視聴していたのだが、もしかしたらTVドラマを観ている夢を見ているのかもしれないのだ…。そこに気が付けば、視聴者も作品の一部なのである。

『オズの魔法使』と『不思議の国のアリス』とフェリーニ作品を愛し、オマージュ探しが好きな者(つまり私のような人間のことだ)なら理解できるだろう、完全に玄人向け作品。

※ エピソード3の音声に不具合がありましたが、カスタマー・サーヴィスに報告したところ、数日で修正されたました。

この記事が参加している募集

私のイチオシ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?