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【日々】やや群青|二〇二三年五月
二〇二三年五月十五日
前日に届いた、こんどのイベントで売るミニ本の出来あがりがよくて、何度も手にとってしまう。装丁がおもっていたよりずっとうまくいった。新潮文庫風のなかみ。
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つい遅くまでポケモンで遊ぶ。画面の向こう側にしかいない仲間たちだけれど、確かにいっしょに旅をしている。みんな愛おしい。
二〇二三年五月十六日
元気なみどり、パステルな青、ひざしとそれを受けてひかるせかいの白。さわさわと木々と髪を揺らす風。家の二階ではためく洗濯物たち。なんて気持ちいい。久しぶりな気がする、さつきばれ。
夜、週末のイベントにむけて、東村といつもの安酒で乾杯。どんなものであれ、なにかを自分たちの手で生み出そうとしているときのわくわくは何ものにも代えがたい。酔いを醒ましながらゆっくり歩く夜更けの道は、空気がすこしすずやかで気持ちがいい。
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二〇二三年五月十七日
電車を待つホームに、神田川からかすかに潮の香りに似たにおいが流れてくる。チノパンのおしりのあたりが汗ばんで気持ちが悪い。きょうはアイスコーヒーを買っていこう。
駅からの帰り道、右手から道路を渡ってきた女の子が目の前を横切る。彼女は路傍に立つちいさく紅い鳥居のほうへスッと歩み寄って、ていねいに手を合わせた。鳥居の奥には、ちいさなお社がある。いじらしいなあ。すてきだなあ。そうおもいながら、わたしはただ足早にその娘のわきを通り抜けて家路を急いでゆく。
二〇二三年五月十八日
夕方、疲れてきた頭をやすめるためにオフィスを出てあるく。商業施設のデッキにあるベンチに腰をおろすと、すぐ近くにみえている鉄道駅に次々やってくる電車たちがみえる。家路についているのであろう人たちで車窓は賑わいはじめている。日中すこし息苦しいくらいに熱をもっていた空気もすこし涼やかになって、きもちのよい肌触りでからだを撫でてゆく。少し離れたベンチには、いつもは大通りで客引きをしているであろうメイド姿の女の子がふたり、おやつをたべながら憩っている。飾りばねをふうわりたたんで羽根をやすめる、ことりたちみたい。
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二〇二三年五月二十日
先週、寝坊したせいで果たせなかったランチを。ズッキーニと玉葱のクリームパスタ。ハウスワインは白を選ぶ。こぢんまり、でもあたたかい店内にはひっそりと天使が舞っている。
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フラミンゴ柄のかわいい折り畳み傘をみつけたのでお迎えする。壊れてしまった先代の代わりを見つけられずにいたから、たすかった。またひとつ、すきな小物がくらしに増えてうれしい。
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二〇二三年五月二十一日
火照るアスファルトのにおい、どこかからただよってくる蚊取り線香のかおり。夏みたい。でも吸い込む空気はさわやかでのどごしが良い。
二度めの文学フリマは人ごみと安酒で得た重たい酔いを残してあっさり流れていった。酒の席で、同人誌の先達として仲良くしてくださるM氏が言った「小永先生も、下界におりてきたらどうですか」という言葉がのどのあたりにひっかかっている。書きたいものを書いたって面白がってはもらえない。けれどわたしには「売れる」ものをつくる戦略性もなければ、だれにも読まれなくても構わず路上で詩を売りつづけるようなストイックさも、ない。わたしは、どうしたいのだろう。
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