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【数学】ボホナー積分の定義

1.はじめに

 本記事では、函数解析におけるボホナー積分(Bochner Integral)について扱う。
 ボホナー積分は函数解析の基本的な教科書ではなかなか見かけない、数学的にややマニアックな概念ではあるが、モチベーションのひとつとして、ランダムな函数をデータとして取り扱う函数データ解析とよばれる分野においてよく用いられている。
 尚、和文による解説は少なく洋書にはなるが、より詳しく学びたい方には参考文献[1]をおすすめする。

2.ボホナー積分

 バナッハ空間$${\mathbb{X}}$$上で値をとる測度空間$${(E,\mathscr B,\mu)}$$における函数$${f}$$が与えられているとする。
 このとき、特に$${\mathbb{X}= \mathbb{R}}$$の場合においては、高々有限個の値をとる単函数の極限として定義されるルベーグ積分$${\int f d \mu}$$がよく知られている。
 では、この積分を一般的なバナッハ空間の場合において拡張することを考えよう。結論から言えば、一般のバナッハ空間において拡張された積分概念はベクトル積分(vector integral)と呼ばれ、様々な方法で構築することができる。
 そしてこれは特に、函数データ解析(FDA; Functional Data Analysis)の文脈における、ヒルベルト空間のランダムな元に対する平均と共分散作用素の定義において重要となってくる。

定義2.1(単函数)
 関数$${f:E→\mathbb{X}}$$は、有限の$${k}$$、$${E_i \in \mathscr{B}}$$、$${g_i \in \mathbb{X}}$$に対して、$${f(\omega)=\sum_{i=1}^{k}I_{E_i}(\omega)g_i}$$と表されるとき、単函数(simple function)であるという。

定義2.2(ボホナー積分)
 任意の$${i}$$に対して$${\mu(E_i)<\infty}$$である単函数$${f(\omega)=\sum_{i=1}^{k}I_{E_i}(\omega)g_i}$$を可積分であるといい、$${f}$$のボホナー積分(Bochner integral)は互いに素である$${E_i}$$を用いて、$${\int_{E}fd\mu=\sum_{i=1}^{k}\mu(E_i)g_i}$$で定義される。

 上記の定義は、$${E}$$から$${\mathbb{X}}$$への一般的な測度函数に拡張される。

定義2.3(ボホナー積分の一般化)
 可測函数$${f}$$は、単函数の列であり、かつ$${\lim_{n \to \infty}\int_{E} \| f_n-f \| d\mu=0}$$を満たすようなボホナー可積分函数の列$${\{ f_n \}}$$が存在するとき、ボホナー可積分であるという。
 このとき、$${f}$$のボホナー積分は、$${\int_{E}f d \mu=\lim_{n \to \infty}\int_{E}f_n d \mu}$$として定義される。
 
 尚、可測函数$${f}$$がボホナー可積分であれば、$${\| \int_{E} fd \mu \| \leq \int_{E}\|f \| d \mu }$$が成り立つ。また、上記の定義を単函数$${f_m - f_m}$$において適用すれば、不等式$${\| \int_{E}f_nd \mu - \int_{E}f_m d \mu \| \leq \int_{E} \| f_n-f_m \| d \mu}$$が成り立つ。
 この上界はまさにルベーグ積分であり、三角不等式によって、$${m,n \to  \infty}$$で$${0}$$に収束する$${\int_{E} \|f_n-f_m \|d \mu \leq \int_{E} \|f-f_n d \mu + \int_{E} \|f-f_m \| d \mu}$$が保証される。
 このことから、$${ \{ \int_{E}f_n d \mu \}}$$はコーシー列であり、また、$${\mathbb{X}}$$の完備性によって$${\int_{E}f d \mu=\lim_{n \to \infty}\int_{E}f_n d \mu}$$の極限が存在しなければならないということがいえる。

参考文献

[1] T.Hsing, R.Eubank, Theoretical Foundations of Functional Data Analysis, with an Introduction to Linear operators, Wiley&Sons(2015). 


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