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【加速主義入門】加速主義の関連文献まとめ

2018年夏に日本に紹介された加速主義は、雑誌『現代思想』の2019年6月号で特集を組まれるなど注目を集めつつある。加速主義はポスト・トゥルースやシンギュラリティ、新自由主義といった問題について考える上で示唆に富む議論を展開している。また、近年注目される哲学である思弁的実在論への影響も与えた。

私は今年に入ってから加速主義についての議論を追い始め、一通り重要に思われる書籍、雑誌、WEB記事をチェックできたので、ここで一言コメントとともに文献をまとめた記事を書くこととした。浅学ゆえ、もしかしたら重要な文献の漏れがあるかもしれないが、これから加速主義の議論を追いたいという人の参考になれば幸いである。

なお、加速主義はリバタリアニズムと共鳴する右派加速主義と呼ばれる系統と、社会民主主義や共産主義と共鳴する左派加速主義と呼ばれる系統に分けることができるので、その観点からもコメントを記した。

とりあえず何を読めばいいのか

1. 木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義:現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』
2. ニック・スルニチェク アレックス・ウィリアムズ著、水嶋一憲 渡邊雄介訳「加速派政治宣言」『現代思想』2018年1月号 特集=現代思想の総展

この二冊を読めば大体加速主義の雰囲気をつかめるのではないだろうか。

書籍・雑誌記事

マーク・フィッシャー著、セバスチャン・ブロイ 河南瑠莉訳『資本主義リアリズム』

加速主義に関連した書籍で私が最初に読んだのはこの『資本主義リアリズム』である。加速主義に関係なく、現代社会・経済を取り扱った本として読んでも興味深い。加速主義的な資本主義のプロセスを加速させるといったコンセプトを中心に書かれているわけではないが、加速主義の前提となる新自由主義による行き詰まった社会・経済についての認識を理解するには良い本だと思う。あとがきも加速主義を日本社会に照らし合わせて考える上でとても参考になる。

木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義:現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』

加速主義に関連した書籍としておそらく現在最も有名なものではないだろうか。この本では加速主義の発端となったニック・ランドの活動や思想が主に扱われている。ニック・ランドは右派加速主義であるので、右派加速主義的な思想が中心となる。しかし、左派加速主義もニック・ランドの思想から派生したものであるため、左派加速主義を含め加速主義を理解する上では重要な文献。ちなみに、各ページの余白部分が黒塗りされているのでかっこいい。

ニック・スルニチェク アレックス・ウィリアムズ著、水嶋一憲 渡邊雄介訳「加速派政治宣言」『現代思想』2018年1月号 特集=現代思想の総展

左派加速主義を理解する際に重要になるのがこの「加速派政治宣言」である。「加速派政治宣言」は新自由主義による格差の拡大の解消といった左派的なテーマについて、テクノロジーやサイバネティクスによる解決策を提案する。『資本主義リアリズム』において示された問題に対してどういうアプローチを取ればいいのかという指針を示しているのが「加速派政治宣言」と位置付けることができるだろう。

『現代思想』2019年6月号 特集=加速主義

『現代思想』の加速主義についての特集。千葉雅也、河南瑠莉、セバスチャン・ブロイ、仲山ひふみによる討議「加速主義の政治的可能性と哲学的射程」は一歩引いて加速主義を捉える視点で展開され、哲学思想一般の視点からの評価を知ることができる。私はまだ全て読めていないが、「暗黒啓蒙」の一部の訳も掲載されているなど、興味深いテクストが多く収められている。

木澤佐登志『ダークウェブ・アンダーグラウンド:社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』

第5章で4chなど英語圏のインターネットカルチャーやミソジニー、フェミニズムといった文脈からニック・ランドの思想や加速主義について紹介されている。後述する現代ビジネスの記事と被っている内容もあるため、さっと加速主義の内容を確認したいという場合は、どちらか一方を読めば問題ないように思う。

WEB記事

樋口恭介「【備忘】加速主義覚え書き」

https://note.mu/kyosukehiguchi/n/n766c5f0a0c2c

加速主義について要点がまとめられていて、加速主義に関する議論の全体像を把握できる。なお、この記事は樋口恭介が加速主義思想の勉強会に発表したものなのだそう。

Mal d’archive

「オルタナ右翼の源流ニック・ランドと新反動主義」(http://toshinoukyouko.hatenablog.com/entry/2018/08/24/230418
「人工知能はロシア宇宙主義の夢を見るか? ――新反動主義のもうひとつの潮流」(http://toshinoukyouko.hatenablog.com/entry/2018/09/15/211236

木澤佐登志のブログ。日本への加速主義の本格的な紹介は「オルタナ右翼の源流ニック・ランドと新反動主義」がバズったところから始まる。『ニック・ランドと新反動主義:現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』と被る内容も多いが、日本で加速主義が注目されるきっかけとなった記事であるため、目を通しておくと良いかもしれない。

木澤佐登志による現代ビジネスの記事

https://gendai.ismedia.jp/list/author/satoshikizawa

トランプやアメリカの反リベラル的ムーブメント、ヴェイパーウェイブと呼ばれる音楽について、加速主義の絡めながら紹介・考察している記事。アメリカのインターネットカルチャー的面から加速主義を考えていく上では参考になる。

晶文社スクラップブック

http://s-scrap.com/

木澤佐登志による連載「ビューティフルハーモニー」と綿野恵太による連載「オルタナレフト論」があり、それぞれエッセイ調ではあるが、加速主義の議論を踏まえたものとなっている。

江永泉「著者と読む『ニック・ランドと新反動主義』読書会」

https://note.mu/imuziagane/n/n8ace6af18729

ひでシス、木澤佐登志、江永泉による読書会の記録。読書会とあるが、本の内容をそのままなぞるというわけではなく、本を基に各参加者の視点からの自由な議論が展開されている。記事は『天気の子』の感想から始まり、その感想を踏まえると、加速主義の発想と『天気の子』コンセプトが似ているように思えてくる。

これ以外にも加速主義を扱った文献はあるが、今回は加速主義を理解する上で是非とも抑えておきたい日本語文献というコンセプトでリストを作った。日本における加速主義に関する議論はこれから盛んになっていくと思われるので、ここで一度加速主義についての文献を読んでみてはいかがだろうか。

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