ぶらっくすわん(金融×数理科学)

大阪府出身. 銀行員. 東京科学大学博士課程在籍. 専門は位相的データ解析. 数理科学…

ぶらっくすわん(金融×数理科学)

大阪府出身. 銀行員. 東京科学大学博士課程在籍. 専門は位相的データ解析. 数理科学, 金融, 経済, 行政などをテーマに配信!

記事一覧

【統計学】トレンドがある時系列データの相関係数に騙されるな!

1.概要 2つのデータセットの関係性を知るうえで、相関係数は便利な道具である。  相関係数は計算が簡便で、分かりやすそうな統計量である反面、使い方次第では分析者を容…

【金融】日銀利上げ決定(2024/7/31)

1.はじめに 2024年7月31日、日本銀行は金融政策決定会合で追加利上げを決定した。  本記事では、その要旨について解説する。 2.今回の日銀会合の要点 日本銀行は金融…

【統計学】データサイエンティストについて思うこと ~嘘、大嘘、そして統計~

 ビッグデータの利活用の機運が高まったことにより、データサイエンティストと呼ばれる人たちが2010年代以降急増した。  彼らの役割は、ビジネス上の課題等を定量的な問…

【会社紹介】数学で新しい料理を作り出す(Boozer Intelligence株式会社)

会社紹介(Boozer Intelligence株式会社) 2023年11月、Boozer Intelligence株式会社が創業した。同社のモチベーションは、数学の力によって新しい料理やカクテルを創出した…

プログラミングの環境構築は嫌いなことの3本の指に入る。プログラミングのエラーなら対処できるが、環境構築の段階でエラーを吐かれてしまうと苛立ちを通り越して全てのやる気を吸い取られてしまうのだ。せめてエラーメッセージを具体的かつ分かりやすいものにしてほしいものだ。

【経済】コストプッシュインフレとは何か

1.はじめに 本記事では、コストプッシュインフレの概要と金融政策との関係性について概説する。 2.コストプッシュインフレの概要 コストプッシュインフレとは、生産要…

【数学】位相幾何学とは何か

1.はじめに 本記事では、数学の一分野である位相幾何学(トポロジー)とはどのような分野なのかを紹介する。 2.位相幾何学の基本となる概念 位相幾何学は幾何学の一分野…

【金融】銀行の部署と仕事

1.はじめに 本記事では、銀行の主要部署とそこで行われている業務について説明する。ここでは、預金・融資・為替の三大機能を担う普通銀行について扱うものとする。 2.…

【電子工学】キルヒホッフの法則とグラフ理論

1.はじめに 本記事では, 回路解析への入門として, 電気回路における重要な法則であるキルヒホッフの法則とグラフ理論の関わりについて扱う.   グラフ理論におけるグラフ…

【行政】第一線公務員の裁量とジレンマ

1.はじめに 本記事では、第一線公務員における裁量とジレンマについて解説する。 2.第一線公務員の裁量とジレンマ 第一線公務員はストリートレベルの公務員ともよばれ、…

【体験談】文系から理数系への転身

1.はじめに 本記事では、文系から理数系に転身した筆者の体験談を綴ってみようと思う。 2.文系学部から理数系修士課程へ 筆者の学部時代の専攻は政治経済学系であったが…

【哲学】ヘーゲルの芸術論

 ギリシャから綿々と伝わってきた、背後世界の存在を前提条件とするような発想の仕方は、18世紀後半から19世紀にかけて活躍したドイツの思想家、哲学者であるヘーゲルによ…

【哲学】映画芸術論

 シネマ(映画)というものは、娯楽性をもつと同時にアートへの可能性をもつ。娯楽性については特筆することでもなかろう。ところが、娯楽を超えて、閉じられている背後世…

【哲学】科学とは何か

 そもそも科学とは何なのか。これは科学哲学における重要な問いの一つである。  色々観点はあるが、反証主義の代表たる20世紀の科学哲学者Popperによれば、ある対象が科…

【数学】ボホナー積分の定義

1.はじめに 本記事では、函数解析におけるボホナー積分(Bochner Integral)について扱う。  ボホナー積分は函数解析の基本的な教科書ではなかなか見かけない、数学的にや…

【金融工学】なぜ対数収益率が使われるのか

1.はじめに 金融工学では、金融資産(株式など)の収益率(return)という概念がよく扱われるが、その際、対数をとった収益率が用いられることも多い。  本記事では、収益…

【統計学】トレンドがある時系列データの相関係数に騙されるな!

1.概要 2つのデータセットの関係性を知るうえで、相関係数は便利な道具である。  相関係数は計算が簡便で、分かりやすそうな統計量である反面、使い方次第では分析者を容易に誤った解釈へと導きうる。  本記事では、トレンドがある時系列データの相関係数を計算するとどのような特徴が現れるのか、検証する。 2.検証 Excelでランダムに発生させた以下の時系列データ(変数1、変数2)の相関係数を計算すると、0.01であった。  次に、先ほどの変数1と変数2に同じトレンド項を加えること

【金融】日銀利上げ決定(2024/7/31)

1.はじめに 2024年7月31日、日本銀行は金融政策決定会合で追加利上げを決定した。  本記事では、その要旨について解説する。 2.今回の日銀会合の要点 日本銀行は金融政策決定会合を開き、今後の金融市場調節方針と長期国債買入れ計画の変更を発表した。公開された資料には、経済と物価の見通し、短期金利の引き上げ、長期国債買入れの減額計画についての詳細が示されている。以下、その要点をまとめる。 2.1 金融市場調節方針の変更 2.1.1 経済・物価の見通し  日本銀行は、経済

【統計学】データサイエンティストについて思うこと ~嘘、大嘘、そして統計~

 ビッグデータの利活用の機運が高まったことにより、データサイエンティストと呼ばれる人たちが2010年代以降急増した。  彼らの役割は、ビジネス上の課題等を定量的な問題に落とし込み、様々なデータを手掛かりにその問題の解を求めることにある。  データ分析といっても、分野によってかなり要求レベルの差がある。単純に箱ひげ図を作るだけで済むようなものもあれば、時系列解析のような高尚な数学が必要なものまである。  それでいうと、筆者は時系列解析を扱うことが多く、自身でモデル開発をするこ

【会社紹介】数学で新しい料理を作り出す(Boozer Intelligence株式会社)

会社紹介(Boozer Intelligence株式会社) 2023年11月、Boozer Intelligence株式会社が創業した。同社のモチベーションは、数学の力によって新しい料理やカクテルを創出したい、という想いにある。  実際、同社が開発した数学的アルゴリズムでは、美味しい料理となる食材の組み合わせの抽出が可能であり、既に食料品メーカーとの新商品開発に着手しているとのことだ。  顧客が抱える課題を数学的問題として再定義し、あらゆる数学を駆使して解決に導く同社の守備

プログラミングの環境構築は嫌いなことの3本の指に入る。プログラミングのエラーなら対処できるが、環境構築の段階でエラーを吐かれてしまうと苛立ちを通り越して全てのやる気を吸い取られてしまうのだ。せめてエラーメッセージを具体的かつ分かりやすいものにしてほしいものだ。

【経済】コストプッシュインフレとは何か

1.はじめに 本記事では、コストプッシュインフレの概要と金融政策との関係性について概説する。 2.コストプッシュインフレの概要 コストプッシュインフレとは、生産要因のコストが上昇し、それが商品やサービスの価格に反映されることで物価が上昇する現象のことをいう。  生産要因の中で特に重要なのは、原材料や労働力の価格の変動である。原材料価格や賃金の上昇が企業の製品やサービスの生産コストを押し上げ、企業はこれを消費者に転嫁するために価格を引き上げようとするわけである。 3.金融

【数学】位相幾何学とは何か

1.はじめに 本記事では、数学の一分野である位相幾何学(トポロジー)とはどのような分野なのかを紹介する。 2.位相幾何学の基本となる概念 位相幾何学は幾何学の一分野で、空間の形状や性質に注目する。特に、対象の形が変形しても同値であると見なすことで、「空間に穴が空いている」といった形状の特徴を捉えようという発想に基づくものである。言い方を変えれば、体積や曲率といった詳細な情報をある程度無視してでも、本質的な情報を取り出そうとする分野である。よく例示される、「ドーナツとマグカ

【金融】銀行の部署と仕事

1.はじめに 本記事では、銀行の主要部署とそこで行われている業務について説明する。ここでは、預金・融資・為替の三大機能を担う普通銀行について扱うものとする。 2.銀行の部署と業務 銀行によって組織体系は異なるが、主に以下のような部門に大別され、各部門の中に部・室・課・係等が存在する。  尚、以下で示す部署名は一例である。 (1) 支店  ネット銀行専業でない限り、通常銀行は各地に支店を有する。支店の中には窓口業務を担うサービス課の他、外回りで法人・リテール営業(RM)

【電子工学】キルヒホッフの法則とグラフ理論

1.はじめに 本記事では, 回路解析への入門として, 電気回路における重要な法則であるキルヒホッフの法則とグラフ理論の関わりについて扱う.   グラフ理論におけるグラフとは, ある「点」とそれにつながる「辺」から構成される幾何学的対象のことをいう.  グラフ理論は, モノとモノのつながりの情報に注目し, そこから様々な性質を分析できる特性やコンピュータ処理との親和性の高さから, 数学的基礎研究のみならず, 回路解析やコンピュータサイエンス, 社会ネットワーク分析, 路線図問題

【行政】第一線公務員の裁量とジレンマ

1.はじめに 本記事では、第一線公務員における裁量とジレンマについて解説する。 2.第一線公務員の裁量とジレンマ 第一線公務員はストリートレベルの公務員ともよばれ、教職員や地域警察官、生活相談員のように現場で市民と直接対峙する業務を中心に担っている公務員のことを言う。  この第一線公務員は、行政学において裁量余地の観点から扱われることが多い。  行政を担う公務員は、選挙によって民主的に選ばれた者ではないため、大きな裁量を与えられることなく法令等で定められた手順に沿って粛々と

【体験談】文系から理数系への転身

1.はじめに 本記事では、文系から理数系に転身した筆者の体験談を綴ってみようと思う。 2.文系学部から理数系修士課程へ 筆者の学部時代の専攻は政治経済学系であったが、学部1年生の秋に社会工学という文理融合系の分野に興味をもち、その分野を学ぶことをモチベーションに、集合論や位相空間論、微分積分学、線型代数学、複素関数論といった工学系の1、2年生程度で学ぶような基礎的な数学の独習を始めた。  学部2年生以降はルベーグ積分論や抽象代数学などの数学科向けの教科書も少しずつ読むように

【哲学】ヘーゲルの芸術論

 ギリシャから綿々と伝わってきた、背後世界の存在を前提条件とするような発想の仕方は、18世紀後半から19世紀にかけて活躍したドイツの思想家、哲学者であるヘーゲルによって典型的な形で提示された。典型的な背後世界の存在を前提条件とする立場が出てきたのだ。このヘーゲルの発想の仕方は19世紀の後半になってくると、前つ方のものであるとされるようになる。つまり、ヘーゲル的世界は崩壊していったのである。  では、ヘーゲルは芸術をどのように捉えたのだろうか。彼は、背後世界の存在を前提とした

【哲学】映画芸術論

 シネマ(映画)というものは、娯楽性をもつと同時にアートへの可能性をもつ。娯楽性については特筆することでもなかろう。ところが、娯楽を超えて、閉じられている背後世界に対するノスタルジックな気分が生まれてくることがある。アートへの可能性のようなものをすぐに人間は思いつくものである。アートへの可能性というのは、シネマを“向こう側の世界”への超越的な作用として捉えることであり、シネマはその誕生と同時にその宿命性も持ち合わせるのである。  結局、シネマとは何であるのかを考えるにあたっ

【哲学】科学とは何か

 そもそも科学とは何なのか。これは科学哲学における重要な問いの一つである。  色々観点はあるが、反証主義の代表たる20世紀の科学哲学者Popperによれば、ある対象が科学である条件は「反証可能性」を有するかどうか、なのだという。  この反証可能性とは、「真偽を検証可能であるかどうか」というものであり、偽である可能性を一切認めない言説や、検証可能でないような記述、説明は反証可能とは呼ばず、非科学に分類されるのである。  もう少し平易に言えば、反証主義の立場によると、科学とは間

【数学】ボホナー積分の定義

1.はじめに 本記事では、函数解析におけるボホナー積分(Bochner Integral)について扱う。  ボホナー積分は函数解析の基本的な教科書ではなかなか見かけない、数学的にややマニアックな概念ではあるが、モチベーションのひとつとして、ランダムな函数をデータとして取り扱う函数データ解析とよばれる分野においてよく用いられている。  尚、和文による解説は少なく洋書にはなるが、より詳しく学びたい方には参考文献[1]をおすすめする。 2.ボホナー積分 バナッハ空間$${\mat

【金融工学】なぜ対数収益率が使われるのか

1.はじめに 金融工学では、金融資産(株式など)の収益率(return)という概念がよく扱われるが、その際、対数をとった収益率が用いられることも多い。  本記事では、収益率の対数をとるモチベーションについて直感的に解説する。 2.収益率と対数収益率[1] 時刻$${t}$$における金融資産$${S}$$の価格を$${S_t}$$とする。  このとき、時刻$${t}$$における収益率$${R_t}$$は、$${R_t=\frac{S_{t+1}-S_t}{S_t} }$$で与