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うみになりたい




夏の夜 うみをみていた

まっくろ 波の音だけがさらさら流れる
かなたで雷光がはじけて 
その一瞬、かすかに世界の奥行きがわかる
光の真芯の白
わきたつ雲の墨汁いろ
夜の宇宙の青ざめた漆黒
そのあいだをつないで滲む、黒と青のあいだ

光がやめばまた なにもわからなくなる
なにもわからなくなりたい
このどこまでもつづくおおきなからだに
溶けだしていっしょになってしまいたい

ひろいひろい、太平洋になりたい


でもなれなかった
なる勇気がなかった きっとその資格もなかった








夏の午後やはり うみをみていた

ひろすぎる太平洋 茫漠とした群青
そらは薄い雲とかすみですこし、にごった水いろ

ふたつはとおくで、ぼんやり溶けあう
水平線などない
境目なんてない
どちらであるのか名付けようのないところがあって
気がつくともうどちらかになっている

左手のほうから
ふさふさした緑をのせて、大地がのびてくる
うみのおなかのほうで
しろい波がひと筆のびている
筆先は 波のしぶき色にひかる船のかたち
青を切り裂いてすすんでゆく

色彩も輪郭も パステルに滲んでいる
ぼんやりする ぼんやりしていたい
どちらであるかなんてはっきりしていたくない
どちらでもあって、どちらでもないし
ずっとあいまいでいたい


あの青になりたい




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