【小話】答えを探して

CYLTIE.です。ちょっと何かしら書いてみたくなったので、テストもかねてあげてみます。
私、百合漫画というものが好きで、よく読んだりするのですが、その百合に対する自分なりの考えをまとめてみた感じです。
それではどうぞ。

-----

「はぁ……」
 夕日が綺麗に移る放課後の教室で、私は悩んでいた。ぐるぐる、ぐるぐる。何について悩んでいるのかもよくわかっていなかったが。
 窓を開けて、身を乗り出すようにして、外を覗いてみる。初夏の涼しい風は心地よい。近くを見てみれば、グラウンドで運動部が盛んに活動している姿も見える。更に身を乗り出すようにして、下を見てみれば、男女仲睦まじい姿が散見されて。そういえば、この学校はやたらとカップルが多い気がする。それともなんだろう、あくまで友達とか、幼馴染みたいなノリで、一緒に下校をしているのだろうか。
 青春。私はこれを、どこに置いてきたのだろう。今日もこうして、教室でただ一人黄昏て。
「何かと人生うまく行かないな……」
 ふと、そんな言葉が口から洩れてしまった。
「……何かと人生うまくいかない、って?」
 独り言を聞かれてビクッとする。ドアの方を振り向けば、担任の石井先生がいた。身長もそこそこあり、整った顔立ち。全体的にすらっとしていて、ハイヒールがよく似合う。そんな容姿から、一部では相当な美人だと評判になっている。そんな美人の先生に声をかけられようものなら、女の私でもドキッっとしてしまう。
「わわっ……! びっくりさせないでくださいよ!」
「こっちもびっくりしたわよ。女の子が一人で、放課後の教室で黄昏るなんて。今時そんな子いないわよ?」
「そんなもんなんですか?」
「私のころだってそんな子いなかったわよ。ほら、早く出てった出てった」
「先生何歳ですか?」
「その質問は女の人にしたらダメだからね、覚えておきな」
「え、ちょっと、答えて……」
「はいはいはいはいそこまでそこまで。鍵閉めるよ」
 私は教室から追い出されてしまった。なんだよ、この誰もいない空間が心地よかったのに。やっぱりうまく行かないな……。
「……やっぱりうまく行かないな、って顔、してるでしょ」
 私の顔を覗き込むようにして、先生は言う。
「……分かってるんなら、教室から追い出したりしないでくださいよ」
「学校の決まりなんだから仕方ないでしょ。ほらほら、用事がないなら帰りな」
 浮かない顔をする私を尻目に、先生と二人で廊下を歩く。
「それともなに、なんか聞きたいことでもある?」
「うーん……」
「そこ悩んじゃうの?」
「いや、悩み事がまとまらなくて悩んでるというか」
「面白いこというね」
 実際面白くもなんともなくて、本当にまとまらなくて悩んでいるのだが。青春のこと、勉強のこと、進路のこと。友達のこと、恋愛のこと……。
「まあ、実際悩み事って、ベタな恋愛漫画みたいに単純なことの方が少ないけどね」
「ベタな恋愛漫画って……、たとえば?」
「そこはどうでもいいでしょ」
「……はぐらかすんですね」
「そうやって、歳や世代を聞き出そうっていう手には乗らないわよ」
「まさか、そんなこと」
 単純な興味からであって、そんなずる賢いことなんて考えもしなかったのだが。忘れたころに、もう一回聞けばポロっと教えてくれるかもしれない。 ちなみに、先生の年齢を知る人は、学年に一人もいない。隠さないで、素直に言えばいいのに。
「それで、悩める気まぐれ子猫ちゃんは、何について悩んでいるのかな」
「いきなり相談コーナーみたいな軽いノリやめてもらっていいですか」
「じゃあもう聞いてあげません」
 いうやいなや、先生は即座に早歩き。
「わかりました、そのノリでいいんで聞いてください」
「よろしい」
 先生は早歩きをしていた足を止める。とはいえ、いざ話すとなると、なんか廊下じゃ恥ずかしい。
「……あ、あの、廊下で話しづらいんで、さっきの教室で話したいんですけど」
「はー。もうしょうがないわね。その可愛い顔に免じて特別よ」
「ちょ……っ! からかわないでくださいよ」
 
 鍵を開けてもらい、さっきまでいた教室に戻ってきた。先生と教室で二人きり。なんだか胸がドキッちゃう感じがする。あぁ、この光景はどっかの百合漫画でみたような感じ。なぜかデジャヴを感じる。
 三者面談のように机と机を合わせ、互いに対面するように座った。
「……それで、悩みっていうのは?」
 私は、俯き加減で話す。
「あの……私、好きな人がいるんです」
「恋愛の話? なーんだ、勉強じゃないの」
「勉強の話がよかったですか?」
「その方が話しやすいからね」
「勉強は特に困ってませんよ」
「ふふっ、さすがね」
 笑いながら先生はいう。自慢じゃないが、今回の中間テストでは学年十位には入っていた。だが、それも今はどうでもいい話で。
「そんなあなたが恋愛で悩むなんて思ってなかったわ」
「わ、私だって一応、そういう願望とか、希望とか、欲はありますから!」
 思わずバンッ!と机を叩いて、私は立ち上がってしまった。普段の授業ですら、こんな勢いで立ち上がることはないのに。
「あはは。授業のときもそう立ってくれたらいいのに」
「そういう軽口はいいです」
 言われて私は顔を真っ赤にして、ゆっくりと席に座りなおす。落ち着いたところを見計らって、再び先生は話し始めた。
「とはいえ、恋愛ねぇ……」
 お互いに口が止まる。言葉を選んでるというか、何話せばいいのか、迷っているようなこの感じ。先生も先生で、何か語ったりするのかな、なんて思ってたけど、そういう様子でもなさそう。それくらい難しいテーマなのか。
 少し経ったのち。
「……そもそも、好きな人っているの」
 先生が言う。私は、少し頬が火照りながらも、答えた。
「その子……女の子で」
 言ってしまったような、楽になったような。すぐさま私は続ける。
「しかも、クラスメート」
「へぇ……。あなたホントに今時珍しい子ね」
 先生は頬杖を立てて、小難しそうな顔をしながら言う。
「私があなたと同じ頃のときは、運動ができて、面白い男の子に憧れたもんだけど、時代は変わったのかな」
「先生いくつなんですってば」
「それは言わないお約束」
「ケチですね」
「ケチとはなにかケチとは。その質問は、女性を怒らせる質問だって、さっき言ったでしょ」
 言いながら先生は、私のおでこに軽くデコピンをした。長い爪が深く刺さって、地味に痛い。
「ごめんなさい」
「よろしい。それにしても、女の子を好きになっちゃったんだ?」
「はい……」
 改めて聞き返されるとすごく恥ずかしい。恥ずかしいけど、これは事実なのだから仕方がない。男の子なんかより、興味があるのは断然女の子だし。キュンキュンするし。
「それ、ホントに好きって言いきれる?」
「え……、脅しですか」
「脅しじゃないけど……。たまにいるじゃない、友達感覚で『女の子大好きー!』とか言ってるくせに、『でも付き合うならやっぱりイケメンがいいなー!』とか言ってる女子」
 時々ギャルっぽい口調になるのがなんかちょっとイラっと来てしまった。
「つまりファッション百合女子が嫌いって話なんだけど」
「全然そんなんじゃないですよ。本気です」
「な~るほどね……」
 先生が百合という言葉を知っている、ということに親近感がわく。そんなことはさておき、また少し間を置いた後、先生は仕切り直すかのように話し出した。
「……私ね、女の子と付き合ってたことあるんだ」
 驚きだ。そりゃあ先生も大人だし、恋愛の一つや二つはしてるだろうとは思ってたけど、女の子としてたなんて。
「えぇ、そうだったんですか?」
「うん。今から四、五年ぐらい前に、教え子とこっそりね。今思い返してみれば、相当変な子だったかな……」
 まじまじと見つめる私。共学校でも、やっぱりそういうことってあるんだ。というか、教え子とこっそりって、どこどなくインモラルな感じがする。法にひっかかったりしないのだろうか。
「それ、どうなったんですか?」
「結局、半年たったぐらいで、彼女がポロっとクラスメートにばらしちゃって、それが学校中に広まっちゃってね。おかげで、私も彼女もお互い謹慎処分。その後、彼女が学校に来ることはなかったな」
 ちょっとひどい話だな、と思う。同情するのもあれだけど、先生が可哀想。
「えぇぇ……。そんなことあるんですか」
「まさかバラされるとは思ってなかったけどね。……まあ、断れずに付き合っちゃった私にも、それなりに責任はあるかな、なんて思うよ」
「……でも、それはあんまりじゃないですか?」
「私の場合は、立場の違いもあったから、なんともいえないな」
 教え子と先生が付き合っているという話は、確かに、私自身聞いたことがない。そういうことなんだろう。
「……世の中には、常識って言葉があるじゃない」
「はぁ」
 突然話が変わって、私はきょとんとする。
「『1+1は2になる』とか、『信号が赤のときに、横断歩道は渡っちゃダメ』とか、『恋愛は男の子と女の子が結ばれなきゃダメ』とか、『かわいい子には旅をさせろ』とか」
 最後の台詞はわざとボケたのだろうか。私は何も言わないことにする。
「世の中は、この常識から外れた行動とか言動に対して、なぜだか厳しいんだよね」
「そこまであんまり深く考えたことはなかったですけど」
 何が言いたいのか、私にはいまいちわからない。
「……最初の話に戻ると、女の子同士の恋愛もそう。世間の目は、思った以上に厳しいし、女の子同士で付き合うなんてありえない!って思っている人だってザラにいる」
 その言葉を聞いた途端、私は思わずカチンと来てしまった。
「でも、それは個人の勝手じゃないですか?」
 言い方がきつくなってしまう私をよそに、先生はなおも冷静に続ける。
「そう思えるのは、学生のうちだけじゃないかな。大人の世界って、色々あるからね」
 大人の世界のことを何も知らない私は、言い返す言葉がなかった。これから成長して、見えないものが見えるようになって、私はどう感じるだろう。
 そんな風に考え事をしていたところに、再び先生が口を開いた。
「……って、他の先生だったら言うかもしれないけどね」
「えっ」
「まあなんだ、好きになっちゃったものは仕方ないし、誰がどうこういういって、それであなたの考え方は変わりますかって話よ」
「……話が全く見えないんですけど」
「つまり、学生のうちだったら、『若気の至り』とか、『青春の過ち』とかで済むだろうし。学生の恋愛ってそんなもんよ」
 あまりにあいまいすぎる言葉に、私は戸惑う。
「……歯切れ悪すぎません? ネタ切れですか?」
「ネタ切れじゃないわよ」
「じゃあなんですか」
「……まあひとつだけ言うとするなら、その子に恋してるのか、恋に恋してるのかを、勘違いしないことね」
「はぁ、そうですか……」
 なんだか少しだけ楽になったような、それでもまだ満たされていないような、そんなアンニュイな気分になってしまった。
 窓の方に目をやれば、外はすっかり暗くなっていて。
 私は、そそくさに帰る用意をしながら、ぽつりと言った。
「……先生、今日は曇ってて星も見えませんね」
「なに急にどうしたの、文学者気取り? それともまだ不満?」
 きょとんとした顔で先生は返す。まあそういうことなんだけど。
「いや……、なんとなく」
 すると先生は突然ぱぁっとした笑顔で私に言って来た。
「……そうだそうだ、今日この後大丈夫かしら?」
 突然のナンパ?に、驚く私。
「え、急にどうしたんですか。大丈夫ですけど……」
「今日金曜日だし、よかったら遊びにきたりしない?」
「……先生、また謹慎処分になりますよ?」
「大丈夫大丈夫。悪いようにはしないし、遅くならないから、どう?」
「……話の続きを、もうちょっとだけしてくれるなら」
 何が大丈夫なのかよくわからないまま、私は先生の家へと向かうことになったのだった。

-----

なんだかすごくあんにゅいなものになってしまった(
慣れないことはするもんじゃないですね。そもそも語彙力が足りてない気がする。
黒歴史になりそう。

もう少し根ほり葉ほりかければいいなぁと思いつつ、これはこれで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?